第四章 ④①
背中を叩かれている気がして目が覚めた。
寝ぼけ眼で顔をあげると重美さんと花葉の2人がぶつぶつ言いながら僕の背中を蹴飛ばし続けていた。
「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い大魚ってキモい大魚ってキモい大魚ってキモい大魚ってキモ過ぎ……」
「あの痛いんですけど。あ、痛いですって。おはようございます」
「花葉、チンコ人と口聞いたら駄目よ。チンコ人はキモいんだから」
「うん。家族でもないのに私達の身体に腕回してチンコ勃ててんだもん。気持ち悪い」
「あ、あの、それは自然現象であって、男なら誰でも、痛いですって。とりあえず蹴るの止めてもらえますか?」
半身を起こしながらそう言ったが2人は意に介さず蹴り続けていた。まだまだ止める気はなさそうだ。
「なら私達の身体に腕を回して抱きしめるの止めて貰っていいですか?あーキモいぃぃぃ!なんであんな事すんのよ!」
「あ、いや、それは2人を守ろうとして……いや無意識ですよ」
「違うね。絶対違うね。頭の中で家族の妄想してたに決まってる」
重美さん、貴女はエスパーですか!なんて思いながら、
「そんな事してません」
「思い切りニヤけてんじゃねーか!」
重美さんが言うと花葉が笑い出した。
「そんな風にいうけど重美も意外と大魚の事が好きっぽいよね」
花葉に言われて重美さんはないないと顔の前で手を振っていたが、耳が赤くなったのを僕は見逃さなかった。これは脈ありか?と思ったが2人でこのような世界に来て常に一緒なら、心を許す事もある。それが好き?好きかもという錯覚を起こさないと誰が言えるだろうか。やはり、本番は無事東京に戻ってからだと僕は思った。完全に不可能とわかりこの世界で生きて行かなければならなくなった場合のみ、僕は重美さんに告白するとしよう。
「おい。大魚。お前何腕組みして1人で頷いてんのよ?又、エロい事考えてんじゃないよな?」
重美さんがエスパーじゃなくて良かったと思った。
ようやく背中を蹴る事を止めてくれた2人は既に朝食を済ませたようで、食器類が調理場の上に重ねて置かれてあった。
「ひょっとして僕の朝食あったりします?」
「あるわけないだろ。朝食ってのは全員揃って食べて初めて朝食ってもんが成り立つの。その時、いない者は朝食を食べる権利は無い」
「起こしてくれたら良かったじゃないですか」
「それどころじゃなかったんだよ」
「え?まさかヤカラが侵入して来たんですか?」
「違えーよ。大魚が私達をぎゅっとしてたから、怖くて鳥肌が立って花葉を起こして2人で震えていたのよ」
「怖くて震えているのに良くもまぁ人の背中を蹴り続けられましたね」
「あれは蹴っていたんじゃないの。震えが止まらなかっただけ」
重美さんはいい、同意を求めるように
「ね?花葉、そうだよね?」
と言った。
「わかりました。とりあえず謝ります。ごめんなさい」
「とりあえずって何?ねぇとりあえずって」
それなりに話に付き合ったのに、重美さんはまだ執拗に詰め寄って来る。さすがにイラッとしたが、ここで喧嘩は良くないと思い直し、2人の目を見て謝罪した。
「この度は大変ご無礼を致しまして誠に申し訳ございませんでした。この通りです。以後気をつけますのでどうか許してください」
僕は土下座の姿勢を取り床に額をつけながら謝った。
「最低ラインだけど、大魚にしてはまぁよく出来た方だから、許してあげる」
「ありがとうございます」
「えー。重美こんなので許しちゃうの?」
花葉。この謝罪でも許せないのか。その感覚を捨てないと将来重美さん以上のとんでもない女になってしまうぞ。
「駄目?」
「重美が良いならそれで良いけど。私は元々何とも思ってなかったしさ」
「こら。花葉。それは言わない約束だったじゃない」
「あ、そうだった。重美ごめんなさい」
