第73戒 休暇と波乱の予兆
陽炎は自分の部屋で何かの準備をしていた。大きなバッグに服や日用雑貨、貴重品などを入れている。まるで、旅行か家出のようだ。
「久しぶりにゆっくり出来るな。最近忙しすぎだったしな。声がでかい勇者に殺されかけ、声が小さい勇者に殺されかけ、大変すぎるんだよなぁ」
そんなことを呟きながら荷物をまとめていく。すると、突如扉が開けられた。すると、テムが中に飛び込んできた。
「かーくん、準備まだなの!?もう待ちきれないよ!」
「ん?あぁ悪い。今出来たところだよ」
陽炎はそう言ってテムと一緒に部屋から出るとバルコニーへ向かう。少し歩くとバルコニーに着いた。そこには、ディリー、ルーシャ、フェルル、ファルルの4人が待っている。
『もう遅いよ〜!』
どうやら4人は怒っているみたいだ。
「あのな、普通に準備したらこれくらいが普通なんだよ。お前らが早すぎんだよ」
「そんなことないもん」
そう言って頬をふくらませる。陽炎はその様子を見て不敵な笑みを浮かべた。
「それじゃあ行くか。離れ島だったよな」
『うん!』
全員が威勢のいい返事をした。陽炎はそれを聞き届けると全員に触れ魔法を発動した。
━━気がつくと目の前に大きな家があった。それは、木で出来てある、いわゆるウッドハウスというものだった。
「フフフ、着いたな。我が家へ・・・」
陽炎はそう言いながらドアを開け家の中へと入る。
ごちゃあ〜・・・
中に入るとそこは地獄のような所だった。全部屋散らかっており、やけに暗い。
「す、凄いね・・・っ!?」
ディリーが横を見ると額に青筋を浮かべた陽炎が立っていた。
「ふざけるなよ・・・」
「まぁまぁ、かげくん落ち着いて」
ルーシャが焦りながらなんとか落ち着かせようとする。
「まぁ、そこまで怒ってもないけどな」
突然陽炎の怒りが納まったのに驚いて3人は固まってしまった。その様子をフェルルとファルルは不思議そうな顔で見ている。
「そもそも、どうしてこの家を持ってるの?」
フェルルが聞いてきた。
「いい質問だ。俺は魔王城職員にそれぞれ休暇を取らせた。その時、自分たちが休暇を取れるような島を探したらこの島があってな。すぐに買ったわけだ」
「へぇ〜」
フェルルは感心したが、同時に不安になった。それもそのはず、島を買うということは相当の金が必要だ。と、言うことは自分達は島を買うことでお金を使い切ってお金が無いかもしれないということだ。
「そんなの買ってお金は大丈夫なの?」
「金は心配ない。サモナール王国がかなり持ってたからな」
「へぇ〜・・・え?」
フェルルは一瞬頭が混乱した。自分のプライベートの物を国の資金で買ったというのだ。魔王にだってやっていい事と悪いことがある。陽炎はその悪いことをしたと言うのだ。
「勘違いするなよ。俺は・・・」
「魔王だからってやっていい事と悪いことがあるよ!」
「はぁ?」
フェルルは陽炎の話の途中でそう言って怒ってきた。陽炎の体をポコポコ殴っている。
「話を最後まで聞け。俺はこの島を国の資金では買ってない。自分の貯金で買ったんだ」
「え?どういうこと?」
「ポケットマネーだよ」
陽炎は呆れたように言う。フェルルは自分が早とちりしたということを自覚して、急に恥ずかしくなった。
「さて、中に入るか」
陽炎は皆にそう言うと、家の中に入った。その後ろから5人が着いてくる。
「汚ぇな・・・前の人は破壊神か何かだったのか?壁とか壊れすぎだろ」
「そうね・・・」
そんなことを言いながら奥へと入っていく。この家は全体的に壊れている。奥の方に行っても壊れ方は同じだ。
「爆発とかじゃないんだな。意図的に壊されてるし・・・」
陽炎は少し悩むと壁に手をつけた。
「何するの?」
「この家を丸ごと修理する。”生成””加工”」
「うわぁ!」
