第三章 ②③
重美さんのスーツについた土や埃を払うよう命じられた僕は嫌な予感がしてならなかった。
特にお尻についた汚れには極力触れたくはなかった。いやらしい気持ちがなくても、きっといちゃもんをつけてくる筈だ。
やれ指先が曲がってて握るように払ったとか、下から上に払ったのはお尻の弾力を確かめる為だろうとか、色々言われそうなのでお尻については、自分で払うようお願いした。
「ふんっ。ビビリが」
そう言って重美さんは僕に背中側の肩から下の汚れを取り払うようお願いして来た。
背中を払っている時、
「ねぇ大魚さぁ」
と話しかけて来たので、手は止めずに何ですか?と尋ねた。
「今、ブラのホック外そうとしたでしょ?」
「はい?」
「本当、大魚の性欲は止まる事を知らないわけ?」
「いや、あの、」
「このエロ野朗が!」
「ブラのホックはまさに盲点!」
「アマチュアだねぇ」
何がアマチュアなのかよくわからないが、取りあえず、埃を払った後、「参りました」と土下座しといた。
これで旦那にさせられるランキングの順位が上がるのだろう。そう言うと重美さんは上がる訳無いじゃやんとあっさりと否定した。
「その程度の事で責任取って貰おうなんて人として女として烏滸がましいにも程があるじゃん?いくらなんでもそこまで落ちぶれた女じゃないわよ」
ある程度、汚れが落ちると重美さんはジャケットを脱いで確かめた。
暑いのかワイシャツの襟のボタンを3つも外した。それだけで胸の谷間が見えてしまった。
すかさず視線を逸らした僕だったがら痛いほど重美さんの視線を感じた。だが重美さんは何も言わずジャケットを腕にかけ、
「行こうよ」
と言った。
ススキの畑が終わりに来ると、グンと気温が下がった気がした。空気もひんやりし始め重美さんは再びジャケットを着込んだ。
目の前には不穏な峡谷が3頭の龍のように聳えている。舗装された道が終わりを告げるとそこからは赤土の幅広の道が広がっていた。
左右を確認するが給油所らしき建物は見当たらなかった。
「もっと先へ進まないといけないみたいですね」
僕の言葉に頷いた重美さんは何処となく落ち着きがなかった。ソワソワしている感じを受け僕は尋ねた。
「トイレ?ですか?」
「ううん」
「そうですか。ならお腹空いたとか?」
「それはまだ平気。大魚はお腹大丈夫?」
「かなり減ってます」
「給油所探しは一旦、休んでからにしようか?」
「いえ、大丈夫です。それを済ませてから食事にしませんか?」
「大魚がそれで良いっていうなら私は構わないけど」
僕達2人は赤土の上を歩いて峡谷の方へと向かって行った。直ぐに水の流れる音が聞こえ、僕はテンションが上がり、重美さん!水ですよ!水!と叫んでしまった。
「確かに音はするけどさぁ。実際目にするまでは信じられないかなぁ。トイレの音消しの為に水場の音声を流せたりする所があるじゃない?この音、それに似てんだよね」
「かもですけど、こんな場所には無いですよ。ましてやそのような音を出して何の特があるっていうのですか?例え誰かがトイレをしていたとしてもこれだけの音ですよ?どれだけ大勢でトイレをしてるんだよって話になりますよ」
「そうよね。そうだよね。わかるのだけど、何か信じられないのよ」
「水場が無いって事ですか?」
「そうは言わないけど、なんて言って良いのかなぁ。水場はあるけど、せせらぎの音は偽物って気がするの」
よくわからないがとにかく向かって見れば全てわかる事だ。巨大な峡谷があるのだから雪解けなどが流れつく川くらいある気がする。
となればその付近には動物や人が住んでいる可能性もあるって事だ。
「急ぎましょう」
「うん」
それから15分くらいに歩いただろうか。右手にセルフサービスと書かれた看板が出でおり、そこには随分古めかしい平屋があった。
入り口らしき柵は錆びて折れており、そばには24H営業と書いた立て看板が大きな御影石に立て掛けられてあった。
御影石にはほつれて切れかかっているしめ縄がされてある。という事はこの石は御神石という事だろうか。
わからないが僕達2人はとにかく平屋へ向かって中へと入っていった。




