第53戒 迷いと決断
陽炎達は街のギルドへと来ていた。ここにはギルドと訓練場、そして、闘技場を陽炎が作ったのだ。その闘技場に陽炎は立っていた。
「そろそろだ・・・」
すると、目の前に誰かが歩いてきた。2人組だ。その2人組は見たことがある顔だ。
「それで、俺が勝てばお前らは俺の妻になる。お前らが勝てば俺がお前らの奴隷になるでいいんだな?」
そう聞くと、何も言わずに頷いた。
「じゃあ始めるか」
そう言って両者は武器を構えた。遠くから声が聞こえる。よーい、始め!・・・この声と共に両者は動き出した。武器かぶつかり甲高い音が響く。これは決闘だ。しかし、なぜこうなったのか。それは、2時間前に遡る・・・
「それで、お前らはどうしたいんだ?」
陽炎は目の前の双子にそう聞いた。
「・・・」
しかし、答えは帰ってこない。
「決まってないのか・・・」
「うん・・・ごめんね」
「フッ、別にいいさ。人生に迷いは付き物だろう」
そう言うと2人の顔が明るくなった。
「迷うことは大切だ。どんな事でも迷っていい。だが、これだけは覚えてろ。・・・お前らはいつか大きな決断を迫られる。それはお前らに限ったことじゃない。ただ、その決断を信じろ。たとえ何があっても自分の選んだ道を、答えを信じ続けろ」
「あう、うん・・・わかった!」
「それに、やっと決まりました」
そう言うと2人はこちらを指さして大きな声で宣言した。
『私達と決闘してください!』
「・・・はぁ!?」
この女達は何を言い出したかと思えば決闘だと?バカバカしいにも程がある。誰がやるか・・・なんてこと言えないし言いたくないね。
「良いよ。今なら前より良い戦いが出来ると思うしね」
そう言うと2人は顔を明るくした。かわいいなぁ。ずっとこの笑顔を見ていたいよ。
「そうだ、この決闘・・・俺が勝ったらお前らを俺の妻にしてやるよ」
「は?え?」
「嫌って言っても無駄だぜ。俺はお前らのわがままを聞いてやってるんだからな」
2人は呆然としている。状況がよくわかってないみたいだ。いや、突然のことすぎて頭が追いついてないだけか。2人はまるで石にでもなったかのように動かなくなった。手を振っても触っても動かない。
「あれ?動かなくなっちゃった・・・。どうしてだろ?もしかして、突然メドゥーサの邪眼でも開眼したのかな。それとも、ゴルゴンの首が降ってきたとか・・・」
しかし、周りにはそれらしきものなどない。それに、そんなものが開眼した感じもしない。てか、ゴルゴンの首とメドゥーサはほぼ同じだろ。
「はぁ・・・お〜い、起きろ〜」
そう言いながら胸とお尻を容赦なく揉んだ。
「うにゃぁっ!」
「ふにゅっ!?」
2人は体をビクンっと震えさせると目を覚ました。
「はぁ・・・やっとか。それで、俺が勝ったらお前らは俺の妻になる。お前らが勝ったらどうすんの?特別に聞いてやるよ」
「え?私達?そんな、別に私達は・・・」
「あ〜もういいわ〜・・・お前らが勝ったらおれは奴隷にでもなってやるよ」
その言葉を聞くと、2人はどうしてと言わんばかりの顔で見つめてきた。
「こういうのは失うものがあった方がいつもより無強くなれるんだよ。力を得るには代償が必要だろ」
そう言うと、納得したように頷いた。
「それじゃあ今日やろう。今から準備をする。2時間後にギルドに来てくれ」
それから全員で準備に取り掛かった。
━━そして今である。流石に2時間待てば観客もかなり集まる。かなりの人数が来ているようだ。
「それじゃあ勝敗条件だが、どちらかが降参する。もしくは、戦闘不能の状態になる、でいいか?」
『うん』
「それじゃあ、早速始めようよ。俺はダラダラ話すのが嫌いなんだよ」
「・・・ちょっと待って!なんでここまでしてくれるの?私達敵だよ」
突如そのようなことを言い出した。確かに敵ではあったが今は違う。それに、やりたいことをやらせるのも上の者の仕事だしな。まぁ、まだあいつらは俺の国の国民じゃないけどな。
「俺は魔王だぞ。やりたいことやったって良いだろ」
陽炎は当然のように言った。だが、その言葉は2人にとって最高の言葉となった。
「じゃあ試合を始めよう」
「ちょっと待って!」
その時どこかからか声が上がった。聞き覚えのある声だ。見なくてもわかる。目をやって確認するとやはりその声の主はテムだ。
「おい、いちいち止めるなよ。話がややこしくなるだろ〜が」
「いや、だって、かーくん部屋に武器とか全部忘れてたから・・・」
その場の空気が凍った。そして、一斉に陽炎の腰と背中に視線が集まった。確かに何もつけていない。
「へ、へぇ〜・・・それで持ってきてくれたのか?」
「それがね・・・私も忘れちゃった♪」
『・・・』
予想はしていた。なんせ、手には何も持っていなのだから。しかし、飛んだ茶番だったな。
「いや、別にいいよ。俺の武器はもうあるから」
「それならいいけど・・・」
「悪いね。それじゃあ・・・」
「ちょっと待って!」
今度は反対側で声が上がった。またも聞き覚えのある声だ。目をやらずともわかる。
「あのなぁ、ディリー、お前らいちいち邪魔するなよな。早く戦うところがみたいだろ?なぁ、皆」
シーン・・・
「ほら皆も良いって」
「いや、なんでだよ。まぁいいや、で、お前は何が言いたいの?」
「いや、その、あの・・・」
なんだか言い渋っているみたいだ。顔が赤いな。熱か?
