第95戒 最終決戦の始まり
クマのぬいぐるみに魔力が溜まっていく。その光景は傍から見なくても異様だった。しかも、そのクマのぬいぐるみに魔力が溜まっていくにつれて、とんでもないほどの光をクマのぬいぐるみが放ち始めた。
本当にこれは大丈夫なのだろうか?もしかしたらぶっ壊れたりするのではないだろうか?本当に心配になってくる。
「ね、ねぇ、かーくん……それ本当に大丈夫なの?壊れたり崩れたりしたいよね?」
「多分しないだろう。多分な。俺も初めてだからわからん。……て、そんな悲しい顔をするな」
「だってぇ!」
確かに心配になる気持ちは分かる。俺も心配だ。なんと言うか、持っているせいで手のひらが焼け付きそうだ。それに、重たい。もう持ちたくない。いや、投げたいけど投げられるような重さじゃないだろう。
まぁとにかく、今これはとんでもなく危険だということだ。もしかしたらだが、これを投げ込めば国ひとつ滅ぶのではないだろうか?
そんなことしないけどな。とりあえず……とりあえずだからな。とりあえずこのクマのぬいぐるみを誰かに渡したい。
いや、別にもう辞めたいとかじゃないからな。とりあえずだからな!
まぁ、そんなことは置いといて、そろそろ魔力が溜まりそうだ。こっちも準備をしておかなければならない。
陽炎は頭の中でそう思い、目に魔力を溜め始めた。
クマのぬいぐるみはそれに呼応するかのように魔力を陽炎に渡していく。
そして、かけあは目を見開いた。その目には太極図が浮かんでいる。陽炎はその目で街を見下ろした。人々は自分を尊敬している。もちろんその中には畏怖や恐怖を抱いているものもいる。
「フッ、俺も偉くなったものだな」
陽炎はそう呟き魔法を発動しようとした。その時、突如目の前から何かが飛んできた。
「っ!?何者だ!?」
陽炎はその飛んできたものを避け問いかける。すると、目の前に空から人が降りてきた。
「あぁ……やっと会えたわね。陽炎……」
「……なんだお前か。もう遅いよ。母さん」
そう、目の前に現れた人物は、陽炎の母だった。
「あら、まるで分かってたみたいな言い方ね」
「当たり前だろ。あんたがあいつらを作ったからな。しかも、家族全員異世界転移してんだ。母さんが来てないなんて考えられない。それに、ばあちゃんもだろ。どこにいる?」
「お義母さんね……フフ、私が殺したわ」
陽炎の母は気味の悪い笑顔を見せつけながらそう言った。だが、陽炎はそこまで驚かなかった。どうせそんなところだろうと予想が着いたからな。
「フフフ……最後の試練と言うやつか……面白い!今の俺は気分がいいからな!母さんだろうが誰だろうが、潰してやるよ!世界を変えるためにな!」
陽炎はそう言って背中の剣を抜いた。
アロンダイトだ。陽炎はアロンダイトを抜くと、魔力を一瞬で溜める。そして、左目を見開いた。
「私とやる気?やめときな。陽炎では勝てないわ」
「勝てるか勝てないかで言ったらお前が勝てないよ。とりあえずこさその減らず口閉じたら?」
「あなた……親に向かって……っ!?」
陽炎は母親の話など聞くことも無く剣を振り下ろした。そして、世界を変えるための激しい戦いが始まった。
━━その頃、テムは二人の会話を聞きながら心配になっていた。
「かーくん……お母さんと……」
「テム様、手出しはおやめ下さい」
そう言ってテムを止めてきたのはギルシアだった。ギルシアは2人を見つめながらテム以外の皆を安全な場所まで移動させる。
「……ギルシア……お母さんって、なんで戦ってるの?」
「……私達のお母様は、セントクロス、ダークインベージョン、カオスアトランティスのこの3つの勢力を作った本人だからです」
「え!?」
「魔王様はきっとそれを知ってらっしゃるのです」
「だから戦いを?」
「はい」
それを聞いて皆はさらに心配になった。もしかしたら陽炎が母親を殺すことが出来ずに殺されてしまうかもしれない。そう思ったからだ。だが、ギルシアだけはそうは思わなかった。
(陽炎……お母さんのことは憎いかもしれないけど、怒りに飲み込まれないでね)
ギルシアは心の中でそっと陽炎の祝福を祈ったのだった。
━━そして陽炎は、既に母の首を切り裂いていた。さっき避けられた時に追撃を与えたのだ。
「どうだ?母さん……いや、春!もうあんたを親とは思わない!だから、全力で行かせてもらうよ!あんたも俺の力を見たなら本気を出せよ!」
「フフフ……強くなったわね陽炎……でも、まだまだよ」
春はそう言って首と胴体をくっつけた。そして、手元に突然剣を生成させる。
陽炎は突如現れた剣に動揺した。なぜなら、その剣は自分のものだったから。
「っ!?ふざけやがって……!どこまで俺を怒らせる気だよ……!」
陽炎は左目を見開きながら剣を振るった。
ルール改編だ。剣圧の起動を不規則に動くように世の中のルールを改編した。これで、陽炎の放つ剣圧は全て陽炎の思うように動く。
陽炎はその状況で手元に糸を取り出した。この糸は、前にフェルルとファルルの姉、シュレイルと戦った時に手に入れたものだ。
「待てよ……シュレイル……っ!?」
陽炎は咄嗟にその場を離れた。その瞬間、黄色く光る炎が飛んでくる。
「フフフ……やはりお前も来たか!あの時の借りを返す時が来たみたいだな!」
「待って!」
「私達に殺らせて」
その時、フェルルとファルルが後ろから来た。
「本気か?」
「うん!」
「じゃあ任せたぜ」
陽炎はそう言って春に向かって走っていく。そして、二手に別れた戦いは始まった。
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