17・辺境伯のこたえ
(辺境伯視点)
「面白いことを言うなあ。それなら、お前は幽霊か?」
馬鹿にしている。そう思った。
どう見ても、娘に似た子供。それが、泣き落としで我々を騙そうとしている。
笑った。
広間に集めた城の者達も笑った。そんな、はっきり見える幽霊がいるわけがない。
元々こいつらは金を無心するために、よく似た子供を連れて来たのだと、そう思っていた。
普通なら、そんな者には会わない。だが、チラリと見たその横顔に、余りにもよく似たその顔に、どうしても足が前に進んだ。
その顔が、今、俺を睨みつけていた。目に涙を浮かべて。それをボロボロこぼして。歯を食いしばり、悔しそうに、両手をぎゅっと握りしめて。
その顔は、いつもいつも我々に見せていた、リナリアの顔だった。
唐突に、昔を思い出した。確か子供が兄弟喧嘩をして、俺が止めた時か。
「お父様、ひどい。私の言うことを信じてくれない」
「お前が弟を殴ったからだろ」
弟はぴーぴー泣き止まず、妻に抱かれている。
「お前が意味もなく殴るとは思わねえ。だが、お前は弟より年上だ。まずはお前を止めるのが先だ」
「歳なんて関係ないもん。弟が悪いんだもん」
あの時の、怒って泣いて、それでも我慢する膨らんだ頬が可愛くて、叱りながらも可愛い娘だと、そう思っていた。その表情の娘が、今、ここにいた。
ああ、あの子だ。俺の大切な、娘だ。
笑いはいつの間にか止まった。
広間も鎮まりかえった。
俺はただ、娘の顔を見つめた。
「そうか、死んだのか…」
「はい、申し訳ございません」
俺は、片手で自分の口元を押さえ、そのまま俯いた。
声を張り上げそうだった。叫びそうだった。大声で泣き叫びそうだった。
娘が、死んだ。
「父上?」
恐る恐るエヴラールが声をかけてきた。
「お前もわかるだろ?あの顔は、リナリアだ。自分が正しいと怒って泣く、いつもの意地っ張りリナの顔だ」
エヴラールも娘の方を向いて、顔を歪めた。
「姉様…」
ジャックも、泣いていた。泣き顔を隠すことなく。
そんな、本当の幽霊だと。そんな声が聞こえる。
皆、リナリアを思い出したのだ。
あの子は、娘だ。
「リナリア!」
扉を乱暴に開けて、妻が広間に飛び込んできて、そのまま走って娘を抱きしめた。
「ああ、リナリア。間違いないわ、あなたね」
「お母様、申し訳ございません」
二人は抱き合って、大声で泣き出した。息子達も駆け寄っていく。私もゆっくりと立ち上がり、家族の元へと進んだ。
その途中、娘を連れて来た男と目が合う。
「娘を連れてきてくれて感謝する」
恐らく彼の力なのだろう。でなければ、幽霊なぞここへは来れまい。
「いえ、彼女の話を聞いてあげてください。とても悲しい話ですが」
そう言うと、彼は頭を下げた。俺も軽く頭を下げる。
そうして早足で家族の元へ行く。
娘を、家族を抱きしめるために。




