第83戒 新しい仲間と別れ
「言えない・・・言いたくない」
ルーンファールはそっぽを向いて言った。陽炎はそんなルーンファールを見据える。そして、もう一度言った。
「言え。お前は俺に負けた。敗者が勝者に従うのはこの世の理だ」
「ク・・・それでも・・・言いたくない」
ルーンファールは意地でも言いたくないようだ。
「フッ、冗談だよ。別に言いたくないなら言わなくていい」
そう言うと、目を見開いて驚く。
「なんで聞かないの?」
「は?今言っただろ。言いたくないなら言わなくていいんだよ」
陽炎はそう言って武器を全て収める。だが、ルーンファールは呆れたように、そして、煽るように言った。
「理がどうとか自分で言っておきながら、無視するわけ?バッカじゃないの!」
「この世の理は世界の全てだ。だが、俺はその理を変えることが出来る。だから、俺が全てだ」
陽炎は自然にそう言う。しかし、何を言っているのか全く理解出来なかった。世界の理がどうとか言われても、何も分からない。
「どうした?」
陽炎は不思議そうな顔で外を見る。その横顔を見てルーンファールは思った。今のこいつからは敵意が感じられない。それに、全てを守ってくれそうな、そんな気分にさせる男だった。
「何考えてるかは知らねぇが、ボーッとしてるとぶつかっちまうよ」
そう言って地面に棒を突き刺す。
「何してるの?」
「何って、行くんだよ。この国の城の最上階まで」
そう言って指を指す。その方向にはエルフの国の城がある。陽炎は城を睨んで目を光らせる。
「お前はどうするんだ?このまま俺と一緒に行くか、俺と戦って死ぬか」
「私?私は・・・わかんないよ。あんたのことを敵だと思っていた。でも、なんだか違う気もする・・・本当に私のこと聞かなくていいの?」
「良いさ。それより、さっきから思ってたんだが、口調はどうした?」
その言葉でハッとする。そして、顔を真っ赤に染める。そして思う。もう、私はこの人の色に染まってしまったと、この人がいないとダメな体になってきていると。
「お前、なんでそんな顔真っ赤なんだよ」
陽炎は呆れた声でそう言った。その言葉を聞いてドキッとする。胸の鼓動がうるさいくらい聞こえる。
「ま、何でもいいけどそろそろ行かせてもらうよ」
そう言って城に向かって足を進める。しかし、すぐに服の裾を捕まれ止められた。
「ん?なんだよ?早く行きたいんだよ」
「待って、どこにいるかも分からないのに行くの?そるに、トラップもどこにあるか分からないのに」
「フッ、問題ない」
「そんなこと言って、もしもの時があるでしょ。だから、私も行くよ」
そう言って立ち上がった。そして、陽炎に抱きつく。
「離れてくんない。トラップとかあったらあぶねぇだろ」
「ここは無いから大丈夫だもん」
そう言って猫みたいに甘えてくる。
・・・俺って、女性にモテる何かが出てんのか・・・?
