111・ぶっつけ本番に強い姉妹(弟)ですから
私はルカス・デレク・テオ、そして辺境伯様とリナリアを呼んだ。魔王のことを話さなくてはいけない。
「それじゃあ、エミは魔王に会っていたのか」
「そう、魔王とは知らずにね」
「そりゃ、魔王がこんなに可愛い生き物とは思わないよなあ」
キムラサン画伯が描いたたぬきちの絵を眺めて、テオがぼやく。
「そうか、異世界の物であれば、魔王のことは記載できるのか」
「あかりに頼んでノートを分けてもらいましょう。そこに書いておけば、次回の魔王に対処できるはずよ」
「そうだな」
辺境伯様も驚いている。
とりあえず私がたぬきちから聞いたことを伝えた。
魔王は世界に呼ばれる。この世界を滅ぼそうとする悪意あるものを倒すために。そして、それが終われば再び眠る。それを行うのが、勇者と呼ばれるもの。
「たぬきちは今朝、世界に呼ばれたと旅立ってしまったわ。これから魔物の量も増えるし、何か禍も起きる。これからが本番よ」
「そうだな」
ルカスが頷く。
あかりの結界の話もした。
辺境伯領の皆さんに、いざという時に避難する場所を再度確認するようにとか、武器の準備や食料とかの備蓄関連も同様に。
「まあ、いざとなったら、王城から食料は手配可能だ。城内に転移陣があるからな」
「そこはありがたいわね」
やれることは全て行おう。
私達は、他のメンバーも集めて更に念入りに打合せを行った。
*****
「あかり」
「やっほ、ひかりちゃん。どったの?」
訓練所のあかりを尋ねた。打合せが長くて、かなり遅くなってしまった。
私は今まで打ち合わせしていた内容を教えた。魔王のこと、魔王の目的のこと。そして、これから本当の戦いが行われることを。
「そっか。とうとう始まっちゃうんだ」
「怖いね」
「うん、すごく怖い」
あかりの手を握った。
「大丈夫。私がいる。絶対あかりを守るから」
「うん。私の固有スキル、全然使いこなせていないんだけど、がんばる」
あかりの手が震えていた。
「ねえ、よく考えたらさ」
「何、ひかりちゃん」
「うちの家系って、ぶっつけ本番に強かったよね」
「そういえば……そうかも」
脳裏に今までの家族の様子が浮かんだ。
「うちって、テスト勉強したことあったっけ」
「……あんまり」
「マラソン大会あっても、練習したことないよね」
「お姉ちゃん達が頑張る姿って、趣味以外ないけど」
うん、大丈夫な気がしてきた。
「そうだね、なんとかなるか」
「だよねー」
それでも、二人とも、手の震えは止まらなかった。
大丈夫。絶対、大丈夫。
失踪して半年後には、あかりはちゃんと家に帰ってきたから。




