第72戒 次元の中の癒し
そして、陽炎は皆の元へと戻って行った。
「お前ら無事か?」
そう言って戻ると、何故か皆が居ない。陽炎は慌てた。不思議に思って当たりを見渡すと端の方にちょっとした歪みを見つけた。
「え?なにこれ?空間が歪んでんのか?」
陽炎は不思議そうに見つめながら、空間の歪みに手をつけた。すると、ものすごい力で歪みの中に吸い込まれてしまった。
「え?ちょっ、うわぁ!」
吸い込まれると、そこは不思議な空間だった。全てが歪んでいるというか、なんと言うか、言葉では言い表せないような空間だった。陽炎は中を確認しようと周りを見渡した。すると、隅の方でうずくまる人影を見つけた。陽炎はその人影にそっとちかづく。
コツンコツンコツン・・・
足音がなる度にその人影はビクンッと体を震わせる。陽炎はそんな人影を見つめてさらに足を進める。
「おい、こんなところで何をしている?そもそもここはどこだ?」
「ヒィ!殺さないで!服従します!殺さないで!」
テムは陽炎の話が聞こえてないのかそう言う。
「おい、俺だ。話を聞け」
「や、やらぁ・・・死にたくないよぉ・・・」
ディリーも陽炎の話を聞かない。ルーシャに至っては涙を流して泣いている。だが、どういう訳か他の皆がいない。
「どこ行ったんだ?・・・っ!?」
「こんなところまで!覚悟!”ディメンショナルカット”」
「は!?ふざけるなよ!”拘束”」
突如ギルシア達が後ろから攻撃してきた。陽炎はとっさに拘束したが、どうやらδとηはは拘束しきれなかったらしい。
「やはり魔王様でしたか。某は初めからおかしいと思ったのですよ」
「ミーもおかしいと思ったんだよねぇ」
「どういうことだ?なぜ俺を攻撃する?」
そう聞くと、2人はやれやれと言った感じでため息をつく。不思議に思い下を向くと、ギルシア、フェルル、ファルルの3人が顔を真っ赤にして俯いている。
「おい、俺の顔を見ろ」
『・・・』
3人は頑なに顔をあげようとしない。陽炎は髪を掴んで持ち上げようとしたが、流石に鬼畜すぎると思いフェルルの横にしゃがみ込んだ。
「そんなに俺に顔を見られたくないのか?ならこうだ・・・」
そう言ってフェルルの胸とお腹より下の部分に手を差し込みひっくり返す。
「オラァ!」
ひっくり返ったフェルルの顔を見ると真っ赤に染まっている。まるでりんご・・・じゃなくて、ルンゴのようだった。
「どうしたんだよ・・・」
陽炎は呆れたように言う。
「うぅ・・・うぅぅ・・・」
フェルルはさらに顔を赤くして泣き出してしまった。
「顔赤すぎんだろ。りんご・・・じゃなくてルンゴみたいに真っ赤だぞ。ペンキで塗ったのか?」
そう言うとさらに顔を赤くする。今度は怒ったようだ。頬をふくらませて泣きながらこっちを見つめている。陽炎はため息を1つつくと3人の元に近づく。そして、しゃがみこんで微笑むと皆に語りかける。
「俺は怒ってないよ。よく無事でいたな」
そう言って頭を撫でる。3人は世界一幸せそうな顔になった。陽炎はそんな3人の顔を見てすぐ後ろを振り向いた。
「・・・泣き声が聞こえる・・・」
「・・・ぐすん・・・」
泣いている。3人が泣いている。なんか気まずい・・・だが、俺は悪くないぞ。そもそもアイツらが俺の話を聞かないからじゃないか!
