最終章 ⑦①
ゴミの山と言ってもおかしくない程の死体が、1つ1つベルトコンベアーに乗って運ばれて行く中、僕の異様なまでに伸びた手足や身体は何故か少しばかり小さくなっている気がした。いや確実に縮んでいた。
これは運ばれていく死体と何らかの因果関係があるのだろうか。今まで何人が運ばれていったのかは数えていた訳じゃないからわからないけど、でもそれはどうやら確かなようだった。
身体が一気に縮むわけではないようだから、パッと見では気づき難いけど、でもロープで縛られている身体の部位に少しばかり痛みが加わった感じを受けたから、縮んでいるのはほぼ間違いない。
だけどこのペースでベルトコンベアーに死体が乗せられ続ければ、僕の四肢や首はやがて確実に千切れてしまう。
今でこそ八つ裂きにされるみたいに大の字姿で空中で捕らえられているが、逆にこの状況から逃れられるとしたら、それは更に大きくなるしか無さそうだった。
そうなれば、自然、ロープが弛み、ここから逃げ出すチャンスが出来るのにと思った。
けれど現実は逆で、僕は縮んでいた。人間らしい身体の大きさに戻りつつあるようだった。そんな事を考えている間も、再び死体がベルトコンベアーに乗って何処かへと運ばれて行く。
2、3体、いや5、6体に数センチ、あくまで僕の体感だけど小さくなっていっている気がした。勿論、その分だけ痛みが増して僕は悲痛な叫びを上げる。
だが僕を助け出してくれる者、逃げる為の方法を耳打ちしてくれる、そんな奇特な人はいないようだった。
そして再び僕の胸に突き刺さったネジが僕の身体の中へと捩じ込まれてくる。痛みは酷く僕は激しく頭を振りながら悲鳴を上げた。
……僕が学校についた時、既にウサギ小屋の前には先生達が集まり、何の騒ぎだと集まって来た各学年の野次馬達で大騒ぎになっていた。
若い先生は野次馬生徒へ向かって近寄らないようにと大声で怒鳴っていた。その程度の事で子供の好奇心を止める事は出来ず、隙をみつけてはウサギ小屋まで近づいては頭を小突かれる生徒もいた。
「何があったのかな?」
独り言を装いながら呟くと上級生らしき男子が、恐らく5年生が、伏せ目がちな目で僕の方を見た。
「皆んなが可愛がっていたウサギが1匹盗まれたみたいだよ」
「皆んなが可愛がっていた?」
「そうさ。そうだよね?だってウサギは可愛いからね」
可愛い。うん。それは確かに間違いじゃない。
けれど僕は一度だって可愛がった事などなかった。この人は飼っているというだけで皆んな可愛がると思っているようだ。
なら可愛いと思ったものは皆んな飼っている事と同じなのか。多分そうなのだろう。例えばアイドルとか。推しがいる人はそのアイドルを飼育しているという事になる。
確かにそうだ。沢山グッズを買ったりするから。それはそのアイドルに餌をあげている事と同じだ。
なら飼い主の気分でどうにでもなる存在という事であり、飼い主以外の人間にとっては可愛くも尊くもないわけだから、ウサギのように殺される事もあるという事だ。飼い主になれない存在は意外と無力なのだなと思った。
しばらくして学校に警察官がやって来た。用務員のおじさんと警備員、そして教頭先生と何やら話している。その間、僕達生徒はホームルームを終えて急遽、体育館に集められた。緊急の全校集会をやるらしい。
勿論、ウサギ小屋の事で全員が集められたのは間違いない。ウサギが行方不明になった事、殺された可能性がある事にクラスの生徒の殆どが憤りを感じ、犯人に対して怒っていた。けどそれ以上に体育館に集められる事に腹を立てていた。
ウサギに対して酷い事をした人のせいでどうして自分達が集められなきゃ駄目なの?口々に面倒くさいという言葉が発せられる程、嫌がっていた。けれど行かないわけにはいかなかった。
