4・狼に襲われました
森は背の高い木が多く、そのためまわりは昼間でも暗い。草花は少なく、道はないが比較的歩きやすい。苔むして、滑りやすいところもあるが。
服は早々に乾いて、とりあえず風邪で死亡のフラグは折れた。
「あとは、無事につけばいいけど」
一応警戒しつつ、先を急ぐ。走るのは早々諦め、今は歩いている。体力ないし。滑るし。おおっと。
歩きながら、これからどうすればいいのか、考えていた。
おそらく私が死んだことになるのは確定よね。
ガーデン伯爵領、次期領主は弟のラルフ。そしてその妻は、私の元婚約者。
私は運悪く事故死で終わりか。
正妻の産んだ長男がいるのに、身分の低い後妻が産んだ次男が相続するのは、世間的にはダメってことよね。様式美にこだわって、殺されるのは、困るわ。
「ま、簡単に殺されてあげませんけどね」
別に領主になりたかったわけじゃないし、このまま逃げて、幸せになればいいだけよん。
私が向かっているところは、隣国の辺境領スヘルデン。
噂では、300年前に魔王が降臨した場所だという。今も呪われた地だと言われているけど。
「そこなら隠れて住むことも可能かどうか」
逆に排他主義なら困るけど。
そんなことを考えながら歩いていたら、不意に静かになった。それまでは何かしら音が聞こえていた。鳥の鳴き声とか。
でも今は異様に静かだ。
「何かいる」
魔物かも知れない。
この世界には、動物以外に魔物が存在する。それこそ魔王がいた頃に現れたもので、魔王がいなくても存在することから、魔王は今も存在していて、いつか復活するのではと言われている。
これはまずいかも。
「め、メルヘン」
とりあえずメルヘンしておけば、いきなり殺されることはないよね。メルヘンの世界だし。
と、思っていた時期がありました。
突如後方から「がおー」という声とともに、もふもふした黒いやつに襲われるまでは。
「えええ、狼?」
「当たり」
「痛い痛い、噛まないでよ」
私の肩をカジカジ噛む狼を、ペリっと剥がして放り投げた。結構痛いんだけど。
狼は、私に投げられても、くるりと回転してふんわり着地した。
「がおー、食べちゃうぞー」
よく見たら、狼が5匹もいて、私を取り囲んでいる。
メルヘン魔法の光のサークル内にいる狼は、三頭身キャラになっているけど、サークルに入っていない狼は、リアルな姿のままだった。
「可愛くないわあ。これやばいんじゃない?ねえ、メルヘンの世界なら、私を襲わないんじゃないの?」
狼に問いかけても、答えてくれない。
ふと、自分の視界に点滅するものが見えた。右下に赤いランプの点滅が見える。
「これ、何かしら」
手でそこを押してみた。ステータス画面が現れた。
『現状;メルヘン(戦いモード)
ヘルプマークを押してね。』
ヘルプマークを押してみた。
『やあ、愉快なメルヘンの世界にようこそ。でも、優しい愉快な仲間たちだけじゃないんだよ。時には悪いやつも襲ってくるのさ。そんな時はね、あなたもメルヘンの世界の住人になりきらないと。一緒に歌って踊って、楽しい世界を作ってね』
「つまり、ミュージカルをやれと」
可愛い声で狼が私に近づいてくる。でも牙は可愛くなかった。先ほどの肩に手を当てれば、痛みがある。これは現実なんだと、メルヘン画面でも教えてくる。
「仕方ないわ」
深呼吸する。そして、両手を広げて狼に向かう。
「あーあー、私は不幸な子ー♫」
「チャウチャウ、お兄ちゃん♪」
「弟に殺されそうになってー、川に落とされたのー♩」
「それは、大変ねー♪」
「今までも苦労の連続ー、今はー、静かに〜暮らしたいのー♫」
「自由を求めて要るのねー♩」
「そおよー、自由よー♪」
ずんちゃずんちゃ、よそからも音楽が聞こえてきた。
「かわいそうなにいちゃんやー、見逃してやりいなー♪」
「まあ、そういうあなたは先ほどの木〜♫」
「身内に殺されるなんて、狼でもそんなことはないわよ〜♪」
「お願い〜見逃して〜♩」
「私は〜、みのがーすー♪」
じゃん。
「ありがとう、みなさん、私は自由〜♫」
みんなが手を振ってくれるのを見ながら、私はその場を全力疾走。
逃げた。
なんだろう、助かったけど、心が悲鳴をあげている。
「狼と木に同情される人生って」
泣けた。




