108・ノートに描いたらくがき
タヌキの絵。
それにこの紙は。
「これ、あっちの世界のノートの切れ端よね。どうしてこんなものが」
「これは、あかり様の物っす」
「キムラサンが、あかりから貰ったの?」
キムラサンが頷く。
「オイラ、なぜか絵を描きたいなと思ったんすけど、なかなか描く道具を貰えなくて」
「そりゃ、いきなり木に『道具くれ〜』とか言われたら、普通の人は逃げるわよねえ」
「そしたら、あかり様が分けてくれたんす」
そう言うとキムラサンは、紙以外にも鉛筆も見せてくれた。
あかりが。しかも元の世界の物を分けたなんて。
「こっちの世界の紙や筆を渡せばいいだけなのに、どうしてあちらの世界の物を」
「マスターが世話になっているからって言ってました」
「私のために」
あかり……。
「こいつに世話になっているって思われているのは、お兄ちゃん的にどうかと思うわ」
「おいおい」
とりあえず後であかりに訂正するとして。
「ところでどうして絵を描こうって思ったのよ」
「オイラも覚えていないんすよ」
「キムラサンも何か忘れてしまったのね」
みんな同じなのかしら。
キムラサンが描いた絵を見る。
「意外とうまいな、キムラサン」
褒めると踊る木だけど。
「相変わらず賑やかな木ねえ。そういえばいつも驚いていたわね、たぬきちも……」
たぬきち……。
キムラサンが踊りをやめた。
あのキムラサンが踊りをやめて、驚愕の表情で私を見た。それよりも、その名前!
「「たぬきち!!」」
「呼んだか?」
声の方を振りむく。
部屋の奥に、タヌキがいた。
私は絵もクッションも投げ捨てて、タヌキを抱きしめた。
「たぬきち」
「おう、我はたぬきちぞ」
「うん、たぬきち。会いたかった、たぬきち」
「おう、エミはすごいのう。よく我を思い出せたの」
「すっごく怖かった。大切な誰かを忘れてしまったと思って」
「……そうか、大切だと思ってくれたか」
「当たり前でしょ。たぬきちは家族だもん」
たぬきちが私の頬に自分の頬を寄せた。
「そうか。家族か」
「ずっと一緒よ」
遠くで、
「あのー、オイラは家族枠?」
という空気を読まない声が聞こえた。
するっと無視しといた。




