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第44戒 手の平の物語

 陽炎はその場に立ち上がるとベランダに出た。


「俺もそろそろ行くか」


「フフ・・・私達も行くわ」


「当然だろ。どこまでも着いてきてもらうぞ」


『んっ♡』


 ━━冒険者達は困惑していた。なぜなら、突如兵が退いたかと思ったら馬に乗った男が1人こちらに向かってきているからだ。


「な、なんだ?」


「どういうことだ?」


「勝ったのか?」


 冒険者達は口々にそう言っている。砦の上にいるβも理由は別だが同様に困惑していた。


(陽炎様の言った通りだ・・・だとしたら陽炎様をお呼びしないと・・・)


「予想通りだな」


 後ろからそんな声が聞こえた。


「陽炎様、いつの間にいらしたのですか?」


「今こっちに来た。サモナールの兵が退いたな。予想通りだ。恐らくアイツの言うことは・・・」


 その時、馬に乗った男が喋りだした。


「我々はこれ以上の交戦を望まない!貴国の王と話がしたい!出てきて貰えぬか!?」


 男はそんなことを叫んでいる。


「どうします?」


 βがそんなことを聞いてきた。しかし、答えは既に決まってある。


「当然・・・行くに決まってるだろ」


 そして陽炎は砦の上から飛び降りた。そのままひとっ飛びで男の前に降り立った。


「やぁ、初めまして。大魔界帝国の国王・・・いや、魔王です。以後お見知り置きを」


「こちらこそ初めまして。私はガンゼルと申します。騎士団団長を務めさせてもらっている」


「それで私になんの用で?」


「貴国と話し合いがしたい」


 男は真っ直ぐに言ってきた。どうやらこの男と駆け引きは無さそうだ、と心の中で思った。


「フッ、良いでしょう。私も無駄な争いは好まないんでね。それでどこで行いますか?私としては貴国の領地を不法占拠した形となっている。そのためどこか決めてもらいたいのだが」


「そうですか。それなら我が国の王城で行いたい」


 やはりそう来たか。コイツに駆け引きはいらないようだ。こういうバカ正直なやつほど損をする。そう思いながらガンゼルと話を進めた。そして━━・・・


「それでは話し合いをいつ行うか決めたい。3日後というのはどうでしょう?」


「そうですね・・・出来れば今日行いたいのですが」


「今日だと間に合いませんね。では、3日後に・・・」


「いや、私の嫁が転移魔法に似た魔法を使いまして。それだと直ぐに行くことができます」


「いえしかし、それだと負担が・・・」


「問題はありませんよ。この数の兵だと直ぐに連れていけます・・・」


「ぐ・・・そ、それなら致し方ない・・・」


 ガンゼルは嫌々ながらと言った顔で承諾した。そして陽炎はテム達を呼んだ。


「・・・なんと・・・奥さんはドリューアスだったのか・・・」


「では行きましょう。ディリー」


「分かってるわ。はぁっ!」


 地面からとてつもなく大きな大樹が生えてきた。そして陽炎は中に入らせた。行く際にβに指で何かのサインを送った。それに気がついたのかβは頭を下げると即刻仕事に移った。


 ━━場所は変わってサモナール王国王城にて・・・陽炎はテム達を連れ王城の中へと来ていた。男は何か説明をしながら進んでいる。そして、でかい扉の前に来た。男が扉を開けると部屋の中にはサモナール王国国王がいた。


