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第三章 ①⑦

それから数日の間は僕の提案で食事は可能な限り果物だけで済ませる事にした。


森を抜けた後、食糧を手に入れられる補償なんて何処にもなかったからだ。


「たまに賢い事言うよね」


「はい。偶にですけど」


「ならさ」


「はい」


「水を何とかしてくんない?」


「樽の水、半分切りました?」


「半分ていうか、無い」


「はぁ?ちょっと重美さん?僕をビビらせようったってそうは行きませんよ?」


「嘘だと思うんだったら確認してみたら?」


「確認も何もバックパックは充分重いですからね」


「良いから開けて見てみ?って」


仕方がないので足を止めて前で抱えていたバックパックを下ろした。


チャックを開き中から樽を取り出した。両手の平にズッシリと重たさを感じる。


「この通り、まだ沢山入っているじゃないですか」


言いながら樽を振ると、中でカタコト、ゴツンと音がした。水が樽にぶつかってそんな音を出すだろうか。

僕は樽を地面に置き、蓋を開け中を覗いてみた。


暗くてよく見えない為に鳩三郎さんから貰ったライトを近づけ、再度中を見た。それを見た瞬間、僕の全身から力が抜け出して行った。


「ないでしょ?」


「……はい。確かに水はありませんね。けど、どうしてでしょうね。中に石が大量に入ってるんですよ。どういう事でしょう?」


犯人は誰かはわかっていた。だがどう言い訳するか聞いて見たかったのだ。


「私、見たのよ」


「何を、ですか?」


「夜な夜な、サヨリが水飲んでたの。私止めようとしたんだけどさ。大魚、私達騙されてたんだよ?サヨリってめちゃくちゃ動くの早いんだから。樽の水飲み干した後に、石を拾ってきて中に入れたの。あっという間だったわ」


「目撃したのにどうして注意しなかったんですか?水はめちゃくちゃ大切だって事、重美さんだってわかっているでしょう?」


「怖かったの。サヨリってブス顔じゃない?おまけに異常なまで鼻が長いしさ。あんなのが夜な夜な水を飲んでいるのを見てご覧なさいよ。怖すぎて何も言えるわけないじゃん」


この人、よく言葉に詰まらずにペラペラと嘘を言えたものだ。恐ろしいのは重美さん、貴女の方だよ。


「怒りません。僕は絶対に怒らないので本当の事を言ってくれませんか?サヨリさんは確かにブスですが」


「酷っ」


「良くいいますよ。散々サヨリさんの事をブスブスって言ってるのは重美さんですからね」


「知らなーい。私、そんな失礼な事言った事ないしぃ」


「まあ、今はその話より水の事です。重美さん。本当は重美さんが全部飲んだんですよね?怒りませんから本当の事を言ってください」


真剣な眼差しで重美さんを見上げると、彼女は小声で、「バレてたか」と囁いた。


「今、言いましたね?バレたかって聞きましたよ?」


「はいはい。私が飲みました。ぜ〜んぶ私が飲みましたよ。それが何?いけない事?」


「いけないでしょう?水は2人の物であり、僕の物でもあるんですから」


「悪かったわよ。喉が渇いて仕方なかったの」


「だからって偽造工作までしなくても良くないですか?」


「だってバレたら怒られるって思ったし」


「そりゃ黙って全部飲まれてたら普通、怒りますよ」


「だから悪いと思ったから、その、あれよ」


「石を入れて重さを調整し、水があるように見せかけたわけですか」


「そうよ。何?それはやっちゃいけない事?私は大魚を不安にさせたくなかったの。こんなわけわかんない世界に来ただけでも不安なのにさ。そこに飲み水までないってなったら大魚だって不安になるでしょ?だから私は大魚を安心させたくて、断腸の思いで泣きながら石を詰めたねだから」


