23・勇者というより王子ご一行様ご到着です
(辺境伯視点)
勇者が辺境伯領に来るという連絡が入ったのは、エミール達がここに来てから、一週間後のことだった。
ここ辺境伯領には、重大な任務がある。それ故に、ここには巨大な転移魔法陣がある。これを起動する場合、必ず相手側から連絡が来る仕組みになっている。
急に受け入れることは出来ないのだ。互いに攻めることのないように。
そして、ゲートは開かれ、勇者達がやってきた。勇者というよりは、王子達と言ったほうが正しいか。
「久しいな、辺境伯」
最初に入って来たのは、第二王子カッスールであった。
「これは、第二王子自らお越しになるとは。お役目ご苦労様です」
「当たり前よ。この世の危機に、私が動かずしてどうするというのだ」
機嫌良く笑う男を前に、辺境伯は口元だけの笑みを浮かべる。
「おお、第四王子もおいでか」
「叔父上、お久しぶりです」
第二王子の後ろに控えていた第四王子は、辺境伯の甥にあたる。辺境伯の妹は、王の側室である。
第一、第二王子の母は、正室。第三王子の母は、城の元メイドと聞く。
側室として王宮に上がったのは、たまたま辺境に遊びに来ていた王が、辺境伯の妹を見染めたのだというが。
「あいつは息災か」
「はい、とっても元気ですよ」
見染めたというより、妹の凛々しさに惚れたらしいが。
「早く休ませてもらえないか。立ったままというのが、辺境流のもてなしか」
身内の会話に、面白くなさそうな第二王子が割り込む。
「申し訳ない、この程度で疲れるとは思っておりませなんだ」
「私は正室の子だぞ、この私を蔑ろにする気か」
「さあ、こちらへどうぞ。まずはゆっくりお休みください」
エヴラールが間に入り、第二王子を誘導する。早くそうしろとブツブツ文句を言いながら、彼は部屋を出て行った。
「相変わらずだな。お前も大変そうだ」
「叔父上、あまり煽らないようにお願いしますね」
「へえへえ。ところで、勇者殿もご一緒と伺っているが…」
あたりを見回すが、此度ゲートを通って来たものは、見覚えのある者達ばかりだった。
だが、1人、見知らぬ者がいた。ずいぶん小柄だ。黒髪黒目。髪は少年のように短いが、どうやら少女か?
「君が勇者かい」
「はあ」
ぶっきらぼうな返事だが、目はしっかり辺境伯を見ていた。その目はこちらを警戒している。
「バカを見た後だと、すごく立派な勇者に見えるもんだな」
つい思ったままを口にすると、一瞬驚いた顔を浮かべていたが、次には笑顔になった。
「あいつにも、利用価値があったんだ」
「確かに」
ここには第二王子派はいなかったので、全員で笑った。
*****
その場にいた者全員で応接室に移動して、改めて挨拶を交わす。
今回来たのは、王子2名、勇者、他従者と騎士が数名。あと、侍女も1人。勇者殿の付き人だという。女性であるから、必要だよな。
「それで、そっちの状況は?」
辺境伯は挨拶もそこそこに、本題に入った。第四王子が答える。もちろんここに、第二王子はいない。
「まず、城の魔導士長が、魔王の存在を確認しました。その後、勇者殿を召喚した次第です」
「こっちでも、魔物の増加を確認している。間違いないだろう」
「そうですね。それで、この後の予定ですが」
王子がちらりと隣に座っている勇者を見る。
「彼女が今代の勇者です」
「改めて勇者殿、此度は申し訳ない。本当に誘拐と変わりねえが、すまねえ、あんたにしか頼めないんだ」
「おじさんは、他の人と違って、ちゃんと話してくれるんですね」
「お、おじさん…」
「そこ、笑いが漏れてるぞ」
必死に口元を抑える人間が部屋中にいる。我慢出来なかったのは、第四王子だった。
「まあ、そうだよね。いろいろ説明出来なくてごめんね」
「どうせ第二あたりがドヤ顔して仕切りまくったんだろう」
「当たりを通り越して、当たり前ですね」
「今回の件で手柄をたてて、王位を取ろうと思っているんだろうがな」
「はいはい、本音は隠してくださいね」
エヴラールが父を諌める。ゆるくではあるが。
「私、人殺しなんて、出来ませんよ」
こわばった声が部屋に響いて、静かになった。
「魔獣は、倒してほしいがな。だが、人を傷つけるような真似は、絶対させねえ」
「約束します。安心してください」
勇者は、こくっと頷く。
「とりあえずお嬢さんにやってもらうことは、こちらの世界の常識を知ってもらうこと。あとは、勇者の力を使いこなすこと。本番はまだ先だ」
「本番では、何をしろと言うの?」
「あんたの国に魔王はいないのか」
「いない。人間の国よ」
「そうか。いいなあ。こっちは時々魔王が復活する。死なないんだ。というより、魔王が目覚めても、殺さない」
「殺せないの?」
「そう、魔王を再び眠らせる。それが勇者の仕事だ」