「何が言いたいんだよ?もしかしてあれか?俺の靴下が右と左で違うとかそんなのか?」
「ううん、違うんだけど・・・もし陽炎くんがフェルルとファルルの服を破くつもりならやめた方がいいよ」
「なんだよそれ。俺が変態みたいじゃねぇか。まぁでも、服は破けるかもな」
すると、かなりおだろいた様子でモジモジしだした。マジでなんなの?俺を変態にしたいの?ものすごい鬼嫁だな。
「いや、その、2人が下着をつけてないの!」
『・・・』
その場の空気が再び凍った。そして、一直線にフェルルとファルルに視線が集まった。確かに、よく見るとつけてないような気もする。
「じゃあ気をつけるよ。それで良いだろ」
「うん・・・」
「よし・・・」
「ちょっと待って!」
はい来た〜。やっぱり来た。来ると思ったんだよね〜。流石に3回目はないよ。もう飽きたよ。面白くないよ。どうせまたしょうもないことなんだろ。デジャブでも2回が限界だよ。
「はぁ・・・またかよ。で、なんなの?」
「かげくん・・・マントが少し破れてるよ」
なんと、とても大事な事だった。これはヤバいではないか。
「嘘だろ・・・て、まじかよ。”加工”」
すぐに直した。これでやる気も十分だ。それに、みんなも話し終わっただろうし。
『ねぇ・・・』
「ん?」
3人は心配そうな顔をしている。
「そんな心配そうな顔するなよ。俺は大丈夫だって言ってるだろ。それに、俺はお前らの心配した顔より笑ってたり恥ずかしがっている時の顔の方が可愛くて好きだよ」
そう言うと、3人は顔から火が出るのではと思うほど真っ赤にしてモジモジしだした。
「それじゃあ始めるよ」
その声を聞くと、審判的な人が手を挙げた。これだけ待たせたんだ。流石に怒って・・・る訳じゃないけど正々堂々と戦おう。
「では、これより始めます!両者位置についてください!」
そう言われたので位置に着いた。向こうは武器を構えている。そうか、位置に着く時に構えるのか。でも、魔法はダメみたいだな。
「・・・始め!」
その合図と共に審判的な人が手を勢いよく下ろした。そして、フェルルとファルルがすぐさま暗記を飛ばしてきた。これは武器がないと防げない。前に戦った時に結界はあまり意味は無いと知った。だからと言って武器を作る暇はない。
「武器がないんじゃ逃げるしかないね!」
「武器がないんじゃ何も出来ないね!」
2人の武器はかなり速いスピードで飛んでくる。いきなりやられる訳にはいかないので横に避けた。避けるとすぐに武器が飛んでくる。そして、また避ける。ずっとそれの繰り返しだ。2分間それが続いた。しかし、終わりは来る。
「あ!しまった!」
「ファルル!暗記が尽きたの!?補充しないと・・・」
「アハハハハハ!」
突然陽炎が笑いだした。気が狂ったのかと、その場の全員が驚いてしまった。
「アハハハハハ!やっぱりね!君たちの魔法は既にわかっているつもりだったけどやっぱりまだあったんだ!」
「何を言って・・・」
「フェルル、お前の魔法は物体の大きさを変える魔法。だから武器の数には限界がある。ファルル、お前は基礎魔法が全般だ。特に風魔法に自信があるみたいだな。そして、お前ら2人の魔法がもう1つ」
「う・・・何って言うの?」
「フフフ・・・収束魔法だろ。一定の距離の物体を集める。弱そうに見えて実用的な魔法だな」
「それがなんだって言うの!?わかったところで何も変わらないわよ!」
「それがなんだって言うの!?わかっても避けられないなら意味ないのよ!」
2人は言う。だが、それは違う。種がわかったマジックが面白くないのと同じ。なんの魔法か分かったら避けるのも簡単だ。
「フフフ・・・」
と、その時座布団が飛んできた。
「いって・・・もうなんなんだよ・・・?」
投げてきた方向を見た。なんか見覚えがある。
「おい、ルーシャ、座布団を投げるなよな。ほら、返すから大人しく座ってろ」
そう言って投げ返した。何がしたかったんだよ。と、その時あることに気づいた。座布団にちっさく文字が書かれている。投げ返した座布団を急いで取り戻しよく見た。するとこんなことが書かれていた。
「かげくんが2人を妻にするって言ったのには驚いたよ。でも、私達は良いよ。喜んで受け入れるよ・・・。でも、だからと言って私達に構ってくれなくなったら嫌だよ・・・」
・・・え?これ今言うことなの?なんかもうちょっと情熱的な時に言って欲しかったな。そんなことを思っていると、さらに下の方に何か書かれているのを見つけた。
「追伸・・・本気は出しちゃダメよ。特に左目の力は使っちゃダメ!使ったらお仕置だよ!♡」
「ハハハ・・・もちろん、そのつもりだよ」
少しにやけてしまった。全く俺もチョロくなっちゃったのかなぁ。でも、皆可愛んだよなぁ。それに、あいつらといると楽しいんだよなぁ。よし、やるか。
「どうしたの?」
「いや、ちょっと怒られてただけだよ。続きをやろうか。だが、その前に言っておこう。俺も少し本気を出させてもらうよ」
そう言って右手を天に突き上げた。その腕は青白く光って綺麗だ。まるで星のような腕。それは、死を意味する星だった。
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