第66戒 光の勇者
男は自信満々で指を指してきた。普通にわからんし、めんどくさい。もう殺すか?と思った時に気がついた。
「あれは・・・なるほどね」
「おい、何を納得している!?」
だから声がでけぇっての!って怒鳴りたいけど我慢しよう・・・そんなことより、陽炎は目の前の男をどうするかについて考えた。サモナールを乗っ取ったと言っても大魔界帝国は1つの国だ。そこに侵入した目の前の男を殺すかどうか迷ったのだ。
「僕は貴様を殺す!苦しみたくないのなら抵抗しない事だな!」
だからうるせぇっての!と言いたくなったがやめた。そんなことよりもっと大事なことがある。
「お前、さっきから誰と話してるのか分かってんのか?」
「何!?どういうことだ!?」
「フフフ、俺は魔王だ。たかが人間ごときに殺されるとでも?」
陽炎はそう言った。その言い方に腹を立てたのか、男の声がさらに大きくなる。
「強がりはよせ!」
「別に強がっているわけじゃないんだがな。それとも認めたくないのか?俺がお前より強いことを」
「っ!?」
男は声も出なくなった。なんせ、自分の言ったことを言い返されたのだから。陽炎はその様子を見てさらに続ける。
「お前こそ強がりはよせ。逃げるなら今のうちだぞ」
陽炎は嘲るかのように言った。その言い方に再び腹を立てたのか、男は剣を抜いた。
「死ぬ前に名乗らせてやる!」
「名前を聞くなら先に名乗れ」
「っ!?」
男は更に腹を立てる。今にも殺しに来そうなほど武者震いをしながら名前を名乗り出した。
「良いだろう・・・僕はヴェルノヘイム・リヒト。大北魔導連盟国・・・光の勇者だ!」
男は名前を名乗ると、光のオーラを放ち出した。
「俺は久遠陽炎。大魔界帝国国王、魔王だ」
陽炎も名前を名乗ると闇のオーラを放ち出した。
「フフ、ギルシア、十字の刻印を押せ。フフフ、漆黒に染めてやるよ。地獄の祭りだ!」
そう言って指を鳴らした。それが、開戦の合図となった。リヒトは剣を光らせ一直線に間合いを詰める。そのスピードはまるで光のようだった。
「光の勇者は伊達ではないか・・・なら、これだな」
そう言うと陽炎の前に十字の光が現れた。
「これが十字の刻印か!」
リヒトは咄嗟に後ろに避けた、なんという反射神経だろう。だが、突如後ろに転けた。
「良くやった!あとは任せろ!」
「はい!」
ギルシアはとても幸福そうな顔で笑う。そう、ギルシアがやったのだ。ギルシアは次元魔法でゲートを開き手だけリヒトの右足首に出し掴んだ。そのせいで転げてしまったのだ。
「さよなら、光の勇者さん。”陽流三十七式・落陽・絶天”」
「クソッ!舐めるなよ!”シャイニングバスター”」
技と技がぶつかり火花が散る。更に、両者の実力が互角なのか弾かれ合う。陽炎はギルシアに受け止められたが、リヒトは地面に背中を打ち付けながらかなり遠くまで吹き飛ばされた。
「まだだ!俺はまだ負けてない!」
遠くから聞こえる。凄い声量だ。まさかこれ程離れているのに聞こえるとは・・・
「魔王様、ご無事ですか?」
「あぁ。そんなことより、アイツをどうするか決めないとな」
「・・・」
ギルシアは無視をした。不思議に思って見ると、頬を膨らませ怒っている。
「そんなことじゃないよ!大事なことなんだよ!」
そんなことを言って怒っている。一応陽炎の方が権力は高いはずなんだが・・・。そして、陽炎は思う。最近ギルシアが本当に自分の姉なのかと。実は妹なんじゃないかと思う。
「まおぉぉぉぉう!僕はまだ負けてないぞぉぉぉ!」
さっきより大きな声でそんなことを言ってくる。普通にうるさい。
「やっぱ黙らせた方がいいか。”ブリザードカノン”」
陽炎の放った技は周りの建物を凍りつかせながらリヒトへと向かっていく。少し進んだ先で、何かにぶつかったように氷が弾ける。そこでは、ビキビキという音を立て凍っていくリヒトが見えた。
「俺の勝ちだな」
陽炎は勝ち誇った顔と声をして言った。ギルシアもニコニコ笑顔で陽炎を見ている。陽炎は周りを確認するとリヒトのもとまで歩き始めた。
「あ、そういえばだけど全然漆黒じゃなかったね」
「確かにな」
「それと、結局なんだったの?最初の光、十字の刻印とか言ってたけど」
「あぁ、あれか?あれはなんでもないよ。それっぽいこと言って適当に光魔法で十字に光らせただけさ」
「へぇ〜そんなことで騙されるんだ」
「人の脳ってのはそういうものさ。てかお前、最近俺に敬語使う機会少なくないか?」
