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110/130

110・たぬきちの旅立ち

 

 朝、キムラサンハウスで目が覚めた。

 

 部屋には、私以外誰もいなかった。

 キムラサンは外の他の木と並んで立って寝るのがセオリーだから、ここにいないのは当たり前。

 だけどもう一人、大切な仲間がいたはずなのに。

 

「やばい、また忘れている」

 

 急いでテーブルの上の絵を見た。ノートの切れ端に描かれているのは、タヌキの絵。そして、横に名前が書いてある。

 

「たぬきち、そうよね、たぬきちよ」

 

 危なかった。また忘れるところだった。

 

「とりあえずマジックボックスに入れておきましょ」

 

 

 昨夜、たぬきちと話をした。

 たぬきちの、そう魔王のこれからのことを。数日後には出るって言ってたけど、今朝、もうあの子はどこにもいない。

 

 もしかして、もう……。

 

「エミ、帰ったぞー」

「おう、いたんかーい」

 

 器用にドアを開けて、たぬきちが帰ってきた。

 

「まだいるぞ」

「よかったわ。んで、どこに行ってたの?」

「森の中を見てきたのだ。そこにいけば、気配がわかるからの。ここは、結界が強くてよくわからぬ」

「結界?」

「なんだ、知らんのか?この家は我を守っているのだ」

「ええっ?」

 

 キムラサンハウスは、思ったよりも高機能だったらしい。

 とりあえず、製作者連れてこよ。

 

 私はドアを開けて、

 

「キムラサーン」

 

 呼んだら、即前面にいた。

 

「呼んだ?」

「ひいい!うん、呼んだ。早すぎ」

 

 びっっっくりした。

 

「んで、キムラサン。この家なんだけど、たぬきちを守るように作ってあるって、どういうこと?」

「うーん、匠ですねえ」

 

 またよくわからんこと言って、うちの木がふんぞりかえった。

 

「ま、いーか。要するにこの家にいると、たぬきちが安全だと」

「その適当さ、いいのう。見習うぞ」

「オイラも適当に家つくったから、アミーゴアミーゴ」

 

・・・。

 

「……結局よくわからないけど、この家にいると、どうなるの?」

「魔王が現れると魔物が活性化するのだが、我がここにいるとそれが弱まるのだ」

「え、魔物が増えてきてるって聞いていたけど」

「普通はもっとすごいぞ」

「……まじか」

 

 隣のキムラサンの目が、すんごく輝いている。目に『褒めて』と書いてある。仕方ない。

 

「キムラサン、あんたはサイコーの木よ」

 

 そこからたぬきちと二人で、キムラサンのダンスショーを観た。

 すんごくながーく、観た。

 

 世界の平和のためだから、ま、いっか。

 

 

 

 それから数日後。

 

「それじゃあ、行ってくる」

「わかった。終わったら会えるよね」

「もちろんだ。勇者はエミの妹だろ。皆で会おう」

 

 たぬきちが、ぴょんと飛び跳ねて、私の腕の中に納まる。

 

「怪我しないでね」

「エミとキムラサンもな」

「帰ってきたら、お菓子食べようね」

「山盛り用意して」

 

 絶対忘れない。このぬくもりごと。

 

「我を呼ぶ者。それは、世界そのものぞ。世界を破滅に導くものを、我は許さぬ」

 

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