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第一章 ⑤

結局、ほとんど眠る事が出来なかった。ウトウトしていた時間もそれほどなく、おまけに寒くて完全に目が覚めた程だった。


大魚は今の時間を確かめようと胸ポケットからスマホを取り出した。9時17分だった。


一部分だけ煌々とした灯りが灯った。しばらく見ていたが時間が経過する事はなかった。


つまりこの時間は、僕達がらここへ来てしまった時の時間なのだろうと予測をつけた。当然、アンテナは立っていない。圏外だった。


僕は重美さんが寒くないよう、背中を摩ってあげた。

陽はまだ登らず、闇は未だに広がったままだった。

お腹が鳴り、オシッコがしたくなった。


僕は重美さんを起こさないよう、静かに身体から離れた。半月のような星は姿を消し、月も見当たらなかった。


僕は未だ夜目に慣れていない為、起き上がる事を諦めた。数メートル先も見えない中、歩いた先に落とし穴や崖があると危険だからだ。四つん這いで這いながら手探りしながら進んだ。


後ろを振り向くと重美さんが何処ら辺りにいるのかさえ全くわからなかった。


重美さんからどれくらい離れたかわからないが、我慢出来なくてその場で起き上がり、チャックを下ろしオシッコをした。


萎んだペニスをしまい、チャックを上げながら、僕は改めて考えてみた。夜が明けないのは、僕達が夜を望んでいたからではないのか?と思った。


つまり、あのコンクリートの部屋から出る時、ドアの向こう側はきっと夜に違いないと潜在意識の中で思っていたのかも知れない。


それはあの部屋に灯りが灯っていたのが、その要因ではないだろうか。まさかと思いながらも、僕は辺りを見ながら、声を出した。


「夜が明けた。そして朝が来た」


しばらく経っても僕のいる世界は闇のままだった。


どうやらここでは望んだ事を言葉にしても叶う訳では無さそうだった。


「参ったな」


思わず口に出る。このまま永遠に暗闇が続いたらと思うと胸の奥がざわついた。


一難去って又、一難か。いや、三難くらいのレベルだ。寒いし食糧も見つけられない。


この場所の地形すら分からずじまいでは動きようがなかった。その時、つい今し方、スマホを見た事を思い出した。


スマホのライトを使えば良いじゃないか。

我ながら賢いぞと思いながら、再びスマホを取り出した。


ライト機能を使って先ずは重美さんの位置を確認した。小さく身体を丸め微かに震えながら眠っている。


僕はそちらへ戻り重美さんの身体に自分の身体を密着させた。女性だからだろうか。


明らかに僕より体温が高く温かった。それでも震えているのだから、ここの気温はかなり低いと思われた。体感的には12月末くらいの寒さだった。


「温めてくれるのは嬉しいけどさ」


「起こしちゃいました?ごめんなさい」


「バッキバキに勃起したチンポを押し付けられたら誰だって目が覚めるわ。あ!今腰動かしたな?」


「し、してないです!」


「冗談よ」


重美さんはいい、自ら僕の身体に腕を回した。


「腰を引いたらそこに隙間が出来て寒いから、くっついてよ」


「でも、そんな事したら……」


「平気。だって興奮してるのは大魚くんだけだから」


「すみません」


「それにさ。勃起したチンポって暖かいから暖をとるにはちょうどいいのよ」


「そうなんですか?」


「んなわけ」


重美さんの言うように興奮しているのは僕だけで、それはこうして女性と2人きりで抱き合っているからであって、特別にムラムラしているわけではなくて……


「そういう事は口に出して言わない。それに何?ムラムラしているわけではないって。私を抱きしめておいて、それは無いよね?」


「あ、いえ、そう思えば勃起も治るかなと思ったので……」


「思ったからって治るわけじゃないでしょ?ていうか思っただけなら、ムラムラしないとか言葉にして言わないで」


余計な事を口走ってしまって重美さんを傷つけてしまったようだった。


本当は身体を密着させたせいでムラムラしたのだけど、そう言うとかえって失礼かと思い、勃起を鎮めようとしたのだけど、失敗に終わってしまった。


名誉は言い過ぎな感はあるけど、挽回はしておきたくて僕は一旦、しまったスマホを取り出した。


「何、眩しいって」


