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第五章 ④⑥

重美さんのお陰で僕も数多くの果物の朝食にありつける事が出来た。彼等は一同、重美さんの奮闘を褒め、口々に頭が下がると言った。


「そこで改めて重美に尋ねたい事があるが良いか?」


唐獅子という名のバクが口を開いた。


「いいよ」


「この山の洞穴の中には何があるのだ?」


「何もない。あ、違う。白骨死体があっただけ」


「白骨死体?」


「うん。洞穴の中で死んでしまったんだろうね。年月と共に腐っていつの間にか骨に帰った、そんな感じ」


「そやつは重美と同族なのか?」


「骨だけみたら、うん。間違いないかな」


「そうか。ならやっぱり、アイツは死んだのだな?」


「アイツって誰?」


「数年前、重美と似た、いや、大魚と似た者が、いつしか現れてその中で暮らすようになっていた。俺達が気づいた時には既に住んで生活をしていたんだ。こちらから何度か話しかけてみた事があるが、返事すら返して来なかった。代わりに目にも止まらぬ速さの鉛の玉を撃って来ては、俺達を近寄らせもしなかった。その威力は凄まじく殺傷能力も高いとみえて誰も近寄る事が出来なかった。だからアイツは危険な奴だとずっと気になってはいたんだ。警邏中も様子を伺いに行こうとしていたが、鉛の玉の一件があった為に、危険を冒してまで近寄る事はしなかった。こちらに害を及ぼすなら、戦わなければならなかっただろうがそれもなかった。稀に群れの仲間が湖で水浴びをしている姿を何度か目撃した程度でそれ以上の事は何も起きなかった。だから害は無いと判断し、放っておいたのさ。そしたら重美達が現れ中へ入って行ったものだから、個人的にだが、あんた達を警戒していたのさ」


唐獅子の話だと、最初、仲間の出産が長引いている事も僕達が現れたからではないかと考えていたらしい。


だが重美さんのお陰で無事赤ちゃんが産まれると唐獅子は考えをガラリと変えた。


僕達が現れたのは、赤ちゃんを無事に出産させてくれる為だと思い直し、その考えは赤ちゃんを取り上げた重美さんの嬉しそうな顔を見て確信したそうだ。


そしてこの宴のような朝食に何も知らず寝ていた僕を受け入れてくれた事は、バクの群れに対して邪な考えだった僕の心を少なからず軽くしてくれた。


「とにかく重美には幾ら感謝しても仕切れない。

私達の群れにとっては数年ぶりの待望の赤ちゃんだし、その子が元気だという事は何よりこの地に幸福を呼び寄せてくれる証でもある。その為に尽力してくれた重美には今後より良き幸福が訪れるのは間違いないだろう」


唐獅子は胸に込み上げるものがあったのか、最後の方は声が震えていた。


唐獅子の言葉を察するにバクの群れはここ数年良くない事が続いていたようだ。洞穴の人間しかり、群れに新たな赤ちゃんが出来ない事、いや口調からして赤ちゃんが出来ても死産や病気などで早くに亡くなってしまったのかも知れない。


それだけ今回の出産はバクの群れにとっては待望の赤ちゃんだったようだ。


その赤ちゃんを見てみたいと思ったが、それを口にするのは何となく憚れた。言ってはいけない気がしたのだ。


「このような粗末な宴でしかお二人を歓迎出来ないが、今後、もしこの地に長く留まるようであるならばわからない事があれば遠慮なく言ってくれ。幾らでも力になる」


唐獅子はいい、食事の席を立った。


「私達はこれでお暇するが、洞穴の中にいるのであればくれぐれも注意して欲しい。白骨死体となっていた者が何をしていたか私には想像すら出来ないが、誰にも看取られずそのような死に様をしたとあっては洞穴にいる事は良からぬ事を招くきっかけを作ってしまうものなのかも知れぬ。くれぐれも注意なさい」


唐獅子はいい、他の仲間へ指示を出して、黒曜石のテーブルなどの片付けを始めさせた。


「唐獅子ありがとう。気をつけるね。ザクロや他の皆んなもありがとう」


洞穴の出入り口から去っていくバクの背を見送りながら重美さんが手を振った。



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