110・たぬきちの旅立ち
朝、キムラサンハウスで目が覚めた。
部屋には、私以外誰もいなかった。
キムラサンは外の他の木と並んで立って寝るのがセオリーだから、ここにいないのは当たり前。
だけどもう一人、大切な仲間がいたはずなのに。
「やばい、また忘れている」
急いでテーブルの上の絵を見た。ノートの切れ端に描かれているのは、タヌキの絵。そして、横に名前が書いてある。
「たぬきち、そうよね、たぬきちよ」
危なかった。また忘れるところだった。
「とりあえずマジックボックスに入れておきましょ」
昨夜、たぬきちと話をした。
たぬきちの、そう魔王のこれからのことを。数日後には出るって言ってたけど、今朝、もうあの子はどこにもいない。
もしかして、もう……。
「エミ、帰ったぞー」
「おう、いたんかーい」
器用にドアを開けて、たぬきちが帰ってきた。
「まだいるぞ」
「よかったわ。んで、どこに行ってたの?」
「森の中を見てきたのだ。そこにいけば、気配がわかるからの。ここは、結界が強くてよくわからぬ」
「結界?」
「なんだ、知らんのか?この家は我を守っているのだ」
「ええっ?」
キムラサンハウスは、思ったよりも高機能だったらしい。
とりあえず、製作者連れてこよ。
私はドアを開けて、
「キムラサーン」
呼んだら、即前面にいた。
「呼んだ?」
「ひいい!うん、呼んだ。早すぎ」
びっっっくりした。
「んで、キムラサン。この家なんだけど、たぬきちを守るように作ってあるって、どういうこと?」
「うーん、匠ですねえ」
またよくわからんこと言って、うちの木がふんぞりかえった。
「ま、いーか。要するにこの家にいると、たぬきちが安全だと」
「その適当さ、いいのう。見習うぞ」
「オイラも適当に家つくったから、アミーゴアミーゴ」
・・・。
「……結局よくわからないけど、この家にいると、どうなるの?」
「魔王が現れると魔物が活性化するのだが、我がここにいるとそれが弱まるのだ」
「え、魔物が増えてきてるって聞いていたけど」
「普通はもっとすごいぞ」
「……まじか」
隣のキムラサンの目が、すんごく輝いている。目に『褒めて』と書いてある。仕方ない。
「キムラサン、あんたはサイコーの木よ」
そこからたぬきちと二人で、キムラサンのダンスショーを観た。
すんごくながーく、観た。
世界の平和のためだから、ま、いっか。
それから数日後。
「それじゃあ、行ってくる」
「わかった。終わったら会えるよね」
「もちろんだ。勇者はエミの妹だろ。皆で会おう」
たぬきちが、ぴょんと飛び跳ねて、私の腕の中に納まる。
「怪我しないでね」
「エミとキムラサンもな」
「帰ってきたら、お菓子食べようね」
「山盛り用意して」
絶対忘れない。このぬくもりごと。
「我を呼ぶ者。それは、世界そのものぞ。世界を破滅に導くものを、我は許さぬ」