「で、石を樽に入れて安心しましたか?」


「そりゃあ、安心はしたわよ。けどそれ以上に水がウメェ〜たらないの。お陰でまだお腹がパンパンになってオシッコばっか行きたくなって、ヤバってなったね」


呆れてものも言えないとはまさにこの事だった。僕は黙って樽の中の石を1つ1つ取り出して行く。


よくもまぁこれだけ多くの石を僕にバレずに入れたもんだ。それだけでも大したものだよ。重美さんがガチの犯罪者になったら絶対捕まらない気がした。


「本当ごめんね」


「もう良いですって」


「怒ってない?」


「怒ってないですよ」


「これからも私の為に命を張ってくれる?」


「何ですか。それ」


「お互いそれくらいの気持ちがあって初めて理解し合えるのかなぁって思ってさ」


「命を賭けるかは別として、協力し合わないといけないのは間違いじゃないですからね」


僕は良い重美さんを見上げた。無理矢理作った笑みを見せたがうまく出来たかはわからない。  


そのまま樽の中に手を入れ、残り少なくなった石の中の1つを掴んだ。


取り出した瞬間、その石がエメラルド色に輝き幾つも放物線を描いた後、1つに纏まり、まるで小さなエメラルドの虹の架け橋のように僕らの前に現れた。


「な、何これ」


「大魚!それは私の石よ!返して!」


この人この石は高く売り飛ばせるものかも知れないって思ったんだ。絶対そうだ。


「返します。返しますけど……」


「ど?何?」


「このエメラルド色の虹って何か意味ありげじゃないですか?」


「言われてみれば確かにそうかも知れないわね」


重美さんは言い、大魚の目を見据えた。


「確か世界では虹の麓には宝物が埋まっているって言い伝えがある筈よ」


「それってつまり……」


「そう……」


重美さんはいい、素早い動きで僕の手からエメラルド色した石を奪い取った。


「つまりこの石は宝物の在処を示しているって事。ま、そもそも私の石だから無理に奪い返さなくてもよかったのだけど、大魚は油断も隙もあったもんじゃない男だからさ」


「何ですかそれ」


「か弱い私の口からそれを言わせるつもりじゃないよね?」


何だか話がややこしくなり始めていないか?

水の話から石に変わり、いつの間にか今はその石から宝物の話へと変わっている。


「全然意味がわかりませんよ」


「わからないなら仕方ないね」


重美さんは身体の前で石を両手で挟むようにし、少し恥じらいながら言葉を続けた。


「大魚ってさ。見境なく勃起するじゃない?それってうる若き乙女の私からしたら油断も隙もあったものじゃないじゃない?だっていきなり大魚が興奮を抑え切れ無くなって、私を無理矢理襲うかも知れないじゃん?だから油断は禁物ですの」


喋る言葉に統一性も無ければ最後は貴族のような言い方に僕は返す言葉、いや、返す刀すら持ち合わせていなかった。


「石もいりません。取る気もないです。だだ僕は単なる石がいきなりエメラルドカラーに輝き、それが虹を作った事に何かしらのメッセージが隠されているんじゃないかって。重美さんは虹の麓には宝物があると言う伝説を教えてくれましたが、だとしたらこのエメラルド一色だけの虹が出したもう一つの麓の下に宝物はあるんじゃないですか?例えばですけど……虹の麓には泉とか川があるとか」


「えー泉?川?ヤダ。宝石か現金が良いな」


「重美さん、今自分が何処にいるかちゃんと理解しています?」


「失礼な。理解してるわよ」


「なら、この森の中にいて、宝石と現金が宝物になり得ますか?使い道はないですよね?」


「お前、本当夢がないよな。いい?私だって宝石とか現金がここでは無意味って事くらいわかるわよ。ただそう言う事で、テンション上がるじゃん?」


「あ、はぁ。そうかもですけど」


「大魚って現実現実リアルリアルって考えすぎな所あるよ?それってさ。めちゃくちゃテンション下がるし、くそ冷めるわ」


重美さんは言いフンと鼻を鳴らした。


そして大魚に向かって「行くよ」と言った。


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