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20/30

20・リナリアの秘密基地に行きました

 あれからようやくふわふわ下降してきたリナリアは、

 

「少し考えさせてちょうだい」

 

 と言って、部屋を出て行った。

 

 旅に出れば、リナリアは家族からまた離れることになる。かと言って、私がここに留まることは危険だし。またアッコンチ侯爵家がいちゃもんつけてくるかもしれないし。やっぱ生きてたじゃーんって言われると、辺境伯に申し訳ない。

 

「あのお」

 

 それまですっかり背景の木になっていたキムラサンが声を出した。

 

「はい、キムラサン」

「はい、先生。おいらは一緒に行ってもいいんすよね」

 

 そうだ、別にキムラサンと一緒じゃなくてもいいんか。

 

「何、思いついているんすか」

「いやちょっとね」

 

 コホンと咳をする。

 

「逆に、どうして私と一緒にいたいの?魔法が消えるとかそういうこと?」

「いや、別に元の木に戻っても、それはいいんす。でもやっぱりマスターと一緒にいたいんすよ。我々はメルヘン座の仲間ですから」

「メルヘン座?」

 

 聞いたことがない単語が飛び出してきたわねえ。

 あら、右下に赤く光るものが見えるわ。ポチっと押してみた。

 

「やあ、お困りかい、マイフレンドー。みんなの仲間のヘルプマークちゃんだよーん」

「メルヘン座って、なにね」

「ほほーう、お答えしようかな。君の魔法、メルヘンは、基本君が定義する所謂『メルヘン』と思う事象が起こる魔法だ」

「私のイメージってことよね」

「そう。君がメルヘンだと思うこと。ミュージカルを混ぜたり、ゆるキャラが登場するのも、それだ」

「それならゆるキャラじゃないものをイメージすれば…」

 

 キムラサンを見る。今の彼は第三形態のイケメンバージョンだ(リナリアの希望で)。

 だから、ちょっと違うイメージを送る。ポンという音と共に、キムラサンがニューバージョンに変化した。

 

「私がイメージしたのはリアルな猫なんだけど…」

 

 そこにいたのは、第四形態のキムラサンだ。その体は10センチ程の、小さな猫の人形だった。シ◯バ◯アな一族みたいな。

 

「もしかして、いくら現実的なものを想像しても、全てが「メルヘン」というもので包まれてしまうってこと?」

「そうだ。あくまでも「メルヘン」だということだ。ここさえクリアすれば、正直なんでもこいの適当魔法ってわけだ。だから、メルヘン座というのも、君のイメージ。君が無意識に仲間を劇団員と思っているのだと。なので、君がメルヘン座解散と思えば」

「キムラサンも解散ってことか」

 

 ミーミーとキムラサンの小さな声が聞こえる。一応猫をイメージしたのだが。そうかこんな感じになるのか。

 なんだかとてもキムラサンが嫌そうだったので、

 

「第二形態」

 

 と唱える。ぼふんという音と共に、キムラサンがパンイチ3頭身に戻った。

 

「解散は嫌っす。オイラはマスターと一緒にいたいっす」

「そか」

 

 いつの間にか、ヘルプマークは消えていた。あとは自分次第か。

 

「もう少しだけ一緒にいてくれる?」

 

 ぱああーっと木が光り出した。

 

「もちのロンですうううう…〜!」

 

 光る木か。どっか需要あるんかな。

 

「メルヘン座、がんばっていきますか」

 

 もう少し控えめな劇団員、探したいな。すごく。うん、すごく。


 あ、今気がついた。

 

「もしかして、リナリアも、変化できるわよねえ」

 

 3頭身じゃない、元の姿に。

 

 私は部屋を出て、リナリアを探した。だけど、どこを探せばいいのか。他所様のお家ならぬお城だもんねえ。辺境伯ってだけに、お城なのよね。やっぱり魔物が来るから、頑丈でないと困るもんね。

 

 てくてく歩いていたら、リナリアを最初に尋問したという騎士に出会った。

 確か名前は。

 

「サムソンさん」

「こんにちは、エミール様。と、キムラサン様」

「ボンジュール」

 

 第二形態(パンイチ)キムラサンにも驚かない。ここの人達、ほんとに順応性高いな。

 

「あの、リナリア見かけませんでした?部屋から出ていっちゃって」

「いいえ、私は見ておりませんが」

「どこに行ったのかしら」

 

 サムソンさんは、少し考えて、

 

「それではお嬢様のとっておきの場所にご案内しましょか」

 

 と、我々を先導した。

 

*****

 

(リナリア視点)

 

「はああ、エミったら、あれはプロポーズでしょ」

 

 顔が火照る。幽霊だろうと3頭身だろうと火照る。

 いやああん、前世含めて男性にあんなこと言われたの初めてなんだからああ。

 いや、待て、幽霊に普通そんなこと言わないわよね。

 いやいや自分、もっとポジティブでもよくね?

