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第36戒 魔王誕生

 その場は白い光で埋め尽くされた。その光はどんどん勢いをましていく。しばらくすると光は収まり始めてきた。


「かげくん!」


 ルーシャが近寄ってみるとそこには、右腕に剣が刺さって血を流す陽炎と体を右肩から左脇腹にかけて両断されたガルフがいた。


「かげく・・・」


 ルーシャが近くによろうとすると後ろからディリーに止められた。


「・・・陽炎・・・」


「ガルフ・・・悪いな。お前のために涙は取っておいたんだが、使っちまってもう出てこねぇよ」


「そう・・・か・・・」


 陽炎はガルフの近くによった。ガルフは陽炎の力でどんどん体が消滅していっている。その時ガルフが、陽炎に尋ねた。


「陽炎・・・なんで・・・」


「フッ、いいよそういうベタなやつは」


「それ・・・でも・・・教えて・・・く・・・れ」


「良いよ。俺のあの攻撃はな、自分の陽エネルギーと相手の陰エネルギーを使うんだ。陽エネルギー正の感情。陰エネルギーは負の感情だ」


 ガルフは不思議そうに見ている。陽炎はいつもの笑顔に戻ると更に続けた。


「相手の陰エネルギーを自分の陽エネルギーで消滅させる。それがこの技だったんだ」


「っ!?・・・それじゃあ・・・俺の・・・ことは・・・」


「ずっと殺そうなんて思ってなかったよ。テムが殺された時、ルーシャが、切られた時、どの時も一瞬殺してやるって思ったけどやっぱりガルフは仲間だと思ったら殺そうなんて思えなくてな」


「お前・・・」


「笑うなら笑えよ」


「・・・笑えねぇよ・・・」


 そう言ってガルフは涙を流した。


「泣いてんのか?・・・俺はもう泣けねぇな。テムの時に散々流したから」


「お前・・・気づい・・・て・・・ねぇの・・・か?」


「え?」


 気づけば陽炎も泣いていた。それも血の涙を流して。


「あれ?ちょっと古代眼(エンシェント・アイ)を使いすぎたかもな・・・」


 2人は向き合った。ガルフの体はもうない。首から下は既に消えている。


「・・・そろそろお別れだな」


「そうだ・・・な。あの・・・焔・・・は?」


「あの技はとっくに消えてるよ。ガルフと戦うことに魔力を使ったからね」


「・・・そうか・・・悪かったな・・・」


「別に良いよ。お前だってお前の正義があったんだろ」


「そう・・・言って・・・貰えると・・・嬉しい・・・よ」


「そうか・・・」


「あえて・・・嬉し・・・かった・・・」


 最後にそう言ってガルフは光の粒子となり消えてしまった。


「俺もだよ。ありがとう」


 陽炎は空に向かって静かにそう呟いた。


「陽炎くん・・・」


「陽炎様、準備が整いました」


 その時突然陽炎の元に女の子が話しかけてきた。ギルシアの側近のテムの蘇生を頼んだやつだ。


「あぁお前か。女冒険者1人だったな。待ってろ、適当なやつ1人見繕ってやる」


 陽炎は冒険者達を見渡した。皆焔でやられて火傷をしているみたいだ。


(あいつでいいか。会った時から俺に反抗的だったからな)


「痛たた・・・もう、絶対に許さないんだか・・・ら・・・」


 陽炎は女の目の前に立った。


「ちょっと、何するのよ!?」


 陽炎は黙って女冒険者をつかまえみんなの元に戻った。


「やだ!何するの!?こんなことして、私のお父さんが黙ってないわよ!」


「お前の父親なんてどうでもいいんだよ」


 そう言って口に布を詰め塞いだ。そして、ギルシアの側近は詠唱を始めた。


「陽炎様、少しおはなれください。εの使う技は近くにいると危険ですので」


 そう言ってギルシアはεと呼んだ女の子から距離を取らせた。


(しかし、蘇生すると言ってもどうやるんだ?魂を中に戻すと言うならもう既にここにはいないはずだ・・・)


「それではいきます。”リスタート・ライフ”」


 そう唱えるとテムの体と陽炎が捕まえた女冒険者の体が光出した。そして、2人の体に謎の文字がまとわりつき女冒険者の口から魂のようなものが飛び出してきた。すると女冒険者の体は動かなくなった。


「っ!?これは・・・」


 そして、空から魂が降ってきた。その魂は女冒険者と入れ替わるように降りてきた。女冒険者の魂は空へと上がって行った。


「はぁ!・・・これで最後です!」


 そして、魂はテムの体の中に入っていった。そして、テムにまとわりついていた文字も消えていった。


「・・・どうなったんだ!?」


「成功しました。もうすぐ目を覚まします」


「そうか・・・それは良かった。・・・それにしても凄い技だな。スピリチュアルトレード・・・魂の交換か。人1人の魂を呼び寄せるために人1人の魂を使う。テムが女だったから女冒険者だったのか」


