第57戒 不穏な光
「速かったな」
陽炎は話しかけた。それに、ギルシアはそうですか?と答える。こういうものがいつもの会話になるはずのものだった。だが、それももう終わったこと。遅かったのだ。
「そうなんだよ・・・本当はもう、遅いんだよ・・・」
陽炎は小さく呟いた。
「あの、どうしました?」
「いや、なんでもない。それより、ζはどうした?」
そう聞くと、突然ギルシアの顔が曇り始めた。・・・まぁ、薄々予感はしていた。死ぬことはないだろう。ギルシアの側近なら大丈夫だ。だが、傷つかないとは限らない。
「・・・ζは、悪魔達に・・・」
「やられたのか?」
その場の空気がピリついた。
「いえ・・・悪魔達にすごい長話をされたあと気づかれてたみたいで今、捕まって・・・あ、魔王様、何を!?」
「今すぐ呼ぶんだよ。何があったのかここではかせる」
「おやめ下さい!大丈夫です!ζは捕まっていたのですが、もう帰ってきたので!」
「だが、悪いことはしたんだろ。なら、お仕置が必要じゃねぇか」
「ち、違います!ζは何故か綺麗になって帰ってきました」
は?え?どゆこと?
「どうやら悪魔達がζに化粧をして手入れをして返してくれました!だから、怒んないでください!」
陽炎は呆れて何も言えなくなった。だが、その話を聞く限り状況はかなりまずいとわかった。ζが捕まって何もされなかったのはζが俺の部下だということを知っていたから、もしくは気づいたから。
「まぁいい。話を戻すが、この目の力の代償もアイツらが決めたのか?」
「はい。ですが、それだけです」
「そうか、なら1度締めとかないとな。それに、この目の力はあまり使えないな」
「その方がよろしいかと。代償が大きすぎます」
ふと、ギルシアを見た。すると、何故か心配そうな顔をしている。
「え?あの・・・」
少し顔が赤くなった。照れているのだろうか。だが、その目にはまだ心配な気持ちが残る。
「まさかな・・・」
俺はあんなに嫌いだったのに、あれだけ遠ざけたのに俺の事を心配している。あれだけ酷いことしたのに、奴隷にまでしたのに、俺の事を嫌わずに心配してくれている。
「っ!?あの・・・えと・・・その・・・」
陽炎はギルシアの頭に手を置いて撫でた。それに反応してギルシアは顔を赤くした。
「ま、何はともあれ今は分からないことが多い。それに今のでわかったが敵は人だけでなく魔物もだってことがわかった。これからの方針を決めなくてはな」
「そうですね。では、私達はいつも通り街の防衛をしますか?」
「いや、ギルシアは城に戻り作戦を考えてくれ。3日後には結婚式がある。それを1日早めにずらして公表しろ」
「了解です。魔王様はどちらに?」
「俺はギルドに向かう。この時間だとαがいるはずだ。それに、少し頼み事をされているからな」
「では、お気をつけて」
陽炎は頷き、体が揺らいだかと思うと空間に入っていった。
━━場所は変わってギルド内・・・
『アハハハハ!それはうけるぜ!』
『アハハハハ!面白いは!』
ギルドの中はお祭り騒ぎとなっている。色んな冒険者が、昼間から酒を飲んで暴れていた。
『アハハハハ!』
と、その時、陽炎が中に入って来た。
『っ!?』
中は静まり返り、全員固まっている。そんな中を陽炎は歩きある人のところに向かった。
「あ、陽炎くん!来てくれたんだ!」
その場の全員がギョッとした。一国の王を、更には魔王と言われ恐れられているものを名前で呼び捨てするなど考えられない。だが、その子は、その女の子は呼び捨てで話す。それについて陽炎は何も言わない。
「良かったよ!来てくれないかと思った!」
「来るに決まってるだろ。ソルトの頼みだしな。それに、国民の頼み事を聞くのも王の務めだろ」
「ふふ、なんだか様になってるね」
「ありがとな。それで、頼み事ってなんだ?」
「それがね・・・」
話そうとしたところでやめた。なぜなら、周りに冒険者がいて、全員こっちを見ているから。
