38・2人にお願いしました
速攻でやってきたキムラサンを見て、はじめは恐怖に慄いていたデレクとルカスだったけど、人間って慣れる生き物よね。
次第に『これ、どうなってる?』って、興味の方が優ってきてた。
「ねえ、これ、何?」
ルカスの素朴な疑問に私も頷く。
「それな」
「何、エミールもわからんのか?」
「いまだに固有スキルを使いこなしていないからねえ」
とりあえず3人で、キムラサンのダンスパフォーマンスを並んで見た。
キレッキレだった。
「んじゃ、話の続きしましょうか。呪いの話は後でね」
「助かる」
キムラサンは踊った後に、爽やかな空気を出して、去っていった。汗の代わりに光合成とかするのかしら。
こいつからマイナスイオン出てると思ったら悲しくなったけど。
「それで、私の話しだったわよね。とりあえず、殺されかけて前世思い出して、ここでお世話になっている。で、いいかしら」
「ああ、細かいところは後で」
ルカスが頷く。
「それじゃあ、今度はそっちの番ね」
「さっきも少し話したが、身分を隠さないと留学できなくてね。デレクはそのままだけど、私は商人の息子という設定で留学していたんだ」
「まあ、仕方ないわね」
「本当にすまない。いつか話したいとは思っていたんだが、帰国してからとにかく忙しくて」
そう言われると、疲れた顔しているわね、2人とも。
「その仕事の一つが、魔王ってこと?」
「本当は、私の兄である第二王子の仕事なんだよね」
はあと、深い溜息をついて、ルカスがテーブルに突っ伏す。
「その兄はどこにいるの?」
「一緒に来ているけどね。部屋に篭りっぱなしなんだ。全部我々に仕事をさせて、美味しいところだけ持っていくつもりなんだろうよ」
「うわ、最低」
「いつものことなんだよね」
「お互い兄弟運がなかったのね」
私も義弟を思い出して溜息をついた。
あと、一つだけお願いしなくちゃ。
「勇者のことなんだけど」
「ああ、エミールの前世の妹だっけ?」
「一つ頼みがあるのよ」
「何?」
私はメルヘンと唱えて、また前世のひかるの姿に戻った。
「あの子には、私も転移してきたってことにしてほしいの」
「ああ、そういうことか」
「勇者は、エミールが生まれ変わっているってこと、つまり前世の君が死んだことを知らないってことか?」
「そうよ、デレク。あの子は15歳の時に半年間行方不明になっていたの。今の年齢も同じ。つまり、行方不明だった半年が今ということね」
「その時は、前世の君は生きていたんだろう?」
「そう、私が死んだのは18歳。それにね、あかりは帰ってきたとき、行方不明だった時の記憶を失っていたの」
「そうなのか。いや、王家に伝わる勇者召喚の儀で、勇者を召喚して魔王を鎮めてもらったあとは、キチンと送り帰している。だがその際、記憶を構うことはないはずだ」
「別に隠すこともないからなあ」
「そうよね。勇者召喚されていましたって周囲に言ったら、生暖かい目で見られるだけだもの」
あの時のあの子は、まったく覚えていなかった。隠し事ができる子じゃないし。
「我々が知らなかっただけの話で、代々勇者は記憶を失っていたのかもしれないな」
「そうだな」
それはある意味切ない。自分が何を成し遂げたのか、どんなに苦労したのか、自分の成果をまったく覚えていないなんて。でも、覚えていたくないこともあったのかもしれない。
「前世の姿になっていたのは、アッコンチ侯爵んちにバレたらやばいから、変装してただけなんだけどね。でも、それでよかったのかもしれない」
「悲しませたくないか…」
「うん」
「でも、名前はどうする?偽名があっても、俺は絶対間違える自信はある」
デレクが自信たっぷり言ってる。まあ、私も人のことは言えないし。
「今はエミって名乗っているわ。冒険者登録名よ」
「それなら大丈夫か。何年か前にこっちに転移してきて、冒険者としてここに住んでいると。そういう感じか?」
「そうね、そこら辺は謎の魔法使いって設定でいけたらいいわね」
ちょっとカッコつけてポージングしてみた。2人が生暖かい目で見てくる。
「エミなら、異世界で勇者していましたって言っても、みんな受け入れてくれそうだな」
「そうね、間違いなく」
「「否定しないんか」」