取り出したスマホの位置が悪く、つけっぱなしだったライトがモロに重美さんの顔を照らしてしまった。


僕はすぐにスマホを伏せた。


「ここ、電波入らないです」


「だと思った」


「時計も僕達が喫茶店にいた頃の時間で止まってます」


「動いてないんだ?」


「はい。理由はわからないですけどね」


「そうだねぇ。何もない空間からドアが現れるような所だもん。スマホが動かなくなったって不思議じゃないか」


「あと、僕たちがいるここには朝が来ない感じです」


「と言うと?」


「あの部屋から出た時のように、夜が開けろ。朝が来いって言ってみたんですけど、全く効果がありません」


「えぇ〜マジで?」


「マジです」


「なら私達、どうなっちゃうのよ」


「そこでスマホライトの出番なわけです」


「けどさ。ライトを使い続けてたらその内電池が無くなるんじゃないの?」


「そうなる前に全部クリアにしておけば良いのだけど、そう上手くはいかないですよね?」


「うん。きっとそうだと思う。あの部屋から出られた事は良かったけど、ここって明らかに広い土地だよね?風はあるし、星もちょっとだけ見えた。希望を持つ者の未来は常に開かれている。そう思いたいけど、正直、どうかな?って」


重美さんの言葉を聞いて、眠る為に僕を抱き寄せたのは寒さをしのぐだけではないような気がした。


重美さんは重美さんなりに不安だったのだろう。それを一時でも忘れる為に自ら僕を抱きしめた。


普通、ちょっと肌寒いからと言って恋人同士じゃないのだから、最初から抱き合って寝ようなんて言う筈がない。


それなのに僕と来たら、重美さんの気持ちを察する事も出来ない所か考えもしなかった。おまけにギンギンに勃起してしまった。


頭の中で重美さんの裸を想像しなかったと言えば、100%嘘になる。


仮にも僕だって男だから当然、あんな事やこんな事までしちゃう2人を思い浮かべた。


こんな時に着ている服が夏物のスーツだから、勃起したら直ぐにバレるに決まっていた。


ジーンズならまだ良かったのにと、今更どうにもならない事を思った。


けれどただこうしているわけにもいかない。だから僕はこの新たな暗闇の世界から出られる、もしくは朝が来る方法を見つけだせたら、その時は重美さんがエッチさせてくれる。


そう思い込む事にした。このような状況下にあっては何かしらのご褒美でもなければ、速攻でメンタルをへし折られてしまうからだ。


「よし」


僕は重美さんの腕を退け起き上がった。

スマホを掲げて周囲を見渡す。


「何処行くの?」


「ちょっと付近を見て来ます」


振り返り重美さんの足下付近にスマホライトの灯りを向けた。


「私を置いて?」


「すぐ戻ってきますよ」


「1人にしないで」


「わかりました。重美さんがそういうなら今から僕は重美さんのオシッコの時もうんこの時も、絶対に側から離れません。むしろ重美さんが不安にならないように、ピッタリくっついて正面から見ていてあげます」


「大魚くんさぁ」


「はい」


「側にいてくれるってのは嬉しいけどね」


「ええ」


「私がオシッコしてる所を正面から見るって、それガチで大魚くんの性癖でしょ?」


「違いますよ。ただの冗談に決まってるじゃないですか」


「にしては熱がこもった言い方だったけど?」


「僕がそう言えば、重美さんが頭に来て散策させてくれるかなと思ったので、あんな風に言っただけで、本意はないです」


「どうだか」


重美さんはいい、身体を起こした。


「私も一緒に行くよ」


「良いんですか」


「良いも何も、1人で行かれて大魚くんの身に何か起きでもしたら、私、ほったらかしになるじゃん?」


「あ、まぁ可能性としては無いとは言い切れませんね」


「それなら、せめて何か起きたのを見ておきたいよ。そうすれば私も1人で生きる決意が出来そうだしさ」


「完全に僕、死んじゃってるじゃないですか」


「例えば、の話よ。例えばのね」


僕は苦笑いを浮かべながら頭を掻いた。このわけのわからない世界に来て一晩くらいは過ぎただろうか。


お風呂に入って無いせいか、髪の毛が脂っぽい。心なしか身体も痒かった。それに口の中も臭い。歯磨きしたいなと思いながら、立ち上がった重美さんを見て僕は正面へ向き直った。


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