第93戒 決意と覚悟
陽炎は爆発のあった方まで急いで向かった。どうも嫌な予感がする。もしかしたらテム達が殺されているかもしれない。そんな気分になった。
しかし、そんなことは全くなかった。陽炎が着く頃には戦闘は終わり、勇者達は全滅していた。それだけじゃない。セントクロスの奴らまでもが倒れていた。
「ふふんっ!これが私達の力よ!」
テムはそんなことを言って胸を張る。しかし、今はそんなことを言って悠長にしていられる暇はなかった。今ここにセントクロスがいるということは、この国には既にセントクロスが侵入しているということと同じだからだ。
だとしたら、早く殲滅しなければこの国が滅びてしまう。陽炎はそれに一瞬で気づき、左目に太極図を浮かべた。
その太極図からは眩い光が走り、地面に浮かび上がってくる。そして、その地面に浮かび上がってきた太極図は一瞬で国全体に広がった。
「……見つけた……」
陽炎は少し呟いて魔力を左目に溜める。そして、もう一度見開いた。
すると、太極図は回転を始める。そして、国中にいるセントクロスの兵は瞬く間に消滅した。
「っ!?何……これ……?」
「クッ……」
技を使ったあと陽炎は左目から大量と血を流しながら膝を着いた。そして、かなりの量の吐血をする。ディリーはそれを見てすぐに陽炎に近づいた。
「陽炎くん!大丈夫!?」
「あぁ、それより今はこの国をどうにかしないといけない。α達がいなくなった今、この街の警護は誰も出来ない。俺はもう限界だ。左目の能力はあと1回しか使えない。次に使えば俺は死ぬ」
陽炎の発した言葉にその場の一同は皆黙り込んでしまった。そして、静かに陽炎を見つめる。陽炎はそんなテム達を見て左目から流れる血を拭った。
そして、静かにその場に立ち上がると、魔王城があるところまで戻ろうもする。しかし、途中でふらつき倒れてしまった。
ルーシャはそんな陽炎に急いで寄った。そして、すぐに魔法をかけて回復させようとする。しかし、傷は治らない。
「なんで……!?どうして……!?」
ルーシャは少し苦しそうにそう言った。しかし、陽炎はそんな様子など全く気にすることも無くもう一度立ち上がると今度はしっかりとした足取りで魔王城へと向かう。
テム達はそんな陽炎を心配して陽炎のあとを追った。
━━しばらく歩くと魔王城に着いた。しかし、その道中陽炎は何度も倒れたり吐血したりしていた。その度にテム達は回復魔法をかける。しかし、やはり全く意味がない。
そんな調子で陽炎は魔王城の中まで入ってきた。中に入るとギルシアがいた。恐らく、陽炎が勇者と戦った後に城に戻ってきたのだろう。
「大丈夫ですか!?魔王様!」
「……ギルシア……フフ、大丈夫だよ」
陽炎は優しくそう言って頭を撫でるとさらに足を進める。そして、1歩1歩確実に踏みながら階段を上がっていく。そして、ついに魔王の間の前に来た。
「……お前ら……俺は少し休むよ。何かあったら来てくれ」
陽炎はそう言って中に入った。テム達は、そんな陽炎を見て中に入ろうとする。
「……ねぇ、なんだかかーくんの様子がおかしくなかった?」
突如テムがそんなことを言った。その問いに全員は頷く。そして皆は部屋の中に入った。
━━……陽炎はある道を歩いていた。それは、赤く塗られた道。それは、自分を死へと誘う道。でも、陽炎はすぐに気づいた。これは夢なんだって。でも、なかなか抜け出せなかった。
それに、もうわかっている。陽炎の命はそう長くは持たない。力にはそれなりの代償がある。その代償無くして力は得られない。
実際のところ、勇者とセントクロスを消したところで陽炎の魔力はそこ尽きかけていた。だから、次にまた同じ技を使えば確実に死ぬ。それを肌で感じた。
しかし、それでも陽炎はやらなければならなかった。たとえ自分が死んだとしても、やらなければならなかった。
(……フッ、今になって思えば、俺のせいなんだよな。俺があの時セントクロスやダークインベージョン、カオスアトランティスを殺したからこの世界がめちゃめちゃになってしまった)
そう心の中で呟く。
(それに、俺はこの世界では邪魔者なんだ。日本という別の世界から、しかも普通の人とは違う召喚のされ方をした。多分、ギルシアやセントクロスは普通の召喚のされ方だったから歓迎されてるんだろうけど、俺は違う。だから、神器もないし、魔法も聞いたことがない)
さらに心の中で呟く。
(でも、だからこそ俺は魔王になった。魔王城を作り、この世界で最も恐ろしく最強の存在となった。機は熟している。邪魔者はこの世界から消える時なんだ)
陽炎は心の中でそう呟くと覚悟を決めたように前を向いた。そして、テム達の顔を見てゆっくり微笑む。
「どうしたの?かーくん……」
「フフ……エニム達はどうした?」
「ここにいるわ」
そう言って地面から出てきた。陽炎はそれを見て、全員を前に呼んだ。皆は何かしらの違和感に気づき、急いで駆け寄る。
「どうしたの?」
テムは聞いた。すると、陽炎はこれまででも見せたことないような弱りきった優しい笑顔でテムの頭を撫でる。そして、すごく落ち着いた声で言った。
「聞いてくれ。俺は今からこの世界に魔法をかける。全ての悪を根絶する魔法だ。でも、これには代償がある。だから、最後はお前達に……っ!?」
「ヤダっ!」
テムはそう言って泣いた。
「私はかーくんと皆で過ごすの!だから、死ぬなんて許さない!」
テムはこれまで見せたこともないような顔で怒る。
「たとえかーくんが死ぬって言っても死なせない!魔法でもなんでも使って生き返らせる!そして、ずっと一緒にすごす!笑う時も、泣く時も、怒る時も、死ぬ時も、ずっと一緒にいる!」
そう言って泣きながら怒ってきた。
あぁ、自分はこんなに愛されていたなんて……すごく嬉しい。
そんなことを思っていると、ディリー達も話し始めた。
「私も、死なせないよ。だって、陽炎くんと一緒にいると楽しいもん。あの日、私にお仕置した時からずっと大好きだったよ」
「私も!あの時助けてくれなかったら、今もずっとあの場所にいる……その時からかげくんのことが大好きだったんだよ」
「私もだよ。陽炎さんは私達を助けてくれた。それに、きっと姉のことも何とかするって言ってくれた」
「それが、どれだけ嬉しかったか、かーくんにわかる?」
『陽炎は私達双子を助けてくれた。その時から大好きだったんだよ』
皆は口々に言ってくる。
「そうか……俺も好きだよ。大大大好きだ……」
そう呟いて、下を向いた。なんだか死のうとしていたことが馬鹿らしくなってきた。なぜ俺が力の代償で死ななければならないのだろうか。
「フフフ……フハハハハハハハハ!そうだな!死ぬなんて自分らしくねぇよな!決めたぜ。俺は世界を壊す。そして、この世界を作り替えてやるよ」
陽炎はそう言って不敵な笑みを浮かべた。
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