28・手芸店という楽園に行きました
リナリアに道案内してもらい、城下町に来た。街は活気に満ち溢れていた。
「思ったより人が多いわね」
「まだまだ増えるわよ。国が動き出しているもの」
そうね、魔王討伐のために、多くの戦士が必要になる。国の騎士はもちろん、多くの冒険者もやってくる。
「ってことは、冒険者ギルドも混雑しているでしょうね」
予想通り、冒険者ギルド前は、人集りが出来ていた。建物の前にはギルド職員とみられる人が、人員整理を行っていた。
「依頼受付の方は、右から、完了報告の方は左ですぅ〜」
「ごめん、それ以外はどっち?」
忙しくて涙目のギルド職員の女の子に声をかける。新人なのかな。淡いピンクの髪をツインテールにした、メガネをかけた女の子だ。
憂憂しいその子は、我々を見ると、表情を変えた。
「はあ?こんのくっそ忙しいときに、それ以外の要件だあああ?」
「あ、また今度にしますー」
夜叉顔のツインテールに背を向けて、我々は冒険者ギルドを後にした。うん。無理。
「そもそも、冒険者ギルドに何の用だったの?」
急いでその場を離れると、リナリアが尋ねてきた。
「冒険者ギルドで、ギルドカードのデータ更新をしたかったのよ。ほら、魔法も増えたし、顔も増えたし」
冒険者ギルドカードには個人情報が入っている。氏名等のプライベートな面や、魔法や技的なものまで。もちろん固有スキルも、である。
万が一、カードを紛失しても再発行が可能なのは、ギルドが個人を特定することができるから。そのためにも、カードの更新は重要なのだ。
「まあ、変身魔法を使える人もいるから、顔の登録もしておいたほうがいいかなと思ってね。あと、連絡を取りたい人もいるから、手紙の依頼もしたかったんだけど」
「それなら、依頼者ですって言えばよかったんじゃない?」
「うん、まあそうなんだけど、言える空気じゃなかったし」
「あの新人、絶対後で怒られるわね」
先に街の見物かな。
「それじゃあ、待望の手芸屋さんにレッツラゴー!」
「古いわよ、それ」
リナリアが案内してくれた手芸店は、アンティークな雰囲気漂う、小さな店だった。
「これ、ドールハウス好きにはたまんない外見ねえ」
前世のまい姉ちゃんがドールハウス作り大好きだったから、これを見たら大喜びしそう。少し感傷的な気持ちのまま、ドアを開けた。
「いらっしゃい」
店奥のカウンターから、高齢の女性が声をかけてきた。おおう、熟練ですぅ〜というオーラがぱねえ。
「お邪魔するわね…おおう、ここは夢の国ね」
「趣味って、見えるものを変換するのね」
リナリアのツッコミを無視して、私は店内をじっくり見てまわった。
布、糸、針、毛糸もある。あああ、手芸やりたい手芸やりたい手芸たやりたい。
「声ださないでね。みんなドン引きするから」
「こ、興奮して、心臓が止まりそうよ」
「私も不審者で通報されそうで、心臓ないけど止まりそうよ」
そうよ、少しは冷静にならないと。
「おほん、まずは自分用の裁縫道具が欲しいのよ」
「洗濯室にあるのじゃなくて?」
「そう、繕い物以外にも作りたいものがあるのよね」
今日はそのための買い物に来たのだ。お店のお姉さんに、いろいろ聞いてみよう。
「お姉さん、私今日は裁縫道具を買いにきたの。針と糸、糸切り鋏は必須ね。あと、ハギレはあるかしら」
「おやまあ、口の上手い、いい男だねえ。ハギレもいろいろあるよ」
お姉さんは、いろんな道具を見せてくれた。そのたびに声を上げてしまっていたけど、お姉さんがだんだん慣れてくれて、本当によかった。
かなりじっくり見せてもらったのに、嫌な顔せず売ってくれて、感謝しかないわ。
「お姉さん、今日は本当にありがとう。作品が出来たら見てもらってもいいかしら」
「もちろんよ、待ってるからね」
手を取り合って、きゃいきゃい話しながら、お店を後にした。
「リナリア、ありがとう。楽園に連れていってくれて」
「あー、なんか疲れた。何もしてないけど疲れたー」
「人の買い物に付き合うと疲れるもんね」
「今のお前が言うな」
「はい、すんません」
だ、だいぶ長いことお店にいたもんねえ。来た時より太陽の位置がかなり違うわ。
「か、帰ろっか」
「そーね。あ、冒険者ギルドは行かなくていいの?」
「うん、ちょっと考えがあるのよ」




