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23/34

23・勇者というより王子ご一行様ご到着です

(辺境伯視点)

 勇者が辺境伯領に来るという連絡が入ったのは、エミール達がここに来てから、一週間後のことだった。

 ここ辺境伯領には、重大な任務がある。それ故に、ここには巨大な転移魔法陣がある。これを起動する場合、必ず相手側から連絡が来る仕組みになっている。

 急に受け入れることは出来ないのだ。互いに攻めることのないように。

 

 そして、ゲートは開かれ、勇者達がやってきた。勇者というよりは、王子達と言ったほうが正しいか。

 

 

「久しいな、辺境伯」

 

 最初に入って来たのは、第二王子カッスールであった。

 

「これは、第二王子自らお越しになるとは。お役目ご苦労様です」

「当たり前よ。この世の危機に、私が動かずしてどうするというのだ」

 

 機嫌良く笑う男を前に、辺境伯は口元だけの笑みを浮かべる。

 

「おお、第四王子もおいでか」

「叔父上、お久しぶりです」

 

 第二王子の後ろに控えていた第四王子は、辺境伯の甥にあたる。辺境伯の妹は、王の側室である。

 第一、第二王子の母は、正室。第三王子の母は、城の元メイドと聞く。

 側室として王宮に上がったのは、たまたま辺境に遊びに来ていた王が、辺境伯の妹を見染めたのだというが。

 

「あいつは息災か」

「はい、とっても元気ですよ」

 

 見染めたというより、妹の凛々しさに惚れたらしいが。

 

「早く休ませてもらえないか。立ったままというのが、辺境流のもてなしか」

 

 身内の会話に、面白くなさそうな第二王子が割り込む。

 

「申し訳ない、この程度で疲れるとは思っておりませなんだ」

「私は正室の子だぞ、この私を蔑ろにする気か」

「さあ、こちらへどうぞ。まずはゆっくりお休みください」

 

 エヴラールが間に入り、第二王子を誘導する。早くそうしろとブツブツ文句を言いながら、彼は部屋を出て行った。

 

「相変わらずだな。お前も大変そうだ」

「叔父上、あまり煽らないようにお願いしますね」

「へえへえ。ところで、勇者殿もご一緒と伺っているが…」

 

 あたりを見回すが、此度ゲートを通って来たものは、見覚えのある者達ばかりだった。

 だが、1人、見知らぬ者がいた。ずいぶん小柄だ。黒髪黒目。髪は少年のように短いが、どうやら少女か?

 

「君が勇者かい」

「はあ」

 

 ぶっきらぼうな返事だが、目はしっかり辺境伯を見ていた。その目はこちらを警戒している。

 

「バカを見た後だと、すごく立派な勇者に見えるもんだな」

 つい思ったままを口にすると、一瞬驚いた顔を浮かべていたが、次には笑顔になった。

 

「あいつにも、利用価値があったんだ」

「確かに」

 

 ここには第二王子派はいなかったので、全員で笑った。

 

*****

 

 その場にいた者全員で応接室に移動して、改めて挨拶を交わす。

 今回来たのは、王子2名、勇者、他従者と騎士が数名。あと、侍女も1人。勇者殿の付き人だという。女性であるから、必要だよな。

 

「それで、そっちの状況は?」

 

 辺境伯は挨拶もそこそこに、本題に入った。第四王子が答える。もちろんここに、第二王子はいない。

 

「まず、城の魔導士長が、魔王の存在を確認しました。その後、勇者殿を召喚した次第です」

「こっちでも、魔物の増加を確認している。間違いないだろう」

「そうですね。それで、この後の予定ですが」

 

 王子がちらりと隣に座っている勇者を見る。

 

「彼女が今代の勇者です」

「改めて勇者殿、此度は申し訳ない。本当に誘拐と変わりねえが、すまねえ、あんたにしか頼めないんだ」

「おじさんは、他の人と違って、ちゃんと話してくれるんですね」

「お、おじさん…」

「そこ、笑いが漏れてるぞ」

 

 必死に口元を抑える人間が部屋中にいる。我慢出来なかったのは、第四王子だった。

 

「まあ、そうだよね。いろいろ説明出来なくてごめんね」

「どうせ第二あたりがドヤ顔して仕切りまくったんだろう」

「当たりを通り越して、当たり前ですね」

「今回の件で手柄をたてて、王位を取ろうと思っているんだろうがな」

「はいはい、本音は隠してくださいね」

 

 エヴラールが父を諌める。ゆるくではあるが。

 

「私、人殺しなんて、出来ませんよ」

 

 こわばった声が部屋に響いて、静かになった。

 

「魔獣は、倒してほしいがな。だが、人を傷つけるような真似は、絶対させねえ」

「約束します。安心してください」

 

 勇者は、こくっと頷く。

 

「とりあえずお嬢さんにやってもらうことは、こちらの世界の常識を知ってもらうこと。あとは、勇者の力を使いこなすこと。本番はまだ先だ」

「本番では、何をしろと言うの?」

「あんたの国に魔王はいないのか」

「いない。人間の国よ」

「そうか。いいなあ。こっちは時々魔王が復活する。死なないんだ。というより、魔王が目覚めても、殺さない」

「殺せないの?」

「そう、魔王を再び眠らせる。それが勇者の仕事だ」

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