第七章 ⑥③
2日後、僕達は再び喫茶じくうへ向かった。
理由は僕が見た光景について話す為だった。
そしてマスターが祖父を殺害したのが真実かどうかも確かめたかった。勿論、穴の存在の事を忘れてはならない。マスターはいつから穴があちらの世界へ行く道へとなっている事を知っていたのか、その事も聞き出したかった。
正直、重美さんは乗り気じゃなかった。これ以上関わるべきではないと思うとも言った。だけどそれだと萠ちゃんのような人が再び被害に遭うのは明らかだった。
その被害を止めるには穴を塞ぐしかない。安易だけどそれしか思い浮かばなかった。もしくは食人仮面を倒す。だが僕が見た物から推察するに、食人仮面は人間の中にある負の感情の塊だった。
それがあのようなクリチャーという形をとっているに過ぎない。恐らく物理的に倒すのは不可能に思えた。だから干渉されない為に穴を塞ぐのが最適だと僕は思ったのだ。
きっとあの喫茶店の何処かの床下に穴がある筈だ。それを探し出すのは難しいと思われた。深夜に不法侵入するという手も考えたが、重美さんにこっぴどく叱られた。
「犯罪行為はダメ。もし私に隠れてやったら2度と大魚とエッチしてあげない」
別れると言われないだけマシかと思ったけど、これも相当な厳罰だった。だから不法侵入は止めて、正面から堂々とマスターと話し合いを持つことで、何とか重美さんも承諾してくれた。
「ただ、マスターはしらばっくれるだろうね」
「きっと僕の妄想だろうと一蹴されると思う」
「なのに話に行くんだ?」
「うん。だってあの人の心は悍ましい程の人間憎悪で渦巻いているんだもん」
「世の中にはそういう人もいるよ」
「わかってる。けど、重美さんも萠ちゃんの最後を見たでしょ?マスターはあんな風な事が起きるのをいつも楽しみにしているのだと思う。それって酷いですよね?」
「酷いよ。でも証拠はない。あったとしても警察には話せない。マスターが心を入れ替えない限り穴が埋められる事はない。ううん。入れ替えても穴は埋めないと思う。だって不思議な世界に行けるのよ?それを経験して戻ってこれるのだから、それを与えてくれる穴を埋める?埋めないよね?」
「僕達って本当に穴の影響を受けてあちら側に行ったんでしょうか」
「それ以外何があると言うのよ?」
「そうなんですけど、ならどうして怨念の塊のような穴の影響を受けるだけであんな世界に行けるのか。それとその影響下にあるのならもっと酷い目に遭っても良さそうじゃないですか?」
「それもそうね」
「でしょ?」
「思念の生物のような物なら、憎しみから解き放たれた思念も中には存在しているのじゃない?」
「その思念に触れたからあのよう世界へ行ったってわけですか?」
「多分。例えば直ぐイライラする人の周りって何故か似たような人がいたりしない?ほんわかしてる人は友達もほんわかしてたり。ルイ友ってやつよ。だから思念と似た精神状態にある人がそちらに引っ張られる、とか?」
「憎しみを強く抱いている人間にはそれに合った世界へと導かれる、もしくは食人仮面の干渉に遭う?」
「人ってさ。頭に来たりすると、ずっとその事を引きずって四六時中、あいつ死ねとか思い続けたりする人っていると思うの。そんな人が偶々喫茶じくうに立ち寄ったりすると、その気持ちの傾向にあった世界へと導かれてしまうのじゃない?」
メンタルの状態によって行ける世界が変わる?
マスターは世界は無数にあると言っていた。
それなら、あっちの世界が1つでない理由も説明がつく。嬉しい気持ちでも、その種類は様々だ。
僕のように恋人が出来た嬉しさとプレゼントを貰った嬉しさは同じ嬉しさでも違いがある。プラス恋人から貰った事と友達や家族、同僚からでも嬉しさの種類は違う。それと同じく怒りや悲しみ、苛立ち、無関心など人間には沢山の感情があり、それが瞬時に入れ替わり立ち替わりする。
そのようなどの気持ちの状態であれ、あちら側へ行けるという事か。もしこの推察が正しければ、怒りに満ちた気持ちでは喫茶じくうには絶対にちかづいてはならないという事だ。
食人仮面に干渉されるからだ。つまり殺害された萠ちゃんは何かしら怒りを抱えていたという事になる。だから食人仮面の餌食にされた。穴は憎悪を好むからだ。
増悪の思念の塊が食人仮面の正体なのだから、奴からしたら萠ちゃんは大好物だった。みすみす逃す筈がない。ならばマスター達が話していた夏夜さんという方もきっと怒りを胸に秘めていたのだろう。
「今、喫茶じくうに行くのはヤバいから、気持ちが落ち着いてからにしない?」
そうして2日経ち、ようやく僕達は喫茶じくうへ向かう事となったのだった。




