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第95話 「ただのドーピングだよ!」

「魔獣の反応をレーダーがキャッチ!場所は単端南小学校!先日の巨人と魔獣との戦いによりにより、校舎や周辺は壊滅していて周囲に人はいません!出動指示を受けた隊員の方々は直ちに出動の準備を!」


 生徒会要塞にアナウンスが響き渡り、生徒達が出動の準備を始めた。


「サヤカ、俺達も行こう」


 ナインは先に気付いて向かってるはず。私達も現場に行かないと。


「それじゃあ私達も──」

「校舎を囲むように魔獣が出現!その数10体!」


 10体も…!だったらここに戦力を集中させた方が良いかも。


「やっぱり作戦変更。私達は学校に残ってその10体を倒す」

「誰かナインの方に向かわせなくて良いの?」

「光太もいるだろうし大丈夫だよ。それにここには多くの避難者がいる。私達でその人達を守らないと」


 ナインと光太ならきっと大丈夫だ。




 各々武器を召喚してグラウンドに飛び出した。

 上空には校舎を取り囲むように、翼を広げる10体の魔獣が停滞していた。


「ツカサ、足場!」

「おうさ!」


 私以外で遠距離攻撃が出来る人はいない。こういう空に浮かぶ敵の場合はまず、ツカサのロッドで足場を作るところから始まる。


「ボギャオオオ!」


 足場を直接崩しに来るのなら、反撃が出来るのでちょうどいい。


「ジン!あいつらに邪魔させんなよ!」

「工事中なんだ。邪魔しないでくれよ」


 ジンが召喚した無数のブレードが魔獣に向けて連射される。勢い良く飛んでいくジンの刃。魔獣はそれを回避して、組み立て途中の足場へ迫る。


「オラァ!」


 だが盾を構えたツバキが跳び上がり、魔獣を空へと弾き返した。流石はツバキ、この中で一番の力持ちだけのことはある。


「ちゃんと当てなさいよ!」

「いや、あんまり連射すると余計な物まで切っちゃいそうだったし…」


 二人が魔獣から足場を守っている間、私は魔法の準備を始める。これがないと、ツカサは足場の維持をするために力を消費することになってしまう。


「出来たぞ!サヤカ!」

「フィックス!」


 ツカサから完成の報告を受けた私は、組み上がった足場へ魔法を発射した。

 フィックスは物体を繋ぎ合わせて頑丈に固定する建築魔法だ。これでツカサのコントロールから離れても、高さ50mの足場は崩れない!


「全員上がって!」


 私達は完成した足場を跳び登り、空中にいる魔獣に攻撃を仕掛けた。


「ブレードスクリュー!」

「シールドバッシュ!」

「ロッドストライク!」

「エアマシンガン!」


 魔獣の数は多いけれど大した強さじゃない。各々が放った攻撃で4体同時に倒すことが出来るくらいだ。


「撃てー!」


 ダダダダダ!ドガン!ドガン!


 残っていた魔獣に砲弾が浴びせられる。校舎の屋上から、ハンターズの人達が援護してくれた。

 このまま勢いに乗って全部倒す!


「フゥゥ~…!」


 足場に戻り、右腕に魔力を集中させる。目の前には私を狙ってくる魔獣が迫って来ていた。


「パワードナックル!」


 そして魔力を込めたパンチを魔獣の顔面にめり込ませた!


 ブワアアア!


 パワードナックルを喰らった魔獣の身体は破裂。空気の抜けた風船のように飛んでいって消滅した。


「あと1体だよ!」


 残る1匹は足場から少し遠い場所にいた。魔法を使えば届くかな…


 どうするか考えていると、ハンターズの隊員が大砲を構えていた。あれに任せてしまおう。


「撤収するよ。ツカサ、ロッド回収」

「ちぇ、良いとこ取りかよ~」


 ドゴオオオオオン!