陽炎が魔法を唱えると、家の壁や床、家具などがぐにゃぐにゃと動き出した。テム達は突然動き出した床に驚き大きな尻もちを着いてしまった。
「いたぁっ!」
「あ、悪い。ちょっと待ってくれ」
陽炎はそう言って微笑んだ。それから少しすると、動きは止まり陽炎は手を離した。そして、倒れている皆の元へ駆け寄る。
「ほら、手を出して。大丈夫か?」
そう言って2人ずつ手を差し伸べる。その様子を見てテムは少し嫉妬する。
「なんで自分が最初じゃないのよ・・・」
テムは誰にも聞こえないようにそう呟く。陽炎は4人を起き上がらせると急いでテムの元へ駆け寄る。
「テム、ほら」
「・・・」
テムは何故かこっちを見ない。それに、手も出してこない。陽炎は不思議そうに手を差し伸べる。
「テム・・・」
テムは少し不満があるように顔を俯かせる。それを見て陽炎は少し微笑んだ。
「フフ・・・」
「あ〜!なんで笑うのよ!」
「いや、やっとお前も俺に反抗する時が来たんだなって思ってさ。前までは反抗するって言っても本気じゃなかったろ」
「そんなことないもん!本気だったもん!」
テムは頬をふくらませて怒る。陽炎はそんなテムをなだめて手を差し伸べる。
「ほら、手を掴んで。みんな待ってるぞ」
するとテムは、何かが吹っ切れたかのように笑顔になって陽炎の手を掴んだ。そして、陽炎はテムを引き上げる。すると、力を入れすぎたのかテムは逆に前に倒れ込む。そのまま陽炎を押し倒しながら倒れ込む。
「あ、あ、あ、ごめん!かーくんごめん!」
「・・・フフフ・・・あはははははは!良いよ、テムも大丈夫か?」
「う、うん」
テムは少し不思議そうな顔で頷いた。それを見た陽炎はテムに抱きついた。それで何かを察したのかテムは目を瞑る。陽炎はテムが目を瞑ったのを見て唇を合わせた。
「はわわ〜・・・」
その様子を見ていた4人が顔を真っ赤にする。4人は陽炎のテムが横になって抱きつきキスをしているのを止めようと思ったが止められない。どんどん熱々になっていく2人を見つめて自分達もどんどん熱くなっていく。
「あ、あの・・・陽炎・・・くん・・・そろそろ外に・・・」
『あ、ごめん』
2人の 声がハモった。
━━それから少しして外に出た。陽炎達は外に出ると海へと歩いていく。と、言うことは当然皆水着だ。皆は凄くウキウキな気分で海へと歩いていく。そして、海に着いた。そこには驚きの光景が待っていた。
「なっ!?なぜこんなところに女の子が・・・」
そう、そこには女の子が倒れていた。その女の子は少し人とは違う何かを感じる。
「この子は・・・」
「エルフよ」
テムはそう言った。
「この世界にいるのか!?エルフが」
陽炎がそう聞くとテムは頷いた。陽炎が驚いているとルーシャが言ってきた。
「ひとまず家まで運びましょう。話はそれからです」
「そうだな」
陽炎はエルフの女の子を担ぐと家まで連れていった。
━━それから少しすると、ルーシャは話を始めた。
「かげくんはこの地域から出たことないからわかんないよね。この世界はねいくつかの種族がいるの」
「その中でも、陽炎くん達と同じような人のことを人間族、東の国に行くと犬人族や、蜥蜴人などの亜人族、西に行くと私のような精霊族、北に行くとこの子のようなエルフの人々がいるの」
「それで、この子はエルフ族だってのか」
陽炎がそう聞くと皆一斉に頷く。陽炎は突如知らない多くの情報が頭の中に入ってきてパンクしそうになった。それでも、平然を装って皆と話す。その時、テムの顔が少し暗いことに気がついた。
「・・・?なぁテム、どうかしたのか?」
「え?いや、どうもしてないよ・・・」
「何かあるなら話してみろよ」
テムは少し俯いた。顔を暗くして話そうか話さないか迷う素振りを見せて覚悟を決めたように頷く。そして、静かに話し出した。
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