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第四章 ③⑥

深夜になってからようやく重美さんが起きて来た。


「水」


と言うので僕はバックパックから樽を取り出し柄杓に汲んであげた。手渡すと一気に飲み干し、柄杓を僕に突き出した。


「もう一杯飲みますか?」


僕はいい、つなぎの泉から汲んできた水へ柄杓を入れようとした。


「大魚、その水はもういらない」


やはり砂糖水のように甘さがある為、吐いた後や飲み過ぎた後では口に合わないのかも知れなかった。


「起きたばかりで申し訳ないですけど」


「申し訳ないならやめて」


重美さんの身に二日酔いに近い症状が起きているのかも知れなかった。


「頭痛いですか?」


と言った後、頭痛薬を出せるなら良かったのだけど、僕達は薬という物を持ち合わせてはいなかった。自然に治まるのを待つしか方法はない。


僕の言葉に首を振る重美さん。ならまだ吐き気がするのだろうか?そう尋ねると再び首を振った。


「今の私、見るからに二日酔いのように振る舞ってるけど、私の中ではめちゃくちゃムラムラしてんの。欲情しまくってんのよ。だから大魚の顔を見たらむしゃぼりつきそうで怖いのよ」


「そんな効力があのお酒にあったんですか」


「それはわからないけど、まぁ多分、私がそうなってるから、マカとかみたいな成分が大量に含まれていたんじゃないか、あぁ!大魚、もっと私から離れて!」


マカかどうかはわからないが重美さんがいうのだから精力増強剤的な物が大量に含まれていたのは確かだろう。冗談であれば重美さん自ら擦り寄り僕を揶揄う筈だからだ。


だけど今は側に近寄らないでと訴えて来ている。

性魔獣のような自分になりかけているのを必死に堪えているようだ。そんなお酒を7本も飲めばそりゃおかしくなるわけだ。だけどそれがわかった上で村長は重美さんにあのお酒を飲ませたのだろうか。わかった上でなら、重美さんに手を出していそうなものだけれど、それとは逆に寧ろ酔っ払いの重美さんに嫌がっている風でもあった。つまり村長を含めこの村の人達は自分達が飲んでいるお酒の中身に精力増強剤が入っている事も知らないのかも知れないという事だ。お酒を作る過程や工程に関しても恐らくは口頭や手順を見て伝え続けられたものなのだろう。


にしてもこの村にビンがあるのも不思議だった。ここ以外の場所に酒造所やビンを作る場所があるのかも知れないけど、獣を獲るのも弓と矢を使う原始的な村にあってやはりビンは特異であり異物でしかない。今更ながらそのビンを良く見ておけば良かったと思った。その理由としては人間が持ち込んで来た物かも知れないからだ。持ち込む事でこちらの世界に異変が起きるような事は無さそうなのは何よりだけど、それにしてもダスターズの皆さんは人間に頼り過ぎと言えなくもない。


まぁ。ヤカラから村を守ったのが人間という話だから頼りたいと思う事も無理はないけれどと思う。様々な事に関してもっと色々と自分達で考えるべきじゃないかと思わなくもなかった。

それをした上での[人間]なのかもだけど、何の取り柄もない僕達ではヤカラを排除するのは到底無理だし、期待以上に期待されている事で、少しばかり肩身の狭い気持ちになってしまう。


「重美さん」


「……ふぅ……何?……」


「話出来そうですか?」


「うん。大丈夫かな」


あまり長話をしてはいけない感じがあるので僕は端的に話す事にした。


「出来るだけ早くこの村から出ませんか?勿論、重美さんの体調が良くなり次第ですけど」


「……そうね。それが良いかも」


「マーラさんか村長からヤカラの話は聞きましたか?」


重美さんが頷いた。


「村の人には申し訳ないですけど、とても僕らでは手に負えないですよ」


「話が本当なら、そうよね。ヤカラって奴らは今も松明を消そうと躍起になってるかも知れないしさ」


「ですね」


「でも正直、どんな姿なのかこの目で見てみてみたい気持ちもあるんだよなぁ」


重美さんは腰をムズムズと動かしながらそう言った。まだ、僅かに欲情な気分が抜けていないようだ。


「身体は大きく牙も鋭くて力も強くおまけに二足歩行。動きは遅いみたいですが衣服を来てダスターズの村人になりすます事もあるようですよ」


「そんな奴が着れる服なんてないんじゃね?」


「ヤカラはめちゃくちゃ着痩せするらしいです」


「何それ」


重美さんはいい笑った。


「幾ら着痩せするからっていっても骨格だけはどうしようもないでしょ?身長もそれに当てはまるよね。背中を丸めたり膝を折って歩いても最初は良くても誤魔化しは効かない気がするけどなぁ。それに村の人達だって互いを知っている筈だから簡単にバレちゃうよ。ヤカラって知能レベルは低いのかもね」


それは僕も思った事だった。だがヤカラと言っても全部が大人な訳ではない筈だ。子供であれば村人と遜色ない体格の物がいないとは言い切れないのではないか。勿論、重美さんもそれくらいは理解しているだろう。


僕は用意された食事に手をつけた。緑色のスープは恐らく野菜か何かだろう。相変わらず主食はハムのようだ。それらをチャイで流し込み、食器が乗ったお盆を持って立ち上がった。


「何それ」


重美さんが床を指差した。その指を目で追うとそこは今、お盆が置かれてあった場所だった。そこには2本の鎌のような刃物が置かれてある。柄には彫り物が施されており、鎌よりは大分小さいが切れ味鋭そうな刃がテントの中の松明に照らされギラリと光っていた。


「護身用にって事なんでしょうか?」


「そうかもね」


「ならどうしてマーラさんは最初からそう言わなかったんでしょう?」


「言えない理由があったんじゃない?」


「それってつまり……考えたくはないですけど」


「多分さ。私達、村人から襲われるかもだね」





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