 ツカサが足場として使っていたロッドを消した。それと同時に、ハンターズの放った砲弾を喰らった魔獣は死骸も残さずに消し飛んだ。


「数の割に大したことなかったね」

「ナイン達の方は終わったかな?」


 そうだ。テストも兼ねて今朝もらった無線機を試してみよう。


「こちらサヤカ。小学校に出現した魔獣はどうなったの?」

「こちらハンターズ生徒会要塞管制室。その魔獣はまだ反応が残ってる。でも学校での戦闘中に会長達が地下通路から向かったから大丈夫だと思うよ」


 また魔獣が出てくる可能性も否めない。管制室は学校にいる隊員に警戒態勢を発令した。

 私達もここで少し様子を見よう。


「…うぅ、冷える」


 昇降口の階段に座っていると、ツバキが身体を震わせた。確かにさっきよりも気温が下がっている。


「サヤカ、火」

「はいはい」


 ボワッ


 私は人差し指の先に魔力を集めて、それを炎へと変換した。魔法には色んなやり方があるが、魔力を別の物へ変換するというのが私のやり方だ。


「ふう…今って春よね?こんなに寒くなるものかしら」

「地球温暖化?っていうのがあって気候がおかしくなってるらしいよ」

「惑星っていうんだっけここ?アノレカディアと違って不便な世界ね~」


 確かに…けどそういうところもこの世界が面白いと思える理由だと私は思う。


「くちゅん!ちょっとツカサ、体温高いんだからこっち来なさい」

「え?おう」

「サヤカ──」

「やらないよ。2人とも、まだ敵が来るかもしれないんだから気を抜かないでね」


 ジンはしょんぼりとしている。こういう可愛いところがあったりするから好きなんだ。


「…くちゅん!寒すぎない?」

「言われてみると…気温いくつだ?」


 スマホで調べようとポケットに手を伸ばした。はずだった…


「身体が…動かない!?」

「くちゅん!くちゅん!くちゅん!」


 身体が冷えて動かなくなるにも限度がある!まるで凍らされたみたいだ!


「サヤカ!ヒートアーマーよ!くちゅん!」

「分かった、やってみる」


 ヒートアーマーとは、昔ある相手に対策して作った魔法だ。文字通り、熱の鎧を纏って冷気から身を守る事を目的としている。


「ヒートアーマー!」


 発動後、全員の身体が動くようになった。それにしてもヒートアーマーなんて久しぶりだ。ツバキに言われるまで存在すら忘れていた。


「みんな立て!敵が近くに来ているはずだ!」

「属性系の相手なら私が前に出る。ツバキは二人を守って。ジンとツカサには炎のバフを与えるから、それで──」


 パキッパキッパキッパキッ…


 氷が割れるような音と共に誰かが近付いて来る。あれはどう見ても敵だ。

 そして人の姿をして敵対行動を取るとしたら、思い当たるのは魔獣人しかいない。


「懐かしい技だね。初めて使われた時は成長したなって感動したよ。あれからまた成長したみたいだけど、私に勝つ作戦は練れたかな?」


 今のは声は…いやまさか、そんなはずが…


「こんな形だけど、サヤカとまた会えて嬉しいな」

「お姉…ちゃん?」


 ブワン!


 ツバキは正面の人物にシールドを投擲した。しかしシールドは、射線上に発生した氷の壁に阻まれた地面へ落ちた。


「しっかりしなさいサヤカ!あいつは魔獣人よ!ショウコお姉ちゃんに化けてるのよ!」

「ツバキちゃんも大きくなったね。料理の腕前は上達した?昔は死ぬ程まずかったよね」


 敵の外見は死んだお姉ちゃんにそっくりだ。化けてるだけのはずなのに、私達の事を知っているから本物だと信じてしまいそうだ。


「他の二人は知らない子だぁ…どっちがどっちの彼氏?」

「フレイム!」


 ボオ!


 両手を突き出し炎を放射した。それに対して敵はまた氷の壁を作り身を守る。


 ガチ…ガチガチ


 そして炎は壁に触れた途端に結晶化。炎が凍るという珍しい現象が起こった。それは私の炎があいつに力負けしたという証拠でもあった。


「いつ見ても綺麗だよね。何かが凍りつく瞬間は」

「インフェルノ!」


 火力を上げて壁ごとあいつを燃やすしかない!


「…お姉ちゃん言ったよね。力任せな攻撃じゃ相手は倒せないって」

「皆なにしてるの!回り込んで攻撃よ!」


 私の代わりにツバキが指示を出し、敵の左右と後ろに回り込む。一瞬見えたジンの表情が珍しく曇っていた。


「喰らえ!」


 しかし攻撃を放った瞬間に敵の姿は消えてしまった。


「あ、あれ?」


 攻撃を空振らせた三人は周囲を見渡した。一体どこに逃げたんだ…


「…サヤカ!後ろだ!」


 ギュッ


 ジンの声と同時に、背後から誰かが抱きついた。


「タイムフリーズ」

「それって…」


 タイムフリーズ。生前、お姉ちゃんが開発していた氷魔法の名前だ。

 世界を凍らせる…つまり、時間を止めるオリジナルの技って誇らしげに説明をされたことがある。


「どうしてお前がその技を知っている!」

「サヤカの事がだ~い好きなお姉ちゃんだからだよ」


 そんなはずない…お姉ちゃんは死んでるんだ…棺の中で目覚めない姿を見た。焼却されて骨だけになった姿だって…


「それに何より!タイムフリーズは完成させられなかった!」

「そう、私は落ちこぼれだったからね。だけど遂に完成させられた!アン・ドロシエルから貰った魔獣の力で!」


 本当にお姉ちゃんなの…?


