16・リナリア VS パパ
あれからだいぶ放置んぐされて、暇だったから、寝てた。考えたら今日は、起きるの早かったもんな。
「おい、起きろ」
なんか怒った声で目を覚ました。声のほうを向くと、すでに扉は開いていて、キムラサンが連れていかれるところだった。
「こんなところでよく眠れるなあ」
「昔からどこでも眠れるのよねえ」
「変な喋り方だな」
「これもクセなのよね」
「まあいい、お前も出ろ。辺境伯様がお会いくださる」
「やっとかあ」
牢獄に入る際拘束は解かれていたが、再度腕を縛られ、引きずられるように連行された。
そこは広間だった。おそらく謁見用の、城内で1番大きな部屋だろう。どうして、こんな広い場所に連れてきたのか。
奥には一段高い場所があり、いくつか椅子が設置されていた。その前に連れていかれて、頭を押さえつけられ、跪く。
扉が開く音がして、そこから来た人が上段の椅子に座る気配がする。その後に後方からも複数人が入ってくる気配がした。どうやら、見せ物になるようだ。
「さて、時間がないから早速始めよう。顔をみせろ」
若い男の声が、広間に響く。それを合図に、我々を拘束する者の手で、顔をあげさせられた。
台の上には、中年の男性がいた。緑がかった黒髪と赤い目、手入れされた髭が余計に貫禄を誇張する。目は鋭く我々を見ている。はち切れんばかりの張筋が、ムキムキマッチョなボディが、圧が、ぱない。
この人が、リナリアのパパンね。
その横にはパパンを若くしたような人が。多分お兄ちゃんよね。
その隣にはこれまたリナリアに似た可愛い男の子が。いや、なんか黒いオーラを感じるわ。口元は笑っているけど。あ、目が笑っていない。これやばい感じだわ。
いやあ、リナっちファミリーって感じねえ。怖い。泣いちゃう。帰りたい。
気持ち的には泣いてるワンコなんだけど、私の隣にリナリアもやってきて、少しホッとする。
「ここ、極道か何かのお家かしら」
「違うから、マイスィートホームだから」
リナの目が笑ってないんだが。
そんな空気の中、話し合いがスタートした。
「お前ら、何者だ?」
若頭の問いに、リナリアが答えた。
「私の名前は、リナリア・スヘルデン。お兄様、帰ってまいりました」
そう言うと、リナリアはカーテシーを披露した。
とても悲しい、話し合いの始まりの合図だ。
「我が妹が行方不明になったのは17歳の頃。あれから10年が経っている。君はどう見ても3歳程度にしか見えないが。ああ、そういえば、魔法で姿を変えていると部下が言っていたが。それでは元に戻ればいいだろう」
「それはできません」
「なぜだ」
パパンが問う。渋くていい声だわー。
その問いに、レナは即答出来なかった。
そうだろう。躊躇う。自分の家族に私は死んでいるのだと告げることに。
「そなたと共にいるこ奴らは、何者だ。そなたを拐かしたものか?」
「いいえ、彼らは私の恩人です。私を連れ出してくれた人」
「監禁されていたと」
「そのようなものですわ」
「そうか、そいつらがリナリアを監禁していて、そこから連れてきたと」
「いや、違いますって」
なんだか会話の流れが変わってきたわね。
「そもそもお前は誰だ?」
リナリアのお兄ちゃんが私を睨む。どうしよう、正体を明かすべきか。
もし、アッコンチ伯爵領から何か連絡がいっていたら、マズイことになる。
相手は私を殺そうとした。
私が生きているとマズイから『もしかしてそっちにうちの娘の婚約者、流れてきていませんかねええ。え、います?それはよかった、返却ありがとうございますうう〜』からの、グサっって感じで、今度こそ殺されちゃうかもしれないわよねええ。
「おい、答えろ。名は」
「はいい、わ、私は冒険者のエミと申します。こっちは仲間のキムラサンと」
「変わった名前だな」
「うす」
キムラサンが一応挨拶する。こいつ、大分慣れてきたな、人間の世界に。適応力ぱないわ。
「おい、冒険者ギルドに連絡しろ。身元紹介だ」
「へい、すでに手配済みっす」
仕事早いわ。出来る男やん。正直困るわ。
「こちらが確認書です」
もう確認終わっているんかい。
料理番組の「3分煮たものがこちらですねー」じゃないんだからさ〜。
参考までに、ギルドは世界共通組織である。そのため、偽名等で複数アカを作ることは不可能である。
ギルド登録するときに個体認証を登録するんだけど、絶対偽れない、偽造出来ない、身元保証はバッチリってやつなのよね。
なので、犯罪者の可能性がある場合は、ギルドの権限で身元を調べることが出来るのだと…あ、さっき、ギルドカード回収された。
リナ兄ちゃんが、確認書を見て、それをパパンに渡す。なぜかパパンがふうと息を吐いた。
「手間が省けてよかったな。お前を探している奴がいるんだよ。なあ、ガーデン伯爵んちのエミール坊ちゃんよお。あんた川に落ちて流されたんだって?お家から連絡きてるぜえ」
部屋中の人間が、大声で笑った。どんくせえとか言う声が聞こえるんだが。どんくさくないんだが(ここ大事)。
やはり、連絡が来ていたのか。
「待ってちょうだい。お父様、エミは川に落とされたのよ。アッコンチが…」
「まだ、お前が娘とは決まってねえ」
リナリアの助言をパパンが打ち消す。威圧感たっぷりに、彼女を睨む。
「お前がリナリアだというのなら、なぜ消えた?お前がいなくなって、みんながどれだけ困ったのか、おめえ、わかってここにいるんだろうなあ、ああ?」
「それは、違います!」
思わず親子喧嘩に口出ししちゃったよう。部屋中の猛者どもの視線が痛い痛い。
「リナリアの話を聞いてやってください。彼女は、何も悪くありません」
「ああん?」
「エミ、ありがとう。大丈夫よ、私ちゃんと話すから」
リナリアの口元に僅かに笑みが戻る。
「リナリア、あんた、ここに来てからずっと強張った顔をしてるよ。ここはリナんちなんでしょ。ここにいるのは、家族なんでしょ。ちゃんと話すんだよ。大丈夫、家族なんだから、受け入れてくれるって」
リナリアの目が潤む。でも涙は溢れない。リナリアは笑みを浮かべた。
「うん。大丈夫。ちゃんと話す」
リナリアは自分の父に向かい、
「聞いてください、お父様!」
声を張り上げる。その途端、部屋中の人間が黙る。その表情には、驚きが混ざっていた。
「まさか、本当にお嬢様か?」
小声で話す連中がいる。リナリアを思い出したのか。
彼女は数歩父親の方に歩み寄った。
「あの日、私がいなくなった日。その日に私は」
リナリアの目から、涙が溢れた。
「私は、殺されました」