「え?いや、あ、その、すみません」
慌てて謝る姿を見てうっかり笑ってしまった。陽炎は、別にいいさ、と言ってさらに足を進める。と、そこであることに気づいた。
「光ってる?それに、氷にヒビが・・・まずい!」
陽炎は咄嗟にギルシアを掴み後ろへと飛んだ。その直後、リヒトを中心として小さく爆発が起こった。
「な、何!?」
「まだだ!まだ負けてない!」
リヒトはそう言うと立ち上がり剣を構える。
「・・・」
陽炎はその様子を見て何も言えなくなった。流石にそろそろ飽きてきたな、と思いやれやれと言った感じで首を振る。
「そうか、お前はもう限界なんだな!僕はまだやれるぞ!」
「・・・はぁ、もういいよ。死ね。”樹木呪戒・葉獄の牢”」
古代樹が生えだしリヒトを囲む。
「”樹木殺”」
そして、押しつぶす。古代樹の中にいたリヒトは一溜りもないはず。体が潰され原型を留めていないはず。しかし、リヒトは生きているし、原型を留めている。強いて言えば、少し怪我をしているくらいだ。
「なんなんだよ・・・こいつの体はアダマンタイトで出来てんのか!?」
「ウォォォォォ!これが勇者の力だ!”アルティメットソード”!」
リヒトは何事もなく突っ込んできた。そして、剣を光らせる。
「ちっ!もうこれしか・・・」
「ダメ!それはダメ!」
陽炎が左手を左目に持っていこうとしたところギルシアに止められた。力ずくで振りほどくことも出来るが、陽炎は静かに手を下ろした。そして、向かってくるリヒトに向き合った。
「あ、もうこんなところまで・・・フフフ・・・舐めるなよ!”ブリザードフラワー”」
そう唱えて地面を強く踏みつけた。すると、地面が凍りつきそこから氷の花が生えてきた。それはリヒトを包み込むとが一気に凍りつかせた。
「こんなもの・・・無駄だぁ!」
一瞬にして氷は砕かれた。そして、リヒトは剣を振り下ろしてくる。
「速っ・・・ま、でももう遅い!”古龍剣術・極大蛇”」
「っ!?」
━━━━━━━━━━━━━━━ギルシアはなにか起こったのか分からなかった。気がついた時にはリヒトは倒れていた。剣はバラバラに砕けている。だが、死んではいないみたいだ。
「・・・っ!?魔王様、一体何が・・・っ!?」
ギルシアは動けなくなった。そして、目を閉じる。目の前の光景を見ないように、そして、信じないうに。目を開ければそれは夢だと思った。実は、目の前のことは幻覚で本当はもっと違った結果なんじゃないかと思った。でも、それらは全て違った。
「あはは・・・やっぱ、勇者は伊達じゃないみたいだ」
陽炎の腹に大きな穴が空いていたのだ。更に、右肩から左脇腹にかけて大きく斬られている。
「・・・・・・う・・・うぅ・・・うわぁぁぁぁぁ!魔王様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ギルシアは叫んだ。目の前の現実から逃げようと、泣き叫んだ。だが、いくら涙を流そうと大きな声で叫ぼうと現実は変わらない。今になって気づいた。周りの建物が破壊されている。それも、6つの場所で。その時、陽炎は倒れてきた。ギルシアはそれを受け止めるとなんとかそこから逃げようと足を後ろに向けた。
「どこに行こうとしてるのですか?そんな必死に逃げられると、わたくしとしても少し辛いですよ」
男はそう言ってリヒトを担いでいる。
「あなたは?」
「わたくしですか?名乗るほどでもない。先程辛いと言いましたが、私も逃げさせてもらいます」
「あ、ちょっ・・・」
「安心してください。プレゼントもありますよ」
謎の男はそう言って笑う。ギルシアは何が何だか分からなかったがその男からとんでもないオーラを感じ、動けなくなった。そして、男の姿はリヒトと共に消えた。
「何だったの・・・」
「これはまずいな」
突如陽炎が起きて話しかけてきた。ギルシアは驚いてうっかり転けてしまった。
「おい、そんなに驚くな。それと、上を見ろ」
上を見るとやけに明るい。何かが落ちてきている。
「嘘・・・でしょ・・・」
ギルシアは声も出なかった。出そうとしても出ないほど驚いてしまった。それもそのはず、降ってきているものはなんと太陽だったのだ。
「凄いね」
その場に陽炎の緊張感のない言葉だけが残った。
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