「…お姉ちゃんはどうして魔獣人なんかになったの?」

「憧れてたんだ。こういう強い人間に」

「お姉ちゃんは強かったよ!」

「強い人間はあっさり死なないよ。何か大きな事を成し遂げてから死ぬんだ」


 お姉ちゃんとジンが睨み合う。お姉ちゃんはきっと、自分を刺し殺した相手に気付いているはずだ。


「サヤカ!しっかりしなさい!」


 そうしてタックルを仕掛けようとした瞬間、ツバキが凍った。

 私の背後にいたはずのお姉ちゃんは消えていた。


「ツバ──」


 さらに今度はツカサが凍った。お姉ちゃんは目に止まらない速さで動いているの?それともワープ?

 もしも本当にタイムフリーズが完成しているのなら、私達に勝ち目はない。


「凄いでしょサヤカ。タイムフリーズを使った連続コンボ」

「お姉ちゃんは…そんな風に能力をひけらかす人じゃない!お前は偽者だ!」


 アン・ドロシエルの仲間はユニークスキルを持っているとナインから聞いた。きっとそれでお姉ちゃんに化けてるんだ!


 キィン!


 ジンのブレードと氷で作られた剣が衝突した。次に狙われたのは彼だった。


「…俺を覚えてるよね」

「うん。私を殺しちゃった子だよね」

「どうやって生き返ったのか知らないけど、復讐したいなら殺されてやる。だからサヤカを悲しませないでくれ…」

「復讐…?違うよ。私は強い人間になる夢を叶えるために転生したんだ。魔獣の力も備わって、私の魔法はさらに強くなった!」


 転生…?まさかお姉ちゃんが転生者になったの!?


「転生してやることがこれなら、俺はもう一度あなたを殺さなきゃならない!」

「無理だよ。だって今の私、あの時より強いから」

「お姉ちゃんやめてよ!私達が戦う理由はないでしょ!」

「…あるよ。お姉ちゃんが死んでる間に、サヤカはあの時の私より大きく、そして強くなった…気になるんだ。落ちこぼればかりのシラサメ家からどれほどの戦士が生まれたのか」


 本当にお姉ちゃんなの?全く優しさを感じられない。でも強くなりたいという上昇志向は、確かにお姉ちゃんと同じだ。

 だからタイムフリーズを開発していたんだ。


「タイム…フリーズ」


 そして突然、ジンが全身傷だらけになり血を噴き出した!時間が停止してる間に攻撃を受けたんだ!


「ジン!」

「これはこれは…勝ち目…ないね」


 一瞬にしてジンが倒されてしまった。残ったのは私だけだ。


「満足なの!?タイムフリーズは凄いけど、それを完成させたのは魔獣の力だ!お姉ちゃんの努力じゃないんだよ!」

「確かに努力だけじゃタイムフリーズは完成しなかった。そして前世で足りない物を得たんだ。賢者レベルの氷の力を操れる魔獣と、魔法がどうすれば完成するか教えてくれるユニークスキル魔法方程式!つまり才能だよ!」

「それは違う…そんなの!ただのドーピングだよ!」


 私に対する目付きが変わった…殺す気だ。お姉ちゃんは私の事を殺そうとしてる!


「サヤカ、その身で教えてあげる。完成させたタイムフリーズの強さを…」


 ボゴン!


 時間が止まるより早く飛び出した少女がいた。その少女は、お姉ちゃんの顔面に飛び膝蹴りを喰らわせた。


「ナイン!?」

「タアァッ!」


 そのまま飛んでいった身体は、命中したフェンスの支柱を倒してしまった。


「やっぱり魔獣人だったか…サヤカ、まだ戦えるよね」

「君、今の良い蹴りだね。格闘家?」


 ナインは目の前に出現したお姉ちゃんの攻撃に反応して、肌に触れるギリギリのところで回避した。

 また時間を止めたんだ!


「なんだ今のスピード!」

「良い反応だね」


 ステップして下がって来たナインは私の隣に立ち、ようやく得物である杖を出した。


「サヤカ、あれ誰?」

「…私のお姉ちゃん」

「お姉ちゃんって、昔ジンが殺しちゃった人だよね…やっぱりそうなのか…」


 お姉ちゃんと戦わないといけないの…?あんなに優しかったお姉ちゃんと…


「サヤカ、つらいかもしれないけど…」


 そうだ。今は敵なんだ。魔獣の力に溺れて平和を脅かすようなら、誰が相手だろうと倒さないといけないんだ!


「…本調子は出せないけど戦うよ!」

「よし…いくぞ!」


 ナインの杖と私の魔法でお姉ちゃんを倒す!

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