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第四章 ③④

「大魚さんをお連れしました」


マーラさんが声をかけると村長から返事があった。


「早く来たれい」


そこまで歓迎されてるのか?と改めて驚いたが、マーラさんがテントに向かって手を差し出した為、僕は「失礼致します」といい、テントを開いた。


中を見て真っ先に目に飛び込んで来たのは、頬を赤らめた重美さんの顔だった。


重美さんは村長の膝の上で胡座をかき、茶色いビンの飲み物に口をつけていた。プンと香るその匂いは、芳醇な苦味のある香りがした。まさかとは思ったが、重美さんはニヤニヤしながら手を挙げた。


「大魚、こっちこっち」


とろんとした瞳の先に僕は居らず、重美さんは村長が飾っているレリーフに向かって呼びかけていた。


重美さんが完全に酔っ払っているのは一目瞭然だった。


「大魚殿、済まぬが……」


それ以上聞かなくても僕には、いや誰にでも気づいた筈だ。


「わかりました。今すぐ、その失礼な人を退かします」


言ってから僕は村長の側へ行き、重美さんの両脇に手を差し込んだ。


「重美さん、いい加減にして下さいよ!」


「わぁ〜大魚ちんらぁ。このう。わらしを犯しに来たらぁ」


「この人、どれだけ飲んだんですか?」


その手からビンを奪いながら僕は尋ねた。

村長は頭を掻きながら視線を斜め右前方へと向けた。そこには既に空となったビンが7本転がっていた。


「美味しいと重美殿が言うものでな。飲みっぷりも男顔負けで、その姿が何とも豪快でついワシも嬉しくなってしもうて……」


「村ちゃん、こいつどうてーなんらよ」


全身を弛緩させ真後ろへ頭を放り出しその体勢から村長を見ながらそう言った。


「よ、余計な事を言うんじゃありません!」


僕はいい、重美さんの身体を引き寄せ、引きずりながら村長の膝から退かせた。


再び近寄れないように距離を取り横にさせる。

重美さんは手足をバタつかせながら、もっと頂戴よ!と呂律の回らない口で文句を言い始めた。


「すいません。本当に失礼しました」


僕は床に手をつき必死に頭を下げた。


「いや、勧めたワシも悪いからの。同罪じゃ」


逆に村長まで、こちらへ頭を下げる始末だった。


全くとんでもない事を、と思って重美さんをみると既に気持ちよさそうに寝息を立てていた。


その姿にホッとし改めて村長にこの度のおもてなしに感謝した。


「感謝したいのはこちらの方ですじゃ」


「いえ、僕らは単に人間の世界に戻る為に旅をしているだけですから」


「クルクルはご用意されておらんのかな」


「というより、僕達はそのクルクルなるものを持っていませんし、存在すら知らないんです」


「それでどうやってヤカラ族を倒すというんじゃ」


「倒す?ヤカラを?僕達がですか?」


「大魚殿や重美殿はワシらをヤカラから救う、ただその為に来たんじゃろ?」


「いえ違います。ただ人間の世界から何故こちらの世界へと迷い込んでしまっただけで、ヤカラを倒す為に現れた訳ではありません」


「なら、用もないのに何しに来たんじゃ?」


「来たくて来た訳ではなくて、突然飛ばされたんです。そもそもこのような世界が存在していた事すら知らなかったのですから」


「そうでしたか。てっきりワシはわが一族の危機を救う為に来られたのじゃと思うとりました」


「……なんかすいません」


「いや、こちらもお2人の話も聞かなんだで勝手に喜んでしまいましたわい」


村長はいい、肩をガックリ落とし、この世界の中で1番の悲しい顔を見せた。


参ったなぁと思いながらも、ヤカラ族を倒す手立てなど僕達に持ち合わせてなどいなかった。


「ですが、ヤカラ族は火が苦手と伺いました。それさえ続けていれば襲われる心配はないのではないですか?」


「そうではあるのですが、最近では火に慣れたヤカラも増えておるようでな。それが皆を不安にさせておるんです」


「だとしても、法術使いでなければ直接倒す事も出来ないとマーラさんもおっしゃっていましたが?」


「ワシらは皆、人間の方々は法術がお使いになられると言い伝えによって信じておりますじゃ。前回、人間の方々が現れてくれた時、ワシはまな小さな子供でしたじゃ。ですが、その方々は機関銃という法術によってヤカラ族を次から次へと撃ち倒していってくださいました。それに人間の方々が現れる時は決まってヤカラ族がワシらダスターズ族を喰らう為に大暴れする時と決まっておるのじゃ。最近、特にヤカラは不穏な動きをしとりましたから、人間の方々が現れてくれると皆、信じておったのです。丁度そこへ重美殿や大魚殿がぐるぐるからやって来た。これは間違いなく災難を防いでくれる為に現れたのじゃと思うのは当然じゃと思いますが?」


僕達はとんでもないタイミングでここへ来ちゃったじゃねーか!どうすんだよ?逃げ出すか?いやそれは僕達を信じてくれている村長やその他の人達に対して無礼過ぎる。かと言って、重美さんはあんな風だし、僕達は一体どうすれば良いのかって話だけど……


「がっかりさせるようですが、僕達にはその法術という物を使うことが出来ません。つまりそれはヤカラを倒す事が出来ないという事になります。

追い払う事も無理でしょう。なのでやはり最善は村一体全てに炎の数を増やして、ヤカラの入り込む隙間を作らないというのが良いと思います」


「出来るよ。村ちゃん、そこの大魚はさ。童貞なの。童貞ってさ。魔法使いになるんだ。幾つまで童貞だったら魔法使いになれるんだっけ?」


いつの間にか起きたのか重美さんが横から口を出した。虚な目で僕を見ている。


「30歳です。でもそれはあくまでジョークですからね?本当に魔法使いになんてなれる筈はないですから」


「幾つよ」


「はい?」


「大魚は今幾つだって聞いてんだよ」


あれ?さっきまで気持ちよさげにノリノリだったのが一眠りしたらアルコールが悪い方へ循環してないか?ヤバそうな気がしているのは何も僕だけじゃ無さそうだ。村長も顔が引き攣っていた。


「22才ですよ」


「つまり後8年ってわけだな?」


「まぁ、そうなりますよね。その話が本当なら」


「て事だからさ。村ちゃん、あと8年だよ。8年待ってあげて。そうしたらさ。大魚がさ……」


そこまでいって重美さんが黙り込んだ。みるみる顔が青ざめていく。両手で口を押さえたかと思った矢先、素早い動きで村長のテントから飛び出して行った。


「僕の連れはあんな人ですよ?それでも村長は僕達に村が救えるって思えますか?」


「全く思えんわい」


「でしょうねぉ」


僕が返すと村長は立ち上がり、重美さんが飲みまくったビンのお酒をテントの隅から持って来た。

一気にあおった。


そりゃ期待はずれの人間が来たってわかったら酒を煽りたくもなるよな。わかるよ。村長。


そんな村長の姿を見ているのも忍びなくて、僕はここから出ていく言い訳に重美さんを利用する事で、上手くテントから逃げ出す事が出来たのだった。




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