第三章 ①⑧
エメラルドの虹を放出する石を持った重美さんが僕を置いて歩き出した。慌てて樽をバックパックに入れ、ライトを片手に重美さんの後を追った。
重美さんの言うように石それ自体が宝物だという事は充分にあり得る事だった。
何故そう思ったかというと、きっと空になった樽の重さを誤魔化す為に石を入れた重美さんだけど、その石は樽に入れた時には光っていなかった筈だからだ。
だから樽から取り出しいきなりエメラルド色に輝いて虹を形どった時、重美さんは慌てて私の物だと主張したのだと思う。
そう考えると樽自体に何かしらの力があるのではないかと思えて来た。
中に入っていた水がいつから空になったのかわからないけど、その期間、石は樽の中にいたわけだから、変な話、石が何かしらの力によって熟成された状態になったのかも知れない。
それにより輝く石となったのではないだろうか。勿論、それなら他に入っていた石も同じように輝かなくては可笑しいのだけど、重美さんが持つ石以外は、樽から取り出してもただの石に過ぎなかった。
となればやはりあの石は宝物という事になるのではないか。だとしたらこの先、あの光り輝く石が僕達にとって有益な役割を果たしてくれるかも知れない。そんな淡い期待を抱きながら、僕は重美さんの横へと並んだ。
「重美さん」
「何」
「僕達がいた元の世界に単色の虹ってあるんですかね」
「どうかなぁ。わかんない。スマホあるんだから調べてみたら?」
「そうですね」
と言ったまでは良かった。スマホを取ろうと伸ばした手が止まる。
「圏外なの忘れてました」
「あ、ごめん。そうだったね」
針葉樹の森に輝くエメラルド色の虹は僕達が進む度に同じように移動していく。
「虹のお陰でこんなにも明るいのだから、ライト要らなくない?」
「確かに」
僕はライトの明かりを消した。見た感じは大きな懐中電灯の形をしているこのライトは明るさで言えばLED照明くらいの明るさはあった。
だから中々広範囲に渡って照らし出してくれる為、随分重宝していた。電池を入れるような場所もない為、どのようにして作動しているのかさっぱりわからなかった。
突然、点かなくなっては困る為、重美さんの一言はとても有り難かった。
「重美さん、この虹って僕達と一緒に移動してるから、永遠に麓に着く事は出来なさそうですね」
「そんなのわからないじゃん」
「いやいや、わかりますよ」
「もう一つの虹の麓は固定されていて、私達が進むとΩ記号のような形になってるかも知れないじゃない」
「だとしたら虹が変形してないと可笑しいくないですか」
「なら、伸ばしたメジャーのように虹はどんどんとこの石の中に仕舞われているのかもよ」
「なるほど。それならありそうですね」
「ていうかさ。そんな事よりね。どうしていきなり虹が現れたんだて思う?」
「雨が降っていたので虹が出来る理由はありましたよね。ただそれなら僕達が知っている虹が出るのが普通だと思います。でも僕達が見ている虹はエメラルド色で、おまけに一色です。そしてそれを作り出しているのはその石です。そう考えるとやっぱり何かしらの意味があるとしか思えないですよね」
「やっぱそうだよね。私もそう思うよ」
「ひょっとして森の出口までの道標ですかね?」
僕が言うと重美さんは石を持つ手を身体の横へと動かした。
「こうすればきっと虹も真横へ移動するよ、、、ね」
「してないですね。さっきと同じ方向へ向かっています」
「みたいだね」
「つまりこれは……」
「道標のようね」
「はい」
「でもさ。怖いのは森の出口の道標と限った訳じゃないって事よ」
僕は返事をしなかった。それについては僕も思っていた事でもあったからだ。
だとしても良くない風に考えても仕方がない。
かと言って希望を持つことも中々ムズくはあった。
「とにかく、虹のある方向へ進んで行くしかないですね」
「それが実は大きな間違いで、食人仮面達が待ち受けていたらどうする?」
重美さんの例えに思わず吹き出した。
「何ですか。食人仮面って。まさか森を護るヒーローとか言わないでくださいよ」
「食人仮面は食人仮面よ。まんまに決まってるじゃん」
「人が主食の人種で、どういう訳か仮面をつけている、って事ですか?」
「そ。だから私達の感覚で言えば、食人仮面はとてもヒーローだなんて言えないわ」
「でもこの世界の中ではヒーローかも知れない」
「まぁ。そういう可能性もあるかも」
いるかどうかもわからない重美さんの妄想キャラについて僕達は真剣に話しをした。
でも鳩三郎さんのように大きなモグラがいて二足歩行をし、方言みたいな特徴はあっても僕達と同じ言葉を話すモグラがいるのだから、食人仮面だっていないとは言い切れなかった。きっとこのような世界に迷い込んだからこそ真面目に話せる事柄なのだろう。
「お腹空いていませんか?」
「平気。まだタッポンタッポンしてるから」
「あの量の水を一気に飲んだりしたから、いつまで経ってもタッポン感が無くならないんですよ」
「えへへ。大魚の分まで飲んだ私欲張りすぎ」
水の話題が出るとどうしても渇きを感じずにいられなかった。
僕はこの虹の行き着いた場所が森の出口でそこに泉や綺麗な川が流れている事を願いながら、本当ですよぅと笑って渇きを誤魔化した。




