第94戒 計画実行
「……とは言ったものの、どうする?」
陽炎は椅子に座ってそう聞いた。この街に来る驚異は過ぎ去ったとは言っても、まだこの世界に敵がのさばっている。左目の力を使えば全員倒せるのだが、それだと恐らく死んでしまう。
魔力はまだある。生命力もまだある。基本的にほとんどのものは残っているのだが、さすがに全世界に行うとなると、難しいものだ。
やはり、死ぬ気で魔法をかけるのが良いか。たが、死んでしまえばテムたちが自分を許さない。
「かーくん、全員の魔力を足すのはダメなの?」
テムは俺の呟きが聞こえていたのか、キョトンとした顔で聞いてきた。確かに、全員の魔力を使えば出来るかもしれないが、なれない魔力を使うと陰と陽の調整が出来なくなる。
だから、多すぎるというのも考えすぎなのだ。陰と陽の調整は、1度自分に魔力を取り込む必要がある。そう考えると、自分の魔力量を超える魔力を体に取り込む訳にもいかない。
「それは、出来ないなぁ」
「じゃあ、ちょっとずつやるのはどう?」
次はディリーが聞いてきた。ちょっとずつ……いい考えだと思う。だが、そうなれば逃げられる可能性が高い。もしそのちょっとずつやっているのがバレてしまえば、どこか分からないところにでも逃げるだろう。
もし仮に逃げられなかったとしても、1発打てば次打つのに2日はかかる。連発出来ないのだ。そうなればいつ終わるのか全く分からなくなる。
「……一度に全世界か……難しいものだな」
「……あ、そうだ、宝玉はどうなの?」
「宝玉?」
「そう。無限の宝玉。魔力を無限に増やしてくれるって言う宝玉よ。それがあれば全世界に魔法をかけることが出来るんじゃない?」
テムは自信満々にそう言ってきた。確かに、それを使えば魔法は使い放題だろう。全世界にかけることも容易い。
だが……
「それ、どこにあるんだ?」
陽炎は純粋に聞いた。以下にすごい宝玉だとしても、見つからなければいみがない。それに、どんな代償があるか分からんしな。
……いや、待てよ……世界中の人々から魔力を貰えば良いのではないだろうか。ここにいるだけでは足りない。なら、世界中の人々なら可能性はある。
まぁ、世界中は無理だがこの国の人々の魔力を貰えば行けるかも。だが、魔力の同調が難しいな……。いや、あるじゃないか。それが出来る魔道具が。
「そうだな。この方法なら可能性はある。……お前ら、今からこの国中の人々の魔力を貰う。みんなに呼びかけてくれ」
陽炎のその言葉に全員はキョトンとしながらも急いで準備を始めた。そして、陽炎は自分の部屋へと戻って行った。
そこには、あれがあった。どんな魔力も変換してしまう魔道具。ただし、使用回数はたった1回だけ。……いや、そもそもこれを魔道具と呼んでいいのか分からない。なんせ、生きているのだからな。
動いているし。見た目可愛いし。ていうか、壊れたりは……いや、さすがに壊れたりはしないか。まぁ、その魔道具と呼べるのか分からないものは陽炎の部屋にいた。
「まさか、こんなところでお前が役に立つとは思わなかったよ」
そう言って目の前のクマのぬいぐるみのようなテムのペットを撫でた。このクマは、ダンジョンでテイムした魔物だ。
ある日、俺はこのクマのぬいぐるみのようなものが何なのか調べてみた。すると、驚くべきことに、このクマには特殊能力があった。
それが、魔力の同調だ。ただし、1回だけ。その1回を使ってしまえばこいつはただのテムのペットだ。
まぁ、それはそれで可愛いから良いけどさ。とにかく、このクマの力を使えば魔力の同調が出来るというわけだ。
「お前も覚悟を決めたのか?」
陽炎はそんなことを言った。すると、クマのぬいぐるみはガッツポーズを決める。それを見て陽炎は不敵な笑みを浮かべた。そして、そのクマを皆の前に連れていく。
「あれ?かーくんそれ……私のクマちゃんじゃない!何してるの!?」
「このクマを使う。このクマには特殊能力があってそれを使えば魔力の同調が出来る」
「……クマちゃんって凄かったの?」
「持っもほかに言うことあるだろ。なんでそんなことするの?とかさ」
「だって、かーくんが使うって言ってるんだから何言っても無駄でしょ。それに、絶対壊したりしないって信じてるもん」
そんなことを言ってきた。さすがにそこまで言われちゃ壊す訳にはいかないな。そんな会話をしていると、ギルシアが帰ってきた。
「準備が出来ました」
「了解。……皆!聞け!今より俺はこの世界から悪事を消滅させる!そのためにはお前らの力が必要だ!俺に魔力を分け与えてくれ!」
陽炎は城のベランダからそう叫んだ。すると、街から魔力が流れ込んでくるのがわかった。どうやら合意してくれたらしい。
陽炎はその魔力を全てクマに吸い込ませ自分の体に取り込み始めた。
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