42・あかりに魔法を教えました
私達は、今後について話をまとめた。
まず、私は冒険者のエミとして、あかりの補佐にまわること。
聖女聖人様達が来たら、サラさんのことを頼むこと。
あと、私のメルヘン魔法については、キムラサンを見たから当分お腹いっぱいとのことだった。別にいいけど。
それから我々は、あかりが訓練している場所に移動した。あかりにはまずは魔法を使うことから始めてもらっているらしい。
「魔法がない世界なんて、考えられないよ」
「お前ら、苦労していたんだな」
2人に同情されて、何と言っていいのか迷った。そっちは新幹線なくて大変ですねとか、スマホもなくて泣いちゃうねとか、言っても理解できないもんな。
お互い、ないものねだりとはこのことね。私も魔法が欲しいけど、そのかわりに文明捨てろって言われたら、迷うもんね。
広場に到着すると、あかりが騎士の指導の元、魔法を発動していた。
「あかりが魔法少女になってる〜」
前世あかりが魔法少女のコスプレをしていたことを思い出す。
行方不明から半年経って帰ってきたあかりは、クラスの子達から疎遠にされて、学校を変えた経緯がある。
あの頃のあかりは、元気に振る舞ってはいたが、内面はひどく辛そうだった。
その頃、あの子が好きだったものが、アニメの魔法少女モノだ。もしかしたら、この経験のせいかもしれない。記憶は失われても、心に何か残るものなのかもしれないわね。
そんなあかりの手のひらから、水が出ていた。
「すごい〜、水芸にしか見えないけど、すごい〜」
「ひかりちゃん、喧嘩売ってる?買うよ?」
あかりから、殺気が飛んでくる。目は手のひらの水に集中しているけどね。水はゆらゆらと揺れて、不安定に見える。
「あっ、ほら、ひかりちゃんが声かけるせいだよ〜」
水が弱まって、やがて消えてしまった。
「ごめんなさいね。今日から私を師匠と呼ぶことを許してあげるわ」
「絶対ヤダ」
あかりがハムスターのように口を膨らませる。可愛いから許す。
ルカスとデレクが、あかりに魔法指導している魔導士の元へ向かった。こちらの事情を説明しているようだ。
「少し休憩にしよう」
ルカスの声に頷き、皆休憩場所へと移動した。近くの木陰に複数の椅子が置いてあって、小さなテーブルもある。側にいた騎士見習いらしい少年達が、コップを準備していた。私とあかりも側に寄って座った。
コップを受け取り、あかりに向ける。
「さあ、ここに水を注いでちょうだい」
「わかった」
あかりは右手を私のコップに向けた。
「ふんっ!」
掛け声と共に、右手から放出された水は、勢いよく私の顔面に降り注いだ。
「あ、あかりさん?」
「高度な要求するほうがいけないと思うの」
これ、魔王出る前になんとかなるのかな?
それと、
「あんたら、笑いを堪えられると余計辛いんだけど」
周りの奴ら、全員俯いて口元押さえているのよね。
先陣を切ったのはデレクだった。
「ごめん、無理」
「うん、無理」
ルカスもダメだった。2人が笑うと、周りも大声で笑い出した。
「んもー、ひかりちゃんのせいで笑われたー」
「被害者はここに」
自分を指差すけど、スルーされるのなぜよ。それを見て、あかりも笑いだした。
そして、それは涙に変わった。
「だって、どうしていいのか、わかんなくて」
「うん、だから、師匠になってあげるって言ったでしょ?」
「ひかりちゃんも魔法使えるの?」
「任せなさい。伊達にあかりより、先にこの世界にいないわよ」
あかりが私を見る。そうよ、この世界で苦労したのは、あんただけじゃない。
「双子の私が出来たのよ。あんたも大丈夫」
「うん、よろしくね。師匠」
あかりが笑う。
「それじゃあ、師匠の腕前を見せてあげるわ」
あかりのコップに水を注いだ。
「なんか、ひかりちゃんから出てる水だと思うと、飲むのヤダな」
「なんかすっごく失礼なこと、言われたわね」
と、それと一つ気になることが。
「ねえ、水がどこから出るか、考えたことある?」
「先生は、魔法使えば出るって」
そういうことか。
「私もなかなか魔法使えなかったのよね。でも考え方を変えてみたら、うまくいくようになったの」
もしかしたら、あかりも同じかもしれない。
「私も同じこと考えたのよ。自分の手から出た水飲むのヤダなって」
「まさかのまったくおんなじ見解」
「双子ねえ」
「だからね、大気から水を貰っているって、考えるようになったの。他の魔法も一緒よ。この世界から貰うの」
「世界……」
先程、水も滴るいい男になったから、風魔法で自分を乾かす。火魔法も混ぜて、ドライヤー状態にする。
「ほら、きれいに乾いたでしょ」
「ドライヤーじゃん」
「そうよ。あかりもできるようになったら、お風呂の後は苦労しないわよ」
「そうなの、ドライヤーないから困るのよね」
「それじゃ、もう一度やってみましょう」
そう言うと、私は両手のひらをあかりに向けた。
「あかり、私の手に手を重ねて」
「ん」
両手を重ねて魔力をゆっくり流した。
「私の魔力、わかる?」
「うん。そこは大丈夫。先生とも同じことやった」
そう、これは初歩の魔法の勉強。
「まずは魔法を感じること。これが魔力。それが自分の体中に流れていることを感じる」
「ん。魔力が体の中を流れている」
「そう、それを手のひらに集中させて」
私達の手のひらが暖かくなっていく。
「そこに大気から水分を分けてもらうの」
「よくわかんない」
「そうよね。でも学校で理科習ったでしょ?」
「うん、わかんない」
「そーだった。あかりは理科最悪だった」
「しょーがないでしょ」
プンスコ怒ってもな。そうね。
「空の雲はわかるでしよ」
「まあね」
「そこから雨が降るのはわかる?」
「わかるよー」
「うん、今から私達の手は、雲になる」
「雲をイメージするの?」
「そう、雲。上を見て」
あかりが空を見上げた。木陰はあるが、その先に青空が見えた。所々に雲も見える。
「雲から雨を降らすの」
「私は雲」
「そう、雲から水分をもらう」
次第に両手が湿っていく。じんわりと湿った手のひらから細かい水が降り出していく。
「雨だ」
「出来たじゃない」
「うん、雨だね」
きれいなシトシト降り注ぐ雨。
「でもさ、これ、綺麗なだけで、攻撃にはむかないんじゃね?」
「おおう、そうだったわ」




