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第三章 ②②

「ドスッン!」


とんでもないない音がしたと思った矢先、目の前から重美さんの姿が消えた。


「重美さん!」


僕の目では捉え切れない何かが重美さんを攫ったのか?と思った僕は無我夢中で走り出した。


途端に足を掠め取られ顔面から舗装された道へ倒れてしまった。


「ここだって」


僕は大の字で倒れたまま


「重美、さん」


と言うととてつもない痛みが顔全体に襲いかかった。


「油断してたぁ」


重美さんはいい、


「大魚を励ましたせいだなこりゃ」


ゆっくりと身体を起こした僕は正座する形で打ちつけた顔に触れてみた。額が痛い。たんこぶが出来ていた。鼻からは鼻血が少々。両方の鼻の穴から出ていなかったのが救いだった。散々重美さんの鼻血顔を見て笑ったせいでバチがあたった……か?とそこまで考えて僕は後ろへ振り返った。

道を眺める。躓くような箇所は見当たらなかった。て事はだ……


「何も足を掴もうとしなくても良いじゃないですか!」


怒鳴る僕を見て重美さんが指差しながら笑っている。鼻血鼻血とヒッヒと笑う。


「重美さんだって人の事笑える立場じゃないでしょ」


重美さんは胸の上まで道の下に埋まっていた。僕に向かって両手を振って見せる。


「重さ、解除しないんですか?」


「したいけどさ。でも、それをすると大魚を傷つける事になるじゃない?」


「何も僕を対象に暴言を吐かないと重さが解除出来ない訳じゃないですよね?とにかく暴言吐けばとりあえずは解除出来るわけですよね?」


「………」


「どんだけ僕に暴言を吐きたかったんですか」


「対象がいた方が言いやすいしさ」


「それなら何も僕じゃなくたって、この世界の事とか色々あるじゃないですか」


「チッ。こんな時だけ妙に察しが良いんだもんなぁ。なんか腹立つ」


重美さんは渋々といった風な顔でこの世界と道に向かって暴言を吐いた。


その後で両手を突き上げた。


「どうしました?」


「引っこ抜いて」


「タケノコかよ」


「タケノコは引っこ抜けません。引っこ抜けるのは大根やさつまいもです。タケノコは鍬で切り倒すんです。あと特殊な例で言えばチンコも引っ張って下げてを繰り返してあげればある意味ヌケますが、でも特殊な方なら千切れるまでずっと引っ張り続けるでしょう」