・・・はぁ・・・
陽炎はため息を1つつくと3人に近づき慰めようとした。そして、ふと思った。俺絶対悪くなくない、と。俺、わけも分からずこんなところに来て、攻撃されて何故か泣かれてこっちが謝りながら慰めなければならないのっておかしくない、と。
「・・・」
陽炎は振り返るとギルシアたちの元へ戻った。そしてフェルルとファルルを抱いてギルシアに言った。
「帰ろうぜ。ギルシア、よろし・・・うわぁ!」
そういった途端陽炎は後ろから体を押され倒れ込んだ。
「いてて・・・」
陽炎は後ろを振り向くと、涙目で頬を膨らませるテム達が居た。
「どうした?何かあったのか?」
「うぅぅ・・・良かったよぅ・・・かーくんが無事に帰ってきてくれて・・・」
予想と違った。いつもみたいに怒られるかと思ったらまさかの泣きつかれた。それに対して少し笑みがこぼれる。
「・・・フフフ、俺が死ぬとでも思ったか?漆黒の力を支配し魔の王となったこの俺が殺されるとでも思ったか?」
そう言うと3人は首を横に振る。
「そういうことだ。分かったら早く帰るぞ」
陽炎はそう言ってギルシアに向き合う。ギルシアによろしくと言うと、歯切れの悪い返事が帰ってきた。
「どうした?まさか帰れないとか言うなよ」
「ギクッ・・・うぅ・・・申し訳ありません・・・帰れないです」
『・・・』
ギルシアから出た言葉は意外なものでも何でもなかった。テンプレなのは分かるが実際にやられると困る。
「なんで帰れないんだよ」
陽炎は聞いてみた。するとギルシアは申し訳なさそうに言ってきた。
「この空間を作ったこと、皆さんを送り込んだこと、維持することに魔力を多く使用しました。そのため、皆さんを送り返す魔力が足らないのです」
その話を聞いて陽炎は怒ることも呆れることも無く確かに、と言った感じで頷いた。
「仕方がない。それなら別の手を考えなければならないな」
「はい。そうなります」
その場の全員が悩み出した。皆一切喋らず黙々と考えている。しかし、何も思いつかない。
「う〜ん・・・何も思い浮かばねぇな。治癒魔法での魔力譲渡が出来ないかと思ったけど・・・ルーシャのやつは特別だから出来ないしなぁ・・・」
そう言うとルーシャは落ち込む。陽炎はそれを無視してさらに話を続ける。
「転移魔法も次元が違うんじゃあ使えないんだよなぁ・・・仕方ない。”真魔法想像”」
陽炎は右目を碧く煌めかせ魔法を創る。
「あの、一体何を・・・?」
「ちょっと待て・・・組み合わせが難しいんだよ」
「組み合わせ?陽炎さんは一体何をしてるの?」
「難しい?陽炎さんは一体何をしてるの?」
フェルルとファルルが不思議そうに聞いてくる。そう言えば2人には見せたことがなかったな。そんなことを思っているとテムが説明をしてくれた。
「かーくんは魔法を創ることが出来るの。それを古代眼で強化して使っているの。私もよく分からないけど、組み合わせで新しい魔法や属性を創り出すんだって」
『そうなんだ・・・凄・・・』
「出来た!お前ら寄ってこい」
陽炎は2人が喋っているのを遮り大きな声で宣言した。2人は少し頬を膨らませたが、静かに近寄ってきた。
「よし、帰るぞ。”変次元”」
陽炎がそう唱えると、その場の全員が何も無い空間に吸い込まれていく。そして、目を開けると元の次元に戻っていた。
「やっぱ急すぎるな・・・まぁいい、戻ってこれたしな」
皆を見ると無事なようだ。誰1人欠けることなく戻ってこれている。
「フッ、上手くいってよかったな」
「そうですね。でも、ミーとδ以外は皆気絶しちゃってますよ」
突如ηがそんなことを言ってきた。確かに全員気絶している。
「某達は無事なようだが、どうやら酔ったみたいです」
「そうみたいだな・・・仕方ないか」
陽炎は皆を見つめると静かにその場に集め転移魔法を使った。そして、その場には誰もいなくなった。
━━次の日・・・
陽炎は魔王の間に座っている。
「こうやって話すのも久しぶりだな。ここ数日は散々な目にあっていたからな。これからは左目の力はなるべく使わないようにするよ」
陽炎はみんなに語りかけるように言う。
「そう言えば、リリス達はどうした?」
「彼女らなら戻っていると言われました」
「あぁそうなんだ」
陽炎は適当に相槌を打つと話を続ける。
「これからの大魔界帝国の方針は変わらず、やることも変わらない。だが、少しゆっくりする時間を作ろうと思う」
陽炎はそんなことを言ってきた。どうやら休暇を作るようだ。陽炎自身も休みたいのだろう。それに、皆昨日の戦いで疲労している。
「今は勇者の出現や他国の動きなど気になることが多いが急ぎすぎる訳にはいかない。相手の出方を見るために、少しこちらからの行動を控える」
「あの、質問があります・・・」
「はいどうぞ」
「あの、勇者が動き出したということは、大北魔導連盟国が動き出したということですか?」
「そういうことだ」
陽炎が頷いてそう言うとその場の緊張感が高まる。陽炎はそんな皆に言った。
「今はやることも多いし、問題も山積みだ。だが、こっちから動きすぎるのも良くない。と、言うことで少しの間休暇をとりま〜す。全員心から休んでこい」
陽炎はそう言って不敵な笑みを浮かべた。
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