校長先生の話は長くて退屈だった。途中、涙を流してウサギが可哀想だと言っていたけど、可哀想なのは寧ろ僕達生徒だった。
ウサギが1匹居なくなったくらいで1時間近くも話を聞かされた僕達は、教室に戻る足取りも重かった。
そりゃ中には校長先生の話に感動し泣く生徒もいたけど、そういう人達は意外と話が終わったら何事もなかったかのようにケロっとしてたりする。きっともうウサギの事も忘れているに違いない。
担任の先生から学校側が警備を強化するという話を聞かされた。そうなんだと思った。担任の先生は命というものの大切さを僕達に熱く語った。
そこの所が僕にはいまいちわからなかった。命というものが大切なら、何故、牛や鶏を殺して食べるのか?豚や魚だってそうだ。
植物や果物だって命というのがあるから成長するのだろうけど、平気で食べる。それについて先生は何も言わなかった。よくわからないなぁと僕は思った。
だからきっと人間にとっての他の命というのは好き勝手に特別扱いせず扱って良い物なのだと僕は思った。
だからもう1匹のウサギは心臓だけじゃなくて身体の肉も食べてみようかなと思った。
けど、僕のそんな想いは半月後に砕け散った。
もう1匹のウサギが皮を剥がされ、身体をバラバラにされ、臓器も取り出され、音楽室の黒板の前に吊るされていたのをとある生徒が見つけた。
黒板にはピアノで「シューベルトのセレナーデを弾く」とこのウサギが動き出し息を吹き返すと書かれてあった。
シューベルトもセレナーデも僕は知らなかったし、操り人形じゃないのだから、バラバラにされたウサギが動く筈がないと思った。
そんな事は僕が殺したウサギでとっくに証明済みだ。けど、しばらくするとその話は学校中の噂になり、夜な夜な音楽室からシューベルトのセレナーデが聴こえて来るとか、縫い痕だらけのウサギが校内を飛び跳ねているだとかそんな噂が広がったりした。
僕等の学校にはトイレの花子さんみたいな怖い話の伝説がなかった為、ウサギの話は学校の怪談として何年も語り継がれて行くのかもしれない。
警備を強化したお陰か、2か月後にウサギを殺した犯人が捕まった。犯人は小学校の近くに住む中学3年生の女子だった。
殺した動機は解剖に興味があったからだそうだ。
今まで野良猫や野良犬を捕まえて解剖しようとしたらしいけど、捕まえる事が出来ず、半ば諦めかけていた時に、小学校でのウサギの事件を耳にした。
そしてまだもう一匹いる事を知り、しばらく待ってから連れ去ろうと考えていたが、どうにも我慢の限界が来たらしく犯行に及んだらしい。
どうやって校舎に入ったのか尋ねると学校が閉まる前に侵入し、音楽室に隠れていたそうだ。あのような事をした事に特に理由はなかったそうだ。
ただ面白そうと思ったとその中学生の女子は話した。勿論、この女子はこの小学校の卒業生だった。だから学校に恨みがあったのでは?という憶測だけの記事も出たらしいが本人がそれはないと否定した。
けど今度は肉も食べてみようと思っていたウサギが殺された事は頭に来たけど、この女子がウサギを狙っていなければ、僕が同じように捕まっていたかも知れない。
それに関しては運が良かったと思った。解剖したい中3女子と食べたい小1男子。僕よりかなりお姉さんだけど、友達になりたいと思った。
だから僕は捕まった中学生3年生の女子の家を調べる事にした。というかメディアが集まっていたから探すまでもなく自宅は直ぐにわかった。
けどその女子と家族が家に戻って来る事はなかった。噂ではその女子は中学校を辞めて鑑別所か少年院のどちらかに入れられたそうだ。せっかく友達になれると思ったのにとても残念だった。
結果的に残りのウサギは奪われてしまったけど、あーしたい、こーしたい、今すぐ欲しい、というような気持ちは、身の危険を呼び寄せるものらしいと勉強になった……




