112・カウントダウンが終わるとき
(アダルベルト視点)
「そろそろいいかな」
「お兄様、いかがなさいました?」
妹のパトリシアが私の様子を伺う。
この子は可愛い。いつも私の言いなりになってくれるから。これからも、そう。生涯私のお人形だ。
私達は庭でお茶を嗜んでいた。
今日の紅茶も悪くないな。確か妹がキールス王国から取り寄せたものだったか。
「やはりキールス産の紅茶は美味しいね」
「そうですわね。でも最近マイヤー商会から購入したお茶も良かったですわ。お兄様も一度……」
「いや、この国のものは好きではないからね」
「そうでしたわね。失礼いたしました」
珍しいことを言うものだ。いつも意見など言ったことがないのに。
妹の様子を伺う。心なしか顔色が悪い。
「パトリシア、具合でも悪いのかい?」
妹は、ふんわりと笑顔を見せた。淑女教育の見本そのままに。
「いいえ、少し疲れているだけですわ」
「そうか」
紅茶を再び口元に運ぶ。これから忙しくなる。こうやってお茶を嗜む時間も減ってしまうな。
「そろそろ始めようと思うんだ。パトリシア、協力してくれるね」
「もちろんですわ、お兄様」
妹が椅子から立ち上がって、私の横に来て跪いた。
「お兄様、どうぞご命令を」
「うん」
私も立ち上がって、妹の肩に手を乗せた。
「パトリシア、君に命ずる。君が飼っている僕達を使い、まずはキールスのスヘルデン辺境伯領を落とすよ」
「はい」
まあ、その前に私しか出来ないことをしよう。
「まずは私が攻撃する。その後に突入して」
「わかりました」
屈んで妹の両手を掴んで、そっと立たせる。そのまま抱きしめて首筋にキスを落とす。
「かわいい子、一緒にこの世界の王になろう」
「はい、わかっております」
妹は私からすっと離れて、カーテシーを披露する。いつも美しい所作をする子だが、今日は少しぎこちなかった。
「大丈夫かい?」
「はい、お任せください。攻撃はいつ行うのですか?」
「君の準備次第だよ」
「それでは三日後」
「わかった。三日後、キールスの終りが始まる」
私の中の『カウントダウン』がもうすぐ終わる。
考えてみたらいつからカウントダウンは始まっていたのだろう。私が生まれた時から?そうかもしれないな。
この何もない異世界で生まれて、本当につまらなかった。
元の世界に帰りたいのに。出来ることといったら。
「まあ、仕方ないか。おもちゃで遊ぶとしよう」
私のための世界。
私好みに作り替えるために、一度壊してしまわないと。
魔王がいても関係ない。
「私に勝てるわけがない。魔王よ。永遠に眠らせてあげるよ」
本当の眠りをあげよう。私が真の勇者だと思い知るがいい。