と、思いながら足を進めた。
━━しばらく歩くとエルフの街に着いた。ここでは、エルフ以外の人がいると問題になるのでルーンファールの魔法で姿を変えた。
「エルフの街か。なぜエルフは女性しか居ないんだ?それに、老人はいない。これも不思議だ」
「エルフは長生きなんです。それと、男もいます。しかし、子供を産むと皆女になっちゃうんです」
その事を聞いて目を見張る。そんな変なことが本当に起こるのか!?とか思った。しかし、男がいないことからやはりこいつの言っていることは嘘ではないのだろう。だとしたら、女しか生まれないというのは間違いと言うことだ。
「あ!ルーンファールお姉ちゃんだ!子供作って!」
いきなり男の子が来てそんなことを言ってきた。
何を言ってんの?頭おかしいの?と、思ったが、ルーンファールは微笑んで受け流す。改めて思ったが、この世界はどこかおかしいみたいだ。
「さ、行くぞ」
「うん」
陽炎はその場を急いで抜ける。そこからは、走って向かった。すると、途中で不思議な人影を見た。その人影は見たことがある。と、言うよりいつも見ていた。
「テム!」
陽炎はすぐに急ブレーキをかけ脇道に逸れる。ルーンファールもすぐに急ブレーキをかけ、陽炎を追いかける。
「待って!どうしたの!?」
「テム!」
陽炎は呼びかける。その声でテムは陽炎に気づいたようにこっちをむく。いや違う、テムは初めから見ていた。テムは涙を流して、ずっとこっちを見ている。
「かーくん・・・」
「テム!探したぞ!なんで行ってしまったんだよ!凄く・・・」
「なんで来たの?」
「っ!?」
テムは冷たい声でそう聞いてきた。その目は声と同じように冷たい。まるで、陽炎に対する愛情など何も無くなったかのような顔をする。
「なんでって、お前を助けに来たんだよ」
「でも、私は助けてなんて言ってないよ」
「それはそうだけど・・・」
「ねぇ、帰ってくんない。もう顔も見たくないの。それに、魔王と一緒なんて嫌だから。じゃあね陽炎さん」
そう言って陽炎に手を振る。それを見て、陽炎はその場に立ち尽くす。
「なぁ、なんでそんなこと言うんだよ・・・?俺と過ごした日々を忘れたのかよ!」
「忘れてないよ!忘れてないからこそ、ずっと不滅の思い出にしたいの!だから、これ以上関わらないで!」
テムはそう叫ぶ。全く意味がわからなかった。なんでテムが自分を避けるのか、なんでテムはこんなに悲しい顔をしているのか、全く分からなかった。
・・・否、一つだけわかることがある。ここはエルフの国だ。そして、テムはエルフの国の長・・・て言うより国王の娘。そして、ここからは自分の予想だがテムは人間の子だ。ルーンファールは言っていた。この国ではエルフ同士で子供を産み、子供を産むと女性になる。だが、テムは違った。何らかの理由で人間の子供を産んでしまったんだ。それを隠すために・・・いや、恐らく別のことだろう。大体の予想はできる。
「たとえなんと言われようと、帰らないつもりだったんだがな・・・」
陽炎は小さく呟いた。そして、振り返る。
「気が変わった。テム、お前と会うのはこれっきりだ」
そう言って足を進める。その先には、遅れてきたルーンファールが立っている。今の話は聞いていなかったようだ。何が起こったのかわかっていない様子だった。
「行くぞ」
陽炎はルーンファールにそう言ってテムから離れていく。
「ねぇ、良いの?もう目の前だよ」
「良いさ。それより、静かに聞いてくれ。俺は今からこの国をこの世界から消す。だから、お前には本当の本当に最後の質問をする」
「え?何?急にシリアスになったんだけど・・・」
「ルーンファール・・・お前は、エルフの国に着くか?それとも、大魔界帝国に着くか?どっちだ?」
陽炎の唐突な質問に頭が追いついていないようだ。何が何だかって感じの顔をする。
「ちょっと、本当にわかんないよ。急にこの世界から消すって・・・なんでそんなことするの?」
「それは、俺の国とエルフの国の戦争を避けるためだ。軍を使えば俺の国も損害がでる。そうなれば、他国から攻められた時に対処出来ない」
そう言ってルーンファールを見つめる。そして、続けて話した。
「それに、テムの頑張りが無駄になる・・・」
そう言って城を見る。
「タイムリミットは明後日までだ。軍を動かすにしても、1日では動かせない。俺も馬鹿じゃない。軍をいつでも動かせるようにしている。だが、それだとテムの努力は水の泡だ。だから、その前に俺は戦争を止めたい」
「そのために、この国を消すの?」
その問いに静かに頷く。それを見て、ルーンファールは少し考えた。そして、陽炎に問いかける。
「なんで私なの?他の人でも良かったんじゃないの?」
「それは・・・お前がテムと同じだからだ」
陽炎は目を見てそう言った。
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