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第82戒 残りの七星剣

 この絶望的な状況で陽炎は不敵に笑う。その顔には絶望は全く感じられず、希望に満ち溢れている。


「”魔法創造(クリエイションマジック)”」


 何も起きない。


「”生成(ジェネレイション)”」


 やはり何も起きない。どうやらこの場所は魔法の効果をかき消す魔法がかかっているみたいだ。


「魔法は使えない。武器もないか・・・対策はちゃんとしてるね」


「それはどうも。どうしますか?ここで死ぬか、牢獄に戻るか」


 ルウェルはそう言って微笑む。その隣にはいつでも殺せるように構えるルーンファールがいた。


「お前だったのか。よく生きてたな、ルーンファール」


「えぇ、あれくらいの攻撃は造作もありません」


 そう言って笑う。2人は笑いながらもさっきを放ってくる。どうやら本気らしい。


「・・・」


 陽炎は少し悩むと姿勢を低くする。もとより、こうすることは決まっている。


「やる気ですか?」


 ルウェルはそう聞いた。当然やるきだ。その気持ちは変わらない。


「じゃあ、死んでください」


 そう言うと、2人の姿が消えた。そして、胸に痛みを感じた。熱い何かが出てくる感触だ。それに、何かが刺さっているのが見える。


「これで終わりです」


 後ろからそんな声が聞こえた。どうやら、見えている何かは2人の剣のようだ。その剣は引き抜かれ、血が吹きでる。陽炎は胸に熱いものを感じながら膝から崩れ落ちた。


「さて、牢屋に連れ戻しますかね。・・・ん?」


 ルウェルは何か異変を感じた。心臓を貫いたにしては血の量が多いのだ。確かに心臓を貫けば血が吹き出るが、足が浸かるほど出ては来ない。だが、陽炎の周りには足が浸かるほど血が出ている。流石に出すぎだ。