 いやいやいや、相手はエミよ。木と友達な奴よ。多分木しか友達いないわよ。それなら幽霊でも旅に誘うわよね。

 

「ダメだわ、残念なお知らせしか見えてこない」

「あ、いたいた、リナリアー」

「ぎゃっ」

 

 振り向くと、サムソンを先頭に、エミとキムラサンがやって来るところが見えた。

 

 私は今、城の北側にある、森の中の木の上にいた。

 そこにはツリーハウスが設置してある。子供の頃に、騎士が作ってくれたものだ。

騎士の1人が山育ちで、

 

「自分も子供の頃に親父が作ってくれたんです」

 

 と言って、他の仲間と作ってくれたのだ。

 兄弟そろって、よくここで過ごした。重量オーバーで登れなかった父が、すごく羨ましそうで、みんなで笑ったわ。後日こっそり母も登ったらしいけど。

 

 今は誰もいない。もう子供じゃない。


 2,3年で兄弟達は訓練で忙しいせいか、あまり来なくなっていた。

 だから、私が独占した。別に、奪ったわけではない。

 時々1人でここで過ごした。辛い時、悲しいとき、勉強漬けで逃亡したいとき。すぐにバレて連れ戻されたけどね。

 

「ふふ」

 

 懐かしい思い出だ。

 そういえば、ここに来るのは随分久しぶりなのに、ツリーハウスは手入れが行き届いていた。

 汚れもなく、建物もキチンと固定されている。

 そんなことを思っている間に、エミ達が登ってきた。まあ、エミはキムラサンに持ち上げてもらっていたけど。

 

「キムラサン、伸びて私をあそこに乗せてー」

「ほいほーい」

 

 3頭身から更に倍伸びて(胴部分だけ)エミをお姫様抱っこでツリーハウスに上げていた。

 サムソンは、下で待っているという。

 ツリーハウスの窓からキムラサンの顔だけ見えるんだけど。どんだけ伸びているのか、後で見るのが少し怖い。

 

「いいところねえ。ここが、リナリアの秘密基地ってわけね」

「んもう、不法侵入よー」

「ごめんごめん」

 

 子供用だから、そんなに広くはない。大人が2人もいれば、それでいっぱいだった。

 

「いいわね、秘密基地。厨二ココロをくすぐるわあ」

 

 エミが珍しそうに辺りを見回す。その姿に少しドヤ顔になりそう。

 いいでしょ、私の故郷よ。大切な場所よ。大切な家族よ。

 

 風が流れる。木立を吹き抜け、音を奏でた。ツリーハウスの窓を通って、私に届く。

 ここでもう一度風を感じることが出来るなんて、思わなかった。

 

「エミ…」

「ん?」

 

 自然と涙が溢れた。

 

「ありがとう、ここに連れてきてくれて」

「うん、よかった」

 

 私はここに残ろう。

 家族と一緒に、ずっとここで、みんなを見守りたい。

 自然とそう思えた。

 私の故郷は、ここだから。

 

「んで、さっき気がついたんだけど、多分メルヘン魔法で、元のリナリアの姿に戻せると思うんだけど、どーする?」

「…え?」

 

元に、戻る?

 

「えええ、戻る、戻るわっ。お願いエミ!」

「おけ」

 

 エミがメルヘンと唱えると、光の輪が私を包んだ。

 

「リナリア、イメージするのよ。元の自分の姿を」

「わかったわ」

「さあ、リナリアのイメージの姿に変化してちょうだい」

 

 光の輪が下から上に移動した。それに合わせて、目線が上に変わった。

 

「大人のリナリアバージョンね」

 

 両手を見る。紅葉のような幼児の手のひらじゃなかった。

 

「元の私…」

「よかったね、家族に見せてあげないと」

「ありがとう、エミー!」

 

 思わず抱きついた。

 

「ちょっと、淑女じゃなかったの?」

「ごめーん」

 

 今だけハグさせてほしい。ありがとう、エミ。

 

「じー」

「あ」

 

 エミは窓を背に座っており、正面から抱きつく=窓いっぱいのキムラサンの顔。

 眉間に皺をよせたキムラサンのドアップをエミの肩越しに見てしまった。

 

 気まずくて、そのまま飛んで下に降りた。エミを案内してくれたサムスンがそこで待っていてくれた。

 

「エミを案内してくれてありがとう、サムスン」

「おそらくこちらかと思いまして」

 

 そこから上を見上げた。

 

「ずっと、ここを、守ってくれていたのね」

「はい、きっとお嬢様がお戻りになると。その際は必ずここに登られると、皆が申しておりましたから」

 

 だから、ツリーハウスは、綺麗なままだったのか。

 

「時々、皆様も登っておられました」

 

 私のことを、思い出して登ってくれていたのだろうか。

 

「お父様も?」

「いえ、流石に無理ですから。でも、時々ここから上を見上げておられましたよ」

 

 そっか、私は。

 

「ただいま」

 

 誰に言うわけではないけど、呟く。

 

「はい、お帰りなさいまし、お嬢様」

 

 サムスンが、答えてくれる。

 そして、

 

「サムソンですが…」

「ご、こめんね」

「いえいえ」

 

 サムソンが目元を拭う。

 

「お嬢様ですから」

 

 

 エミがキムラサンに再びお姫様抱っこされて、降りてきた。こいつら、存在だけでムードキラーだよな。

 

「あと、お嬢様、お願いがございます」

「何かしら」

 

 サム…ソンが、軽く頭を下げる。

 

「大人になられたのでしたら、その、スカートでの飛行はちょっと…」

「はっ」

 

 思わず、ばっとスカートを押さえた。


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