「ここが会談室だ。王の前だからな。言葉を慎めよ」


 男はそう言った。それに対して陽炎は微笑んで言った。


「お言葉を返すようだが、貴様が話している男も国王だぞ」


「それが?」


「フッ、自国に入れば俺より位が高いと?敬語を使わなくてもいいと?図に乗るな。・・・だが、まぁいい。いずれお前らは俺に平伏する。それまで勝った気でいるんだな」


 陽炎は小さくそう呟くと部屋の中に入って言った。それから席につき会議は始まった。何事もなく進んでいると思われる会議は国王の一言で流れが変わった。


「では、これからこの二国間でどう付き合うかなのだが・・・貴国らは我が領地を不法占拠しておるが、そこを先ず返して欲しい。話はそれからだ」


 なんとも図々しい言い方だ。だが、別にそこはどうでもいい。問題はそこじゃない。これは例え陽炎ではなくてもこの回答をするだろう。


「嫌だね。返して欲しけりゃ奪い取ってみろ」


 陽炎は堂々と言った。濁したり、遠巻きとかじゃなく真っ直ぐ、堂々と言った。すると、会議室に7つの殺気が現れた。


「もう一度言う。貴様の国は私のものだ。返せ」


「・・・」


「返せ!」


 その場の空気が揺れた。陽炎は少し目を細めると国王から目を逸らし、テム達を見た。


「そう怖がるなよ。一応代表なんだからピシャッとしてろ」


『だってぇ〜』


「だってもクソもないよ。ご褒美やるから」


『うん♡』


「それで、話を戻すけど、返せって言われても俺らは武力で勝ち取った。もう俺らのものなんだよ。そこら辺きちんと理解出来てるの?」


 さらに殺気が増えた。今陽炎に向けた殺気は19個である。・・・多いな・・・


「ま、俺は返す気なんてないよ。今日はここらで帰らせてもらう。ディリー、よろしく」


 そして陽炎達は動きを止めた。なぜならサモナール王国の兵が既に包囲していたからだ。更に国王の側近達が陽炎達に対して武器を構えている。


「1つ教えてやろう。俺が敵国に来るのに武器のひとつも持ってこないと思うか?」


「どういうことだ?」


「そもそも今日話し合いの事を言われて今日する奴がいると思うか?それに、敵国でやるって言われて何も言わずに了承するか?」


「何を・・・」


「俺は国王だ。その国王が敵国で襲われたとなると戦争だよな。そして俺は領地を伸ばしたい。でも、こちらから攻撃する訳には行かないだろ。何処に敵がいるかも分からないからな。だが、今は違う。お前らは俺を暗殺しようと兵を集めた。だから外側はがら空きだ」


「まさか・・・」


「俺はお前らと話し合いをすることが目的では無い。俺はお前らの国をもらう。それが目的だ」


 そう言って陽炎はどこからか剣を取り出した。久しぶりの収納魔法だ。


「殺せ!この男を殺せ!」


 サモナールの兵が声を上げた。そして、側近達が陽炎に刃を向けて走ってきた。


「”風流(ふうりゅう)破心風(はしんふう)”」


 一瞬だった。たった一撃で全員倒された。唯一国王だけが立っていた。やはり国王も伊達じゃないみたいだな。


「さて、終わりだね・・・テム!おしっこは拭いておけよ!」


 テムは股を抑え顔を真っ赤にした。陽炎は国王に刃を突きつけた。


「これでこの国は俺のものだ」


「くそぅ、貴様のようなやつに・・・」


「喋るな。言い残すことは言わせない。めんどくさいからな」


 そして首を落とした。血を払うと鞘に収め首を持ち上げた。ベランダに出るとγからコピーした言霊魔法で拡声し首を見せながら言った。


「サモナール王国の民に告げる!貴国らの王は私が殺した!よって今からこの国は私のものとなる!したがって、今からサモナール王国は大魔界帝国となり皆大魔界帝国民となってもらう!」


 国中に動揺が広がった。そして陽炎は魔力を大量に使用した。すると、いつもと違って陽炎はふらつきだした。おかしい。普段はこんなことで魔力がきれたりはしないはずなのに。陽炎はふらつく足で何とかたって平然を装い始めた。


「・・・さてと、帰りますか」


「いや・・・帰りますかじゃないよ!」


「私達何も聞いてないよ!」


「言ってないからな。それに、今回は運が良かった」


「運が良かったって・・・どうせ最初から考えてたんでしょ」


「いや、こんなに人が手に入るとは思ってなかったぞ。だが、本番はこれからだ」


「え?」


「お前らはここにいろ。敵が来たら殺すな。耐えろ」


「え!?ちょっ、待ってよ」


 そして陽炎は転移魔法でいなくなった。


「もうめちゃくちゃだよ・・・」


 テムは小さく呟いた。

読んでいただきありがとうございます。

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