「っ!?まさか・・・っ!?」


 ルウェルは咄嗟に後ろに逃げようとしたが遅かった。右足を何かに刺されて固定され、鋭い何かに心臓を貫かれてしまった。


「ガハッ・・・!」


 ルウェルの口から血が吹きでる。貫いた何かはかなり硬いのか、ルウェルを貫いたまま持ち上げている。


「ククク・・・」


 どこからか笑い声が聞こえた。それは下から聞こえた。


「・・・残念だったな。たとえ魔法を封じられても、俺には関係がない」


 そう言って陽炎は立ち上がった。その左目には黄色い光を帯び紋様が浮かんでいる。


「な・・・ぜ?」


「なぜ生きてるかって?それはだな・・・俺が不死だからだよ」


 陽炎はそう言って不敵な笑みを浮かべる。そして、左手で自分の左目を隠した。手をどける頃には目の光は収まっている。


「これが俺の力だ」


「クッ・・・、なら・・・この赤いのはなんなんだ?不死と何が関係ある?」


 苦し紛れに聞いてくる。


「これは俺の血だ。血液に意識を移すと操作(コントロール)出来る」


「なるほど・・・そういうことだったのですね・・・やられましたよ・・・」


「そういうことだ。早く死ね」


 陽炎はそう言い放って手刀で首をはねた。首は骨が折れる音をしながら転げ落ちる。落ちるとすぐに陽炎の血が絡め取り飲み込まれてしまった。


「さて、あとはルーンファールお前だけだ」


「まさか・・・ルウェルがやられるなんて・・・」


 陽炎は不敵な笑みを浮かべて近寄る。


「ハッ!こんなことでルウェルが死ぬと思ってんの!?バッカじゃないの!」


「バカはお前だろ。あの男の体は既に無い。俺の血が飲み込んだからな」


「っ!?」


 確かに、体はもう無くなっていた。それどころか、周りは陽炎の血で囲われている。


「何?殺すならさっさと殺しなさいよ!」


「いや、情報が欲しい。フェルルとファルルはどこにいる?テムもだ」


 陽炎がそう聞くとルーンファールは横に首を振る。どうやら知らないらしい。


「私達七星剣はこの世界では有名だし権力もある。でも、この国じゃ、私達は下っ端なんだよ。だから、上の位の人達とは口も聞けない」


 なるほどな。と、陽炎は思った。だから、あんな特攻隊みたいなことをしてきたのか。だが、それでも囚われている場所くらい知っているだろうに。


 ・・・いや、違うな。なんとなくわかったぞ。


「テム達は囚われていないのか・・・」


「・・・よく分かったね・・・」


「囚われていた俺の場所は知っていたのに、2人の位置は分からない。だから囚われていないと考えるのが妥当だ。そして、いる場所は王に近い場所・・・」


 陽炎は思いつく全てのことを言った。すると、ルーンファールは全て頷く。それを見て少し悩む。


(どうやって行こうか・・・)


「この国ごと消滅させるのは簡単なんだけどな・・・いや、それをすると俺は・・・」


「なんか言ったかい?」


「いや、なんでもない」


 陽炎の呟きが聞こえたのか、なにか聞かれた。陽炎は慌てて誤魔化したが、ルーンファールは怪しんでいる。


 ま、怪しまれたところでなんだがな・・・


「これでもういいだろ!さっさと殺せ!」


 そう言って手足を広げ体を投げ出す。


「いや、そこまで清々しくされても困るのだが・・・」


「フンッ!この甘えん坊が!それともなんだい?殺さないでくれるのかい?」


 ルーンファールはそう言ってニヤニヤと笑う。陽炎はその顔を見て少し悩む。そして、背中の剣に手をかけた。


「俺は、そこまで甘くはないし優しくもない」


 陽炎がそう言うと、ルーンファールは目を瞑る。もう、死を覚悟したようだ。あとは、自分の体に剣が振り下ろされるのを待つだけだ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう思ってずっと待っていた。しかし、いつになっても剣は体に当たらない。それどころか、剣をさやに収める音がする。


「どうした?殺らないのか?」


 そう聞くと、何故か陽炎がルーンファールの体を撫でるように触り始めた。


 ビクンッ!と体が震える。


「な、な、な、何をするんだ!?」


「・・・何って・・・殺さないだけだ。それに、俺の子孫を残すことも考えないといけないしな」


 陽炎はそんなことを言ってくる。表情を見ると、凄く落ち着いている。そして、また触る。


 ビクンッ!ビクンッ!


 陽炎はルーンファールの敏感なところを集中的に触る。その度に体がビクンッ!と震える。


「や、やだぁ・・・そんなこと・・・したら、舌を・・・」


「噛み切って死ぬ・・・か?そんなことをしても無駄だ。蘇生するだけだからな。幸いにもこの国には素材は多い。喜べ、蘇生し放題だ」


 陽炎は真顔でそんなことを言う。それを見て、聞いて、ルーンファールは不安な気持ちになる。そして、目から涙がこぼれ落ちた。その涙はいくら拭っても止まらない。


 これから死ぬよりも怖くて辛くて痛い事が待っている。


 ルーンファールの頭はそんな考えでいっぱいになった。


「馬鹿か?冗談に決まってんだろ。俺にはテム達がいるから別にそんな事しなくてもいいんだよ」


「え・・・?じゃあ・・・なんで殺さないの・・・?」


「それは、お前にいくつか聞きたいことがあるからだ。殺すかはそれから考える」


「・・・フフフ、甘いね。そんなんじゃ、誰も救えないよ」


「甘いのと、弱いのは違う。俺は、基本的には人は殺さない主義だ。だが、俺の大切な人を傷つけるやつは殺す。それだけだ」


 陽炎は目を細めてそう言う。その言葉からは強い意志と普通の冒険者なら即座に死ぬくらいの殺気を感じた。


「・・・魔王の名は、伊達じゃないんだね」


「そういうことだ。だから、俺の質問に答えてもらう」


 そう言って陽炎は1つ目を問いかける。


「なぜ、今までの戦いで本気を出さなかったんだ?」


「っ!?どういう事・・・!?」


「なぜ、七星剣の中で弱い振りをしていたんだ?・・・俺はそう聞いたんだ。さぁ、答えろ」


 ルーンファールはその質問を受けて、少し顔を暗くした。

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