107・誰かのことを忘れました
夕飯も終わってお風呂にも入って。後は寝るだけ。
毎日のその眠る前の僅かな時間に、私はいつも何をしていたのだろう。
何か大切なことを忘れている。
誰か大切な人を。あれ、人だったかしら。
「何かしら。何を忘れているの、私」
フラフラと歩く。
どこに向かっているのかしら。
リナリアの秘密基地の横を通って、更に奥へ進んだ。
謎の看板群を素通りして、その奥に現れたのは、小屋だった。表札にはキムラサンの名前が彫ってある。
「キムラサン、いるの?」
恐る恐るドアを開けた。
中は暗くて、何も見えない。火魔法を浮かべて辺りを見回した。中には家具が備えてあった。
キムラサンが住むように見えないんだけど。あいつは木の中にひっそり立ってみんなを驚かすのが趣味で……。
「あら?」
気がついたら涙が止まらなかった。中に入って、ソファの上のクッションを抱きしめた。
「マスター……」
背後からキムラサンの声が聞こえた。振り返るとキムラサンがドアの前に立っていた。
「ねえ、キムラサン、私は何を忘れてしまったの?大切な大切なことだったのに」
クッションを抱きしめたまま、キムラサンに問いかける。
嫌だ、嫌だ、忘れたくない。
「マスター、これを」
キムラサンが、手にしていた紙を私に見せてくる。
そこに描かれていたのは。
「タヌキ?」
ノートの切れ端に描かれていたのは、タヌキの絵だった。