「令和の阿部貞かよ!新しやり方過ぎてビックリだわ!」


「下手くそなツッコミはいいから、早く引き抜いてよ」


「そこはお願いしますでは?」


僕は鼻血をジャケットの袖口で拭いながら言った。


「お、お、おぉぉぉ〜」


「どんだけ僕にお願いするのが嫌なんですか」


「冗談よ。大魚くん。私を引き抜いて。お、ね、が、い」


重美さんはいい僕に向かってチュッと唇を尖らせた。


「そんな事でドキドキする男は中学生までくらいですからね」


僕はいい重美さんの両手を掴み引っ張りあげようとした。


「痛い痛いいーたーいー」


引き上げようとした時に腕にばかり負荷がかかったのか重美さんはそのように訴えて来た。


仕方なく僕は腰を屈め重美さんの脇の下へ腕を入れ身体を抱きしめた。重美さんは僕の首に両腕を回した。


「行きますよ」


スクワットの要領で両足の力を利用し、ゆっくりと重美さんを持ち上げる。


全身を引き抜くまで何度か痛いと訴えて来たが途中で止める訳にもいかず、我慢して下さい!と言いながら何とか重美さんを道から引き抜く事が出来た。


「せっかく治りかけてた膝小僧が又、擦りむいて酷くなったじゃん」


「その程度の傷なら道に埋まったままよりは全然マシでしょう」


「私を傷物にした張本人の癖によくそんな事が言えるわね」


「いや、全然僕じゃないし」


「直接手を加えてない分、大魚の方がタチが悪いわ」


何言ってんだこの人。最初の傷は自分で勝手に転んで出来たものだし、今回のだって仕方なく出来たものだ。


それを他人の僕のせいにするなんて全くどういう神経をしてんだ。完全に思考回路がバグっているとしか言いようがない。そこは先ず僕に感謝だろう。


「ま、でも傷物にされた側からしたら、最悪、責任とって貰えば済む事だから良いけどさ」


何の責任だよ。


「とりあえずはお礼をいっとくわ」


とりあえず?はい?とりあえず感謝なのか?あの状況を救った僕に対しとりあえずって……別に感謝されたくて助けた訳じゃないけど、さすがにその言い方はどうかと思った。


「私の旦那になれる券の196542番目に入れといてあげる」


自分で転んで作った傷なのにそれを僕のせいにして、尚且つ自傷した傷を僕のせいにして傷物にされたからと責任は旦那になる事でその責任は果たせるみたいな言い方だけど、でもその低すぎる順番よ。いや、良いんだよ。低すぎて良いんだけどさぁ。つか196541人はどんな奴だよ!何処からそれだけの男の人数が出てくるんだ?何かわからないけど少し辛かった。


「ありがとうございます」


こういう時は無難に感謝してみせるのが一番だ。


「あまり嬉しそうじゃないわね?」


「そんな事ありませんって。重美さんの旦那候補に入れただけで、奇跡ですし感謝感激しております」


そんな事より、1番目の男って重美さんに何やらかしたんだ?どうせ又、言いがかりをつけてその人のせいにしてるのだろうけど、重美の旦那ポールポジションは一体、どんな人なんだろう?


「それならまぁ良いけど。やっぱ中には候補になれた事を喜ばない奴もいるからさ」


自己肯定嫁レベル高すぎだろ。一体、どんな生き方したら自分の事にそんなに自信が持てるんだ?

さっぱりわからねぇ。


「あのう……」


「重美さん、素朴な疑問なんですが、旦那候補の1番の人って重美さんに対して何をやらかしたのでしょうか?」


「遠足の時、私のお弁当の中からタコさんウインナー取った」


「え?それだけ?」


「それだけって何よ。私にとってはかけがいのない物だったんだから」


「遠足って言いましたけど、それ幾つの時の頃ですか?」


「小1」


「つまり、重美さんのタコさんウインナーを取った人が旦那候補の1番目って事ですね」


「そうよ。悪い?」


「そんな事はありませんよ」


というか膝小僧擦りむきよりタコさんウインナーが上っていう考えが理解出来ねぇ。あ、でもそれは重美さんにとっては深く傷ついたレベルの差で旦那候補の順位が決定されているって意味だよな?この人、人生で一番傷ついたのがタコさんウインナーを取られた事かよ。そう考えると重美さんの事が何だか微笑ましく思えて来た。二十数年間生きて来た中で重美さんを傷つけたトップオブザトップがタコさんウインナーを取った人……


「その1番の人は今、どうしているのですか?」


「何してるか、何処にいるかも知らない」


「えーーー!知らないのに1番ですか!そんな人に重美さんは自分を嫁にさせてタコさんウインナーを取った責任を取らせようと考えているのですか?」


「悪い?」


「いや、それはまぁ、重美さんの考えなので否定はしませんけど……因みにその人をどうやって探す俺つもりですか?」


「わからないから探さない。だから自然繰り上げになるわね。だから実質的には2番目の奴が1番になるかな」


「2番目の人は重美さんに何、を?」


「消しゴムを鼻の穴に入れられた?カンチョーだったっけ?よく覚えてないわ」


「覚えてないって……なら絶対に冤罪の人がいる筈ですよ。言いがかりもあるかもだし」


「失礼な!」


「やっぱ重美さんって怖い……怖すぎる……」




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