この2人、計画的に僕を虐める話をでっちあげていたな?僕が起きないものだから朝食を食べながら考えていたのだろう。勿論、発案者は重美さん以外にあり得ない。
「顔、洗っても良いですか?」
僕はいい立ち上がり調理場の横にある桶から水を汲み出し顔を洗った。歯ブラシがない為、水で口を濯ぐ。うがいもした。その後で喉も渇いていたので2杯ほど桶水を飲んだ。
「ねぇ。花葉、寺院の中にトイレ、じゃなくて処理場はあるの?」
「うん。あるよ」
そう言うと花葉は手招きしながら、ついて来てと言った。
処理場は調理場の奥にあった。処理場は、見た感じ和式に似ているが便器にあたるもの円形の木で出来ていて、その中央の穴の底はかなり深いのか暗闇が広がっていた。所謂、ぽっとん便所と言われているようなものに似ていると思った。多分、溜まった汚物は汲み取り式で処理されるのだろう。
用を足し終えると調理場に2人の姿はなかった。僕は桶から水を汲み手を洗った。僕が処理場に行っている間、2人は祭壇の表の方へ出たらしい。僕もそれに倣った。
「重美達はどうするの?」
祭壇の下から姿を現した僕をみつけた花葉がそう言った。
「これから?」
重美さんが言う。
「うん。私は皆んながヤカラから解除されるまでここにいるだけだけど、大魚も重美も人間の世界に戻る場所を探してるんだよね?」
「そうだね」
2人の側へ向いながら僕が答えた。
「クルクルってやつだっけ?」
「うん。私が知ってる方法はクルクルだけ。直接見た訳じゃないけど、ここに来た人間は皆んなクルクルに入っていなくなったらしいから。だけどクルクルを通ったら絶対に人間の世界に戻れるのかは私にもわかんない。だって行った事がないからさ。けど人間は皆んなクルクルに戻って行ったって言うから多分そうなんだと思う」
「でもマーラさんの話だとぐるぐるは存在しているけど、クルクルに関してはいつ何処に現れるのかもわからないらしいよね?」
「そうみたい」
「正直、いつ何処に出現するかもわからないクルクルを見つけるのって至難の業だよなぁ」
「だろうね。死ぬまで見つからないかもだし」
「それはキッツイな」
「かも知れないし、今、この村の何処かに現れているかも知れない」
「その可能性が否定できないからこそ、元の世界に戻る事により厳しさを痛感させられちゃうんだ」
「僅かな可能性を信じてここでじっと待っているか、それとも旅を続けながらクルクルを探して見つけ出すか。私は旅を続けたいかな。理由はぐるぐるを通った先にある世界を見てみたいから。まだ1度しか通った事ないけど、出た先がダスターズの村だったわけよね。そこで行倒れのようなら私達をマーラが助けてくれた。きっとそれはとても運が良かったのだと思う。ぐるぐるを通る度、毎回、意識を失ってしまうのだとしたら、出た先が野獣やチンコ人の村や極寒の地だったら先ず助からないと思う。だとしても行ってみたいのね。頭がイカれたか?って思われるかもだけど、私意外とこの世界は嫌いじゃないのよ。変わった部族や民族の方がいるしさ。流石に今回のヤカラには正直、ビビったけど、でもこうして花葉とも仲良く慣れたし、こんな出会いは素敵だなぁて思ったりするのね。だから私は旅を続けたいかな」
「僕も同じです」
「うっそだー。大魚は重美が好きだから一緒にいたいだけじゃん」
この娘。大人に対してド直球過ぎるだろ!
けど本当の事過ぎて即答出来なかった。
「花葉。ごめんね。それは当然の事なの。人間の男は皆んな私を好きになるの。だから一緒にいたい、ついて行きたいってのはチンコ人が朝チンコを勃たせるくらい当たり前の事なの」
例えが酷すぎるけど、ある意味助け船が出されてホッとした。
このような言い方なら僕が重美さんの事が本気で好きって事はバレないだろう。冗談だとしても重美さんが自意識過剰に振る舞ってくれて良かったと思った。




