48・キムラサンが怪しい
あれからあかりは、野球の特訓をはじめた。特訓というと、ものすごく力強いイメージだが、これは違う。
いかにゆるーくボールを投げるかだ。
初めてボールを投げた時の被害は、的と木が3本だった。試しに全力で投げてみたらと言ったら、みんなにドン引きされた。
いつか誰もいないところで、こっそりやってもらおうと企んではいるけどね。
あかりが特訓をしている間、始めは付き添っていたけど、考えてみたら私、特にやることないのよね。なので、洗濯室に戻ることにした。
「ひかりちゃんから、手芸を奪う真似はしないって。……怖いし」
空気を読んだあかりの提案で、私は手芸を再開した。
洗濯室のメンバーと、パッチワーク講習会をやったり、繕い物の仕事をしたり。
その合間に、一度朝会で私の事情を説明した。もちろん、あかりがいない時に。
前世の兄であること。つまり、向こうの世界で死んでいること、それをあかりが知らないことを。
辺境の漢どもが、号泣した。
「「「任せろっ!お前の妹は、オレ達が守ってやるっ!!」」」
頼もしい言葉に、私も泣いてしまった。みんな、ありがとう。
その時にリナリアにも事情を説明した。
彼女は今、幽霊の偵察隊として、皆と訓練している。 その際の服装は、冒険者風にチェンジしてある。ようするに、高度飛行可バージョンなのだ。
「私も役に立つわよー」
と、かなり気合が入っている。お互い、忙しいのね。
そんな毎日を送っていて、ふと、気がついたことがある。
……キムラサンが、怪しい。
あいつが、大人しい。朝、ふらっと出掛けて、夕方ふらっと帰ってくる。
「何してたの?」
って聞いても、笑顔で答えない。
以前出掛けていたのは、バックダンサーを増やす為だと思っていたけど、まさか他にも何かしている?
無茶苦茶怪しい。
なので、リナリアに相談した。結論として、尾行することになった。
「忙しいのにごめんね」
「いいのよ。というか、あいつが何かしていると思うと、訓練に身が入らない」
「私も」
リナリアが上空から、キムラサンを尾行する。そして、到着した場所を、上空から戻ったリナリアに教えてもらう。そこへ突撃する。
そういう計画を立てていたのだけれど、失敗した。
「キムラサンが森に入ったら、どこにいるのかわからないっ!」
当たり前だった。
「あいつ、木だった。忘れてたわ」
「上から見たら、全部キムラサンやんけ」
2人で膝から崩れ落ちた。




