36・少し怒りました
元々温厚な性格だと思っている。前世も、今もね。
だけど、ちょっとオコになると、怖いねって言われたことがある。
「ねえ、ルカス。ああ、王子様だったっけ?デレクはまんま騎士なのね。ねえ、どういうこと?」
「まままままあ、落ち着いて、エミール。君が怒るとほんと怖いんだから」
ルカスが両手をブンブン振って、私を宥めようとしていた。
仕方ない。はあああとため息をついて、立ち上がりかけていた腰を元の椅子に戻す。
「長い話になりそうね」
デレクもふううと息を吐き出した。
「そうだな。ゆっくり話そう。他の者に、ここには来るなと伝えておこう」
そう言うとデレクは部屋を出て行った。
「お茶でも淹れましょうか」
部屋に備え付けてあったカップとポットを持ってきて、自慢のお茶を注いだ。
「相変わらずだな」
「そう?色々大変だったのよ」
「そのようだな。こちらは死んだと聞いていたからね」
「え、そうなの?」
私ごとき末端の情報を王子様が聞いているなんて。
「辺境伯領に来た時に、最近の情報は確認している。その際、隣国のアッコンチ領の関係者が川で溺れてこちらに流されてきたとの報告を受けている。それが君だとも」
「そう。実際は簀巻きにされて川に落とされてね」
「犯人は?」
「私の義弟と婚約者」
「よく無事だったな。後その口調は」
「うん、そのことも含めて、全部説明するわ」
丁度デレクも戻ってきた。全員座ってお茶を飲む。
「久しぶりだな、これ」
「テオに送ってもらおうかと話していたところだ」
「テオに伝言を送ったとこなのよ。彼に逃げろって伝えてあるわ」
「どう言うことだ?」
そこから長い話をした。
「時系列で話すと、私が婚約者のアッコンチ領に招待されたとこからね。川で移動しますって船に乗せられて、そこで簀巻きにされて川に投げ込まれたのよ」
「よく助かったな」
「ええ、人間死にかけると本気になるというか目覚めるというか。その時、前世を思い出したの。それが勇者のあの子、あかりの兄ってこと」
「ああ、それで勇者を部屋から出したのか」
ルカスが気付いてくれた。
「そう。さっきの姿は、アッコンチ領の奴らに、私が生きていることを知られないための変装だったの。どうせ変化するなら、昔の姿に戻りたかったからなんだけど」
「もしかして、その口調は」
恐々デレクが尋ねる。
「これ、前世の癖なのよね。私は姉3人と妹の5人姉妹だったから」
「ってことは、前世は女性ってことか?」
「いやいやいや、男よ」
「「はあ」」
「環境ってやつ?生まれた時から、最強の女性たちと暮らしていたからねえ」
「さすが勇者の家族か」
「そう、最強」
「「はあ」」
「ねえ、1番聞きたかったことは、それってことないわよねえ」
「「多分間違いない」」
あんたらねえ。
「前世でもおんなじこと言われたけどね。私は私だし。というか、口調って本当にうつるものだからね」
「そこはわかったよ。で、どうやって助かったんだ?丁度他の船がいたのか」
ルカスが先を促す。
「前世を思い出したのはいいんだけどね。そのまま流されていたら先が滝壺って気がついて、慌てたわ。で、何かないかなと思っていたら、そういえば私の固有スキル、使えないかなと。なんて書いてあるのかわからなかったやつ」
「え、読めたのか?」
2人とも私の固有スキルが、使えないことを知っている。
「そう。『メルヘン』って書いてあったの」
だが、2人は顔を見合わせた。
「なあ、もう一回言ってくれるか?」
「ええ。『メルヘン』よ」
「デレク、聞こえたか?」
「いや、俺にもわからなかった」
「え、そうなの?」
ちゃんと言っているのに。
「エミールの固有スキルは、前世と関係があるのかも知れないな」
「私の固有スキルを知っている子がもう1人いるけど、その子も私と同じ前世持ちよ。その子が聞き取れていたから、みんなわかるものだと思っていたけど。そうなのね」
「で、具体的にどんなスキルなんだ?」
「説明は難しいわね」
キムラサンに会えば、一発で理解しそうね。
「簡単に言うと、私のイメージで周りが変化するって感じね。姿も変更できたでしょ?川で私を助けてくれたのは川魚なんだけど、それが大きくなって私を救ってくれたの」
「よくわからんな」
「でしょうね」
その時、私の耳元に声が届いた。
「伝言でーす」
「ああ、丁度よかった。メルヘン魔法をお見せするわ」
メルヘンと唱えると、光のサークルが現れ、3人を囲った。
「先ほどの光か」
「そう、これがメルヘンサークル。さて、妖精さん〜いらっしゃいな~♪」
「なぜ歌う?」
「これが、この魔法の使い方なのよう〜♩」
すると小さな光が複数現れ、徐々に手のひらサイズの人間に変わる。その背には透明な羽がついている。
「妖精さん〜伝言お疲れちゃ〜ん♩」
「帰ってきたど〜、まじお疲れちゃーん♩」




