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102/130

102・忘れる人々

 

「我、魔王ぞ」

 

 たぬきちの声が、部屋に響いた。

 

「じょ、冗談よね、たぬきち」

「冗談ではない。我は魔王ぞ。その証拠に、エミは我に勝てぬであろ?」

「確かに、可愛すぎて勝てない」

 

 うん、否定できない。

 

「それじゃあ、たぬきち魔王さん、どうして魔王は現れるの?」

「我もよくわからぬ」

 

 私とキムラサンが、ずっこけた。

 

「「知らんのかい」」

「うむ、これがボケとツッコミというものだな」

 

 なんか楽しそうでよかった。

 

「んで、たぬきちは、これから何かする予定なの?」

「うむ、我は待っているのだ」

「何を?」

 

 たぬきちがドアのほうを向いた。

 

「我を呼ぶものが来るのを」

「たぬきちは、呼ばれたら行ってしまうの?」

「うむ、我は行く。そしてすべてが終わったら、勇者が我を眠らせてくれるのだ」

 

 たぬきちの背中が遠くに思えた。いつか行ってしまう。小さな背中。

 

「とりあえず、呼ばれるまでは、ここに居てくれるんだよね?」

「もちろんだぞ。なあエミ、またお菓子が食べたいぞ」

「あ、今日もお土産があるのよ」

「それを早く言わぬか」

 

 たぬきちがいそいそ振り返って、私の傍にやってきた。

 

「お菓子くれないと、いたずらしちゃうぞよ」

 

 上目遣いでねだるたぬきちに、撃沈した。

 

「私、絶対魔王に勝てない」

「うむ、我、最強」

 

 

*****

 

 

(たぬきち視点)

 

 エミが帰っていった。

 キムラサンも家から出た。外にいたほうが落ち着くらしい。それならどうして家を建てたのかとつっこまれそうだな。

 うむ、われも大分『ボケとツッコミ』という、人類の神髄を使いこなせるようになったものだ。

 我、賢いからな。

 

 もうすぐ奴が目覚める。

 その時に我はここから去る。

 いつものことだ。

 目が覚めて呼ばれて、それからまた眠るだけ。

 そして、誰も我のことを覚えてはいない。

 そう、今日エミと話したことも。あいつは朝になれば忘れてしまうのだろう。

 

 だが此度は少し切ない。

 

「こんなに良くしてもらったのは、初めてだからの」

 

 だがもう終わる。

 あと少しで、世界が、壊れる。

 

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