30・友人のことを思い出しました
値切りの歌を歌いすぎて、私も妖精さん達も疲れたので、お茶会をすることになった。
カップとポットを借りてきて、水と火魔法で白湯を作って注ぐ。
一度白湯を捨て、マジックバッグから取り出したお気に入りの茶葉をポットに入れて、再度白湯を注いだ。茶器はあっためたほうがいいからね。
「みんなも飲んで。私のお気に入りの茶葉なの」
「もう、声が枯れて歌えませんがな…」
辛そうな妖精さんたちが、魔法でお茶を数滴分空中に浮かべた。それを各自の口元に運んで飲む。
「妖精さん用のカップが欲しいとこね」
「お茶、美味しい〜♪」
「ほんと、美味しいわ」
リナリアは幽霊だが、飲食も可能。喜んでいただけてよかったわ。
「それ、私の友達と共同開発したものなの。ガーデン領の名産にしたかったんだけどね」
「そっか。それじゃあ伝言頼んだ人って」
「そう、彼のこと。せっかく開発したのに、このままだと弟に全て奪われちゃうでしょ?だから、逃げろって連絡したの」
「エミの友達ってどんな人達なの?」
そう言われて、友達達の顔を思い浮かべた。みんなどうしているかしら。
*****
貴族は15歳になったら必ず通わなくてはいけないのが、貴族専用の学園。
専用とは言っても、平民もいる。ただし、金がある者と、あとは魔力があるもの。
魔力があるのに使い方を知らないと、トラブルの元だから、ここで修行するの。
貴族はそういった一部の平民と関わることで、平民に対する知識と経験を学ぶというわけ。
私と弟は同い年なので、同級生なのよ。
マウント大好きな弟は、他の同級生にいろいろ言うわけよ。あいつは使えない。ダメなやつだ。俺は確かに次男ではあるが、次期伯爵なのだと。
元々強気な性質。一応顔も悪くない。私の弟だし。オホン。強引ではあるが憎めないやつ。まわりにはそう認識されていった。
私は真逆でひ弱で大人しく、相手に逆らえない。マウント貴族社会としては、典型的にダメだったわけだ。
元々学園に行く前から、自分が後継者になれないのはわかっていた。だから、ここで沢山の知識と経験を得ようと思っていた。人脈も得て、就職先を確保しようと企んでいたわけよ。
幸いクラスは弟とは別と言うこともあって、のんびり過ごせたわね。クラスメイトには平民もいたし、隣国からの留学生もいたわ。そう、キールスからもね。
キールスの友人は2人いたの。
1人は子爵家の三男デレク。騎士になるために修行に来たって言ってたわ。
もう1人はルカス。デレクのコネでこちらに来たって言ってたわ。商人希望って言ってたけど、彼は商人って顔してないのよね。
だって、ポーカーフェイスが大の苦手だったもの。あれじゃあ、値切られそう。妖精に修業つけてもらったほうがいいかも。
後は、私の幼馴染。領地のマイヤー商会の息子のテオよ。
彼は商人になるために学園に来たけど、本当は魔法の勉強がしたくて来たの。親は後継にって思っているだろうけど、彼が目指したのは魔道具師だった。私と一緒に入学するってことで、親を騙してね。
まあ、いいわ。利用させてあげる。お互い楽しく学びましょう。
4人でずっと一緒にいたわ。
伯爵クラス以上だと普通は個室なんだけど、うちはパパがケチったせいで、私とテオは同室だったの。弟は個室だったけどね。
ルカスとデレクも同室で、私達の部屋とはお隣さんだったから、余計仲良くなったわね。
一緒に学んで、遊んで。
留学組は休暇もこっちにいるって言うから、みんなで冒険者登録して、冒険者として活動もしたのよ。
パーティ名がなかなか決まらなくて、喧嘩したわ。
*****
「俺は『暁の狼』がいいと思う」
「おい、デレク。お前さっきから『暁の』ほにゃららしか言ってねえぞ」
「私は『4羽のカラス』なんて…」
「エミールは黙ってて」
「はい」
「やっぱここはさー、強い動物とか魔物とかの名前をつけてさー」
「討伐対象の名前をつけてどうする」
我々は、冒険者ギルド内にある食堂で、パーティ名を決めていた。もちろん寮でも論議したのだが、どうしても決まらず、結局現地でも言い争っていたのだ。
「やはり『黄昏の剣王』とか」
「誰も強くないだろ」
「…うぷ」
誰かの吹き出す声で、周りを見回すと、食堂にいた他の冒険者達が笑いを堪えていた。
「4匹の猫…」
「もうだめだ」
私のトドメで全員が大爆笑しながら、テーブルを叩いている。散々笑った後で、隣のテーブルの冒険者が涙を拭きながら教えてくれた。
「いやあ、懐かしい。みんな同じことをするもんだな」
「俺は『黄金の羽』だったな」
「蝉かよってみんなにつっこまれたわ」
どうやらルーキーの冒険者は皆、かっこいい名前をつけようとする習性があるらしい。
「さっさと決めな。依頼を受ける前に日が暮れるよ」
我々を急かしたのは、食堂の女性だった。
「それなら女将が決めてやればいいじゃねえか」
「そ、それは」
「ほう、あたしが決めていいのかい」
4人で止めようとするが、まわりが囃し立てる声で届かない。
「そうだねえ、随分と毛並みの良い仔犬共だこと。それならあんた達のパーティ名は『4匹の仔犬』だよ」
「「「「はああああ?」」」」
「さっき、あんた達が言ってた名前もまぜておいたからいいだろ」
「4匹の…」
「「「エミールううう?」」」
「採用されたあああ!」
こうして我々、『4匹の仔犬』は、活動を開始した。
初心者パーティだから、薬草採取がセオリーなのに、デレクが納得しなくて困った。即魔物退治なんて、出来るわけがないのに。
それでいて薬草採取の途中で偶然魔物に遭遇して、真っ先に逃げたのはデレクだ。もちろん全員で逃げて、後で大笑いしたな。
楽しくて辛くて痛くて怖くて、そして最高の夏休みだった。
後で聞いた話だが、あの食堂の女将が名付けたパーティは、絶対死なないという。
ありがとう。
*****
卒業で、彼らは帰って行ったわ。
ルカスはまともな商人になれたのかしら。
デレクはまともな騎士になれたのかしら。
そもそも、2人とも就職できたのかしら。
テオは、親にカミングアウトして、結局店を手伝いつつ、地元の魔道具師に弟子入りしたのよね。
落ち着いたら、またみんなに会いたいわね。




