表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
33/46

33・テオと妖精の師匠


(テオ視点)

 

 今日は店の仕事が早めに片付いたこともあって、()()に勤しむことにした。

 親父には悪いが、俺は店仕事よりも、魔道具を作りたいんだよな。超小型マジックバッグの改良もしたいし。

 あれ、エミール達にも好評だったし、それにもう少し容量を増やしたいよな。早く完成させて、ルカスとデレクにも送ってやりたいよ。

 

「でも、エミールはもういないんだ」

 

 先週、領地に訃報が入った。

 幼馴染で、学友で、冒険者仲間で。ここガーデン領の領主の息子のエミールが死んだ。婚約者の領地に行って、川に落ちて死んだらしい。

 

「鈍臭いよな」

 

 エミールらしい最後だった。

 で、後継者は弟のラルフになって、婚約者はスライド式でそのままラルフと結婚するらしい。

 

「はあ、ここにいる意味あんのかな」

 

 エミールが領地のために特産品を作りたいって言うから、一緒にお茶のブレンドもやった。

 だけど、その意味ももうない。


 冒険者をやったのは、学園の夏休みの時だけだが、大切な思い出だ。

 その時の仲間も。


 エミール、デレク、ルカス。楽しかった。

 そんな風に昔の仲間のことを思い出しながら、作業をしていた時だ。

 



 今日は少し暑くて、窓を開けておいた。

 外から何かが入ってきたのが視野に入り、てっきり虫だと思って近くの板を持ったら、

 

「叩かないで」

 

 と、そいつから声が聞こえてきた。

 

「え、喋った?」

 

 今まで作業をしていて、碌に前を見ていなかったから、急いで顔を上げた。そこにいたのは、小さな人だった。ただし羽がある、手のひらくらいの小さな生き物。

 

「もしかして、妖精?」

「当たり〜」

「おおお、すげー」

 

 妖精なんて初めて見た。

 そいつは俺の方に飛んできて、軽く頭を下げた。


「こちらテオさんのお宅で合ってます?」

「そう、俺がテオだよ」

「おお、会えてよかったっすわ〜」


 妖精が俺の周りをクルクル回った。可愛いな。

 

「んで、妖精が俺になんか用あるの?」

「へい、わしら、伝言を伝える仕事しているんですわ」

「いきなり現実的だな。んで、俺に伝言?」

「へい、エミールさんからです」

「エミールだって?」

 

 ガバッと勢いよく立ち上がって、身を乗り出す。妖精は驚いたようで、上空に避難していた。

 

「ごめん。でも、エミールだろ?あいつ、死んだって」

 

 そう、あいつは死んだと聞いた。婚約者の領地に行って、川に落ちて死んだと。

 だが、まさか、生きているのか?

 

「いえいえ、ピンピンしていますよ。彼は元気です」

「そうか、生きているのか。だよなあ、簡単に死なないよなあ」

 

 いや、奴のことだから、簡単に死んでもおかしくないと思っていた。

 

「エミールごめん、お前なら川に落ちて死んでもおかしくないと思っていた」

「否定できませんなあ」

「だよなあ」

 

 妖精もうんうん、頷いている。哀れだ、エミールが。

 

「で、エミールからの伝言って、何?」

「あ、そーでした。『私は殺されかけたけど、生きている。でも帰らない。これからガーデン領は、弟が継承する。だが背景にアッコンチ侯爵がついている。早めに逃げたほうがいい』です」

「あ、そういうこと…」

 

 読めてきたぞ。ということは。

 

「あのバカ弟、エミールを殺そうとしたのか」

 

 そして、エミールの婚約者の親であるアッコンチ侯爵が裏で手を回したと、そういうことか。

 

「ガーデン領は、もう落ちたな」

 

 終わったな、ここは。

 エミールも戻らないのなら、ここにいる必要もない。というか、逃げたほうがいい。

 

「わかった。伝言ありがとな。俺からもエミールに伝言頼めるか?」

 

 妖精は人差し指を立てて、ちちちと声をあげる。

 

「わしら、時給制でっせ」

「おお、商人妖精」

 

 ここから俺と妖精の戦いが始まった。

 

「負けて」

「いやいや」

「あと少し」

「甘いなー」

 

 伝言は、いつ終わるのだろう…

 

*****

 

