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109/130

109・魔王を忘れないために

 

 少し落ち着いたから、たぬきちをソファの上に座らせて、私もその横に腰掛ける。

 

「私はどうしてたぬきちのことを忘れたのかしら」

「それは、我が魔王だからだ」

 

 たぬきちの答えを聞いた途端、以前の会話を思い出した。

 

「そうだわ、そのことを聞いたわね」

「そう、魔王の話は記録に残せない。そして皆、我を忘れる」

「でも、私は思い出せた。それって」

 

 さっき放り投げた、たぬきちの絵を拾い上げる。

 

「オイラの画力のおかげ?オイラ、画伯?」

 

 ワクワク顔のキムラサンの圧が、ぱない。でもこれ、画力というより。

 

「もしかして、あかりが持ってきた異世界の道具だから残せたってこと?」

 

 異世界のものには何か力があるのかしら。

 

「とりあえず今度あかりに頼んでノートを貰いましょう。そこに魔王についてわかっていることを書いておけば、次回の有事に使えるわね」

「そうかもしれんの」

 

 次回か。これからも続くのだろうか。

 

「ねえ、たぬきちは、何度も魔王としてこの世界に出現しているのよね。具体的に何をするの?」

 

 私の問いに、たぬきちがうーんと考える。なにそのうーんって声。可愛いちいちゃい可愛い。

 

「……エミから不穏な空気を感じるのだが」

「マスター、煩悩だだもれ」

「はっ、いけないわ。ごめん、たぬきちが可愛すぎて、危険な思想が」

「我、最強のはずなのに、なぜか悪寒がしたぞ」

「めんごめんご」

 

 てへって笑って見せたのに、なぜ二人とも、引く。

 

「まあ、いいか」

「その何でも適当に終わらせる性格って、いいな」

「たぬきちも参考にしてね」

「未来の魔王に不安を残すようなことは、しないほうがいいぜ、マスター」

 

 キムラサンも、ツッコミ上手になったわね。

 たぬきちは、ふうと溜息をついた。

 

「まあ、いいか。前も話したが、我は呼ばれて出現する。そして事を成して、その後は勇者が我を眠らせるのだ。それを永遠に繰り返す。それが我の役目ぞ」

「長いお仕事なのね」

「うむ」

「ずっと一人なの?」

「そうだな。その役目の時にはそれなりに誰かと関わるが、それだけだ」

「そんな」

 

 ちいちゃいたぬきちが、ボッチでいるのを見たくはないわ。

 

「でも、いつも勇者がいてくれるぞ」

「勇者?」

「そう、我を眠らせてくれる、勇者」

「それなら勇者とはお友達なのね」

 

 たぬきちが、こてっと首を傾げる。

 

「うむ、そうかもしれぬ」

「今度あかりを連れてきてもいいかしら」

「勇者に会ったら、すぐに寝てしまうかもしれぬ。そうしたらお役目が果たせぬぞ」

 

 そうだ、そのお役目って。

 

「たぬきちは、もうすぐ呼ばれてしまうの?」

「うむ、恐らく数日後には」

「私はまた忘れてしまうの?」

「いや、その絵があれば、忘れることはないだろう。だが」

 

 たぬきちは一度躊躇うように、言葉を切った。

 

「戦いが始まる。我はそなたらを守ることは出来ぬ。エミ、キムラサン、どうか生きていてくれ」

 

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