「・・・場所を変えよう・・・」
「そうだな」
それから陽炎達は少し歩いた場所にある木の下に着いた。
「えっとね、単刀直入に言うとね、最近この辺の魔物が強くなってきてるの。ただでさえ強かった魔物がさらに強化されたわけ。さらに、ここら辺で見ない魔物の数が増えてきてるの」
確かにな。あのドラゴンも、本当はこの辺の魔物じゃない。
「だとしたら、敵の刺客か?」
「わかんないんだけどね、なんだか良くない気がするの」
「だから、俺に調査して欲しいと?」
そう聞くと満面の笑を浮かべて大きく頷いた。やっぱりなと思いながらも調査に向かうことにした。・・・と、その前にαの所に行くのを忘れていたな。そう思って陽炎はαを探した。
「αは?」
「αさんなら外の訓練場にいるよ」
「そうか、ありがとう」
そして訓練場に向かった。外に出ると冒険者が沢山いた。皆素振りや筋トレなどをして鍛えている。そんな皆の目の前で指導している人がいた。
「よぉ」
「ん?魔王様ですか。何用でこのようなところに?」
「お前にまた剣を預けておこうと思ってな。この前は助かったよ」
「了解しました。ありがたき幸せ」
陽炎は剣を渡した。あの時に使った剣だ。なにか禍々しいオーラを感じる。
「じゃあな」
陽炎は剣を渡すとすぐに行ってしまった。αは禍々しい剣をしまうと冒険者達に向き直った。
━━再び場所は変わって街の外壁の上・・・
「ギルシア、さっきのドラゴンはどうした?」
「っ!?ま、魔王様、ドラゴンでしたら今調査中です」
そう言うと少し横にずれて指を指した。確かに、さっきのドラゴンだ。特に何も無い。
「なぜここにこいつがいるんだ?」
「そこまではまだ・・・」
「そもそも、このドラゴン強いのか?」
素朴な質問を投げかけた。魔力は多いが強そうには見えない。そんなドラゴンが脅威に那由多るとは到底思えない。しかし、意外な答えが帰ってきた。
「私たちにとって弱いかもしれませんが、これは街の人々からしたら脅威となります。私達みたいな特別な力がある訳では無いので・・・」
ギルシアは少し気まづそうな顔をした。・・・はぁ・・・
「お前のせいじゃねぇよ。お前が俺を呼んだからこんなことになった訳じゃない。違う道は沢山あった。だけど俺はこっちを選んだ。これは、俺が選んだ選択肢だ。お前が気に病むことは無い」
「それはそうですが・・・」
それでもやはり気まづそうな顔をする。恐らく知っているのだろう。陽炎自身も今気がついた。ドラゴンの腹部にセントクロスの紋章が着いているのを。
「せんとクロスは・・・俺が潰す。お前が俺をこの世界に呼んで悪いと思ってるのなら俺はセントクロスをこっちの世界に呼んでしまった。だから、五分五分じゃないか?」
「・・・はい!」
ギルシアの顔は明るくなった。それにしても、自分の姉を口説く弟って、女たらしだよな。そんなことが頭に浮かんだ。
「そう言えばですが、街の外れで少し不可解な魔力の流れを捉えました」
「なるほど・・・行ってみるか・・・」
「あ、待ってください。私も連れていってください」
「あぁ、わかった」
するとギルシアは顔を明るくした。・・・コイツ本当に俺の姉なのかな・・・もしかして、妹かも・・・
「ま、いいや。すぐに行こう」
そう言って陽炎は大きく飛んだ。それについて行くようにギルシアも飛んだ。少し進むと、開けた場所に出た。そこには誰かいる。
「おや、もう来ましたか。少し早かったですね」
咄嗟に隠れたが気づかれているらしい。潔く前に出ると話を始めた。
「そりゃ悪かったね。で、お前誰?」
「小生のことですか?小生は神聖十字王国・・・いわゆるセントクロスの王直属の近衛兵、隊長・・・セントクロス最強の騎士です」
男はそう言って不敵に笑った。
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