 長い、長い戦いだった。

 

「はあー、にいちゃん、お茶出して。喉渇いたわい」

「ああ、そうだな」

 

 値切りの戦いを、俺はある戦術で終結させた。

 なので、勝利のお茶で潤いたい。お茶の支度をしようと立ち上がると、妖精もついてきた。

 

「エミールが出してくれたお茶が飲みたい。一緒に作ったって言ってた」

「そっか、あいつそんなこと言ってたのか」

 

 思わず笑みを浮かべる。

 

「すっごく美味しかったでえ〜」

 

 妖精は味を思い出したようで、夢見心地の表情で、クルクル回った。

 褒められて悪い気はしないよな。うん。

 お茶をカップに入れて、テーブルに置いた。自分の分は大きめのマグカップに入れて、ちびちび飲み始めた。

 妖精は魔法で飲む分だけ浮かして、口元に運んでいた。

 

「やっぱ、仕事の後のお茶は美味しいのう〜」

「そうだな」

「あとは、報酬を受け取って帰るだけやな」

「え?」

 

 妖精の目が光った。

 

「さっき支払いについては決まったじゃないか」

 

 そう、俺は必殺技を放った。

 『支払いは、エミールのツケで』と。妖精も「まあええか」って言ったのに。

 だが、妖精は勝ち誇った顔で、ふんぞりのけぞって、言い放つ。

 

「あんさん、甘いなあ。甘々のケーキみたいや。ええか、わしらがここまで来た報酬はな」

「ま、まさか」

「そうや、エミールが言ったんや。『テオのツケで』ってな!」

「お前もかーっ!」

 

 思わず膝から崩れ落ちる。エミールううううううう。

 はっ、ということは。

 

「ツケ返しは」

「あきませーん」

「そんなああ」

 

 許せねえ、こうなったら絶対エミールに会いに行ってやる。

 あ。

 

「そういえば、そもそも伝言料金っていくらなのか、聞いてないんだけど」

「エミールも聞かなかったわい」

「同類か」

 

 幼馴染だもんな。

 

「んで、いくらなんだ?俺、これから逃亡生活するから、控えめでお願いしたいんだけど」

「高いよ?」

 

 妖精が光の玉を手に持って、自分の顔を下から照らした。怖いぞ。

 

「ふっふっふ、よく聞くがいい。夜寝る時に、窓辺にこのお茶をカップに一杯入れて、置いておくのだ。それを、3日で許してやるのだ」

「は?」

「なんだ、これ以上はまけないぞ?」

「そ、それでいいんだ…」

 

 どれだけ高額なものをねだってくるのかと思ったら。どうやら妖精は、このお茶を本当にお気に召したらしい。それなら沢山用意することにしよう。

 

「あ、茶葉の比率だがな、***と###の量をこのくらい増やしたら、また一段と美味しくなるぞ」

「ええ、なにそれ、マジ、ほんと?」

「わしらを何だと思ってるのだ。毎日花と戯れているプロぞよ」

「へへーっ」

 

 勢いよく土下座した。

 そして勢いよく立ち上がり、言われた茶葉を用意して、ブレンドする。

 

「このままでも、香りが違ってきたのがわかる」

「さあ、入れてみるのだ」

 

 完成したお茶は、絶品だった。

 

「「うんまー」」

 

 俺は妖精と握手をかわした。ま、俺の指と妖精の両手だが。

 

「師匠、感謝いたします!」

「おお、弟子よ。これからも精進するのだぞよ」

 

 いつか妖精用のカップを作って、乾杯したいぜ。

 

*****

 

 気がついたら、朝だった。どうやら途中で寝てしまったようだ。

 妖精師匠はいなくなっていた。

 

 あれからエミールのことを詳しく聞いた。

 俺からも伝言を頼んだ。

 これから、忙しくなる。あいつのところに向かわなくては。

 出発は5日後にしよう。その間寝る前にお茶を出さなくてはな。

 師匠はエミールへ届ける伝言のためここにはもういないが、報酬は他の妖精が受け取るらしい。

 さすが師匠、アニキな妖精だな。

 

*****

 

 余談だが、テオは生涯、寝る前にお茶を窓辺に置くようになる。それは子孫も受け継ぐこととなった。

 時折茶器の横に、花が置いてあって、毎回茶は飲み干されているという。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