第89戒 左目の太極図
「一体何をするというの?」
エルフの女王はそう聞く。なんとも愚かな質問だろうか、そんなこと聞くまでもない。
「当然、この国を消す」
そう言って陽炎は魔力を右手に貯め始めた。その魔力は瞬く間に膨張していく。そして、それに呼応して陽炎の左目が光を発する。
右手の魔力は限界点まで達すると今にも爆発しそうになる。光は強くなり、直視できない。さらに、その圧縮された魔力は周囲に竜巻を起こし、雷を発生させた。
「な、なんて魔力なの!?」
陽炎の手が焼ける。どうやら自分の魔力に手が耐えきれていないらしい。しかし陽炎はそんなこと気にしない。さらに光を強めていく。
その時、陽炎の左目に太極図が浮かんだ。その太極図は白と黒それぞれの色の光を放ち始める。その光は右手の魔力と呼応してさらに強い光を放つ。
限界を超えた右手の魔力は抑えきれなくなり漏れ始めた。陽炎はそこで魔力を解き放った。
紫色の光を放つ魔力がエルフの国全部に行き渡る。そして、エルフの国の上空に円形に広がった。その光は白と黒の光に変色し太極図を描き出した。
エルフの女王は何が起こっているのか分からず固まる。そしてすぐに状況を理解して魔法を放った。
「”フレアフレイム”」
「”消えろ”」
陽炎はその魔法を消した。言葉にするだけでその事象が起きる。言霊魔法に近い。しかし、違う。陽炎は左目の光をさらに強めた。そのせいか、殺気が少し強くなる。周りにいたエルフの兵士たちはその殺気で全く動けなくなってしまった。
だが、陽炎はそんなこともかまわない。太極図を描いた魔力は地上の魔力を吸い上げさらに強い光を放つ。その魔力が漏れ出してきたのか、竜巻は強くなり雷は増える。その風で木々はなぎ倒され、雷で建物は焼き尽くされた。
「”全てを無に帰せ”」
陽炎がそう唱えると左目の太極図が回転を始める。それに呼応して上空の太極図も回転を始めた。その回転速度は徐々に早くなり、すぐにどっちが白でどっちが黒か分からなくなった。
「これは陰陽の力。重なれば、全てを無に帰す力を手に入れる。代償はでかいがな」
それでも陽炎はやる。やらなきゃいけない訳では無い。ただ、今回は、今回だけは、どうしても許せなかった。絶対に、どんなことがあっても許せなかった。
陽炎の左目の太極図は回転速度が落ちていった。そして、止まってしまった。しかし、上空の太極図は回転を止めない。それどころかますます速度が上がっている。
左目の止まってしまった太極図は再び光を発すると、左目に吸い込まれていった。そして、左目に元からあった紋様を太極図で上書きする。陽炎の左目は太極図になってしまった。
陽炎は上空に浮かぶ太極図を徐々に下ろし始めた。その降りてきた太極図に触れた物が塵となって消えていく。エルフの国にその塵が落ちていった。
「何これ?砂?」
「かーくん!これって……!?」
テム達が不思議そうな目で陽炎を見つめる。陽炎はそんなテム達をキューブに封印した。そして、一旦消す。これでテム達に危害が及ぶ恐れはなくなった。あとは気兼ねなく殺れる。陽炎は徐々に下ろしていた太極図を一気に地面まで下ろした。回転する太極図がエルフの国にあるものを全て塵に変える。
建物、植物、生物、エルフの女王を含めたエルフ達全員がその力で塵となり消された。
とてつもない量の塵が落ちてくる。まるで滝のようだ。そして、後には何も残っていない。エルフの国は砂丘のようになってしまった。
陽炎はすぐにキューブを発動させ、全員の封印を解いた。テム達は突如封印されたことが疑問だったが、それ以上に何も無くなってしまったのを疑問に思う。
「これって……!?」
テム達はすぐに陽炎に聞こうとする。しかし、陽炎が少し怖い顔をしているのを見て緊張してしまった。
陽炎はそんなことは気にしなかった。いや、気にする余裕もないと言っていい。陽炎は太極図が描かれた左目で目の前を見つめた。
テム達は陽炎の見つめる先を見た。そこには何も無い。あるのは塵の山くらいだ。しかし、陽炎はその山をずっと見つめる。やはり何も無い。
「かーくん……」
「しっ!静かに!……来る」
陽炎がそう言うと何か嫌な予感がした。とてつもなく大きな力が落ちてくる感じだ。すごく怖い何か。もしそれが落ちてきたら一溜りもない。そんな気がした。
「っ!?上だ!”消えろ”」
陽炎は左目を見開き右手を空に掲げた。すると、右手に魔力が集まり太極図が現れる。そして、その2秒後に太極図の真上に目掛けて隕石が降ってきた。
とてつもない轟音が鳴り響き灼熱の炎が辺りに撒き散らされる。しかし、それら全ては太極図に触れた途端塵となって消えてしまった。
「出てこい!生きてるんだろ!」
陽炎がそう叫ぶと目の前の塵の山からエルフの女王が現れる。女王は体中に傷があるものの、致命傷では無いみたいだ。
陽炎はエルフの女王を見つめた。エルフの女王も陽炎を見つめる。その時2人は察した。恐らく次の一撃で終わりだろう。それを肌で感じだ。
「あなたも分かってるんでしょ。次で終わりよ」
……どうやら同じことを考えていたらしい。まぁそんなことはどうでもいい。
恐らく次が本当に最後だろう。陽炎は今魔法がひとつも使えない。そしてそれは今後もずっとだろう。古代眼ももう使えない。使おうと思っても何も出来ない。
だが、たった一つだけ使えるものがある。それは、この左目の太極図だ。この太極図だけは使える。しかし、この太極図は……
「くどい話はもう終わりだ。次で決める」
陽炎は背中のアロンダイトに手をかけた。そして、左目を見開く。左目の太極図は光を放つとアロンダイトに太極図を描き始めた。柄と刃の真ん中の部分に太極図が現れる。
「……」
「……」
風が吹いた。地面の塵が舞いあがる。その塵に光が辺り幻想的な空間を作り出した。
「……”光れ”」
そう言って左目を見開いた。地面に太極図が描かれた。その半分の陰の部分が陽にかわる。そして、左目の太極図の陽の部分が陰に変わった。地面に浮かんだ太極図はとてつもない光を放つ。その光は一瞬にしてその空間を埋めつくした。
エルフの女王はその光に目をくらませる。陽炎はその隙を見逃さなかった。一瞬にして距離を詰めアロンダイトを抜く。
「くっ……!なぜ……!?」
「陰の目だからだよ」
陽炎はそう言ってアロンダイトを縦に振り下ろした。
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