 するとεは驚いたように目を見開かせた。


「はい、そうです。よくそこまでお分かりに・・・」


「いや、見たらわかるさ。それにこの魔法はリザレクションとは違い蘇生というより新しい生活をやり直すと言ったところだな」


 それを言うと更に驚いてこちらを見てきた。何故こんなにわかるのか?たった1回見ただけで、それも説明なんてしてないのに。そして気づいた。陽炎の目が碧いことに・・・


「ねぇ皆!」


 その時ディリーの声が聞こえた。そっちを見るとテムが起きていた。


「テム!」


 陽炎はそう叫ぶと思わず飛びついて抱きしめてしまった。


「え?ちょっと、急にどうしたの?」


「覚えてないのか・・・あるあるだな」


「いや、覚えてるよ」


「え?」


「後ろからガルフ君に切られたことは覚えているよ・・・でもその後があんまり・・・あ!そうだ、ガルフ君は!?」


「・・・」


「・・・そう・・・殺したのね・・・」


 その場の空気は重たくなった。その時陽炎が静かにテムに聞いた。


「・・・テム・・・ごめんな。俺が油断したからあんなことになったし、それに沢山傷つけて何人か殺した。・・・こんな俺の事を許してくれるか?」


 そう聞くとテムは少し陽炎を見つめていつになく真剣な顔でそっと言った。


「許さない」


 陽炎は少し驚いたがすぐに納得した。そして、暗い顔になり俯いた。しかし、まだテムの話は続いた。


「・・・なんて言うわけないじゃない。夫のわがままを聞くのも妻の役目だよ」


 テムは笑顔になるとそう言った。


「フフフ、ディリーとルーシャと被ってるよ」


 陽炎はそう小さく呟いた。テムは続いて言った。


「・・・だからさ、もう少しわがまま言っても良いんだよ」


 それは今の陽炎にとって自分のやりたかったことを決心させる言葉で、最高の言葉だった。


「そうか・・・じゃあ、あと少し聞いてもらうよ」


 そういうと、ギルドの少し前に立った。ステイトの街は扇形となっておりこのギルドはその先端にある。要するに最高の場所にあるのだ。陽炎は地面に手を着くと魔法を発動させた。


「”せいせ・・・いや、生成(ジェネレイション)””加工(プロセッシング)”」


 陽炎は地面を加工した。本来ならこれだけの広範囲では使えない。しかし、古代眼(エンシェント・アイ)を使うことで使うことができるようになった。すると、地面が揺らぎ黒い何かがでてきた。それはギルドを飲み込むとどんどん形を変え巨大な黒い禍々しいオーラを帯びた城へと変化した。


「フッ、上出来だ」


 そう言うと陽炎は壁を蹴りバルコニーまで飛んだ。


「よし。γ!言霊魔法で俺の声をこの街全体に拡声しろ!」


「分かりました!”ラウドボイス”」


「あ〜あ〜、うん、よし。・・・聞け!ステイトの街の諸君!たった今この街は私の手に落ちた!よってこの街は私のものとなった!そこで私は今この時、この街から大魔界帝国の建国、そして魔王・久遠陽炎の誕生を宣言する!」


 陽炎は不敵な笑みを浮かべると街中からざわめきが聞こえてきた。恐怖、怒り、悲しみ、etc・・・色んな感情が混ざりあっている。そして、陽炎は更に続けた。


「しかし、諸君らも突然の事で驚いているだろう。そのため、1日の猶予をくれてやろう。我が帝国から逃げるもよし、私を殺しにくるもよし、何もせずいつも通り過ごすもよし・・・だが注意してもらいたい。もし、我が帝国から逃げ、他の国民となるなら攻めた場合容赦なく潰させてもらう!それは私を殺しに来た時も同じだ。慈悲は無い!」


 街中から声が無くなった。全員黙って陽炎を見つめた。絶望する者、共感するもの、何も思わないもの・・・そんな人たちを見つめながら陽炎は下に降りた。


「かーくん!」


「終わったよ」


「陽炎くん・・・これで終わったんだね」


「遂に魔王になる時が来たんだ」


「フッ、心配するな。それに、まだ終わりじゃねぇよ。漫画やアニメの最終回みたいな顔してるけどな」


「え?そうなの?」


 テムが素っ頓狂な声を上げた。すると陽炎達3人はつい笑ってしまった。


「あの、陽炎様・・・」


「わかってるよ。お前らも初めからこの状況を望んでたんだろ」


「はい・・・その通りでございます・・・」


 陽炎はギルシアを一瞥すると魔王城の扉を開けた。陽炎は長いからと古代樹を生やし一瞬で魔王の間のような部屋に来た。ここは一直線となり、奥には階段がある。その上に豪華な椅子が置かれている。その部屋を陽炎は話しながら進む。


「さぁ、ネクストステージへと行く時が来た。俺は魔王となりこの世界で最恐の存在となる」


 陽炎は更に足を進める。テム達はくすくす笑っている。ギルシア達は静かについて行く。そして椅子の前に来た。陽炎は椅子に座ると足を組み頬杖をついた。傍から見れば、魔王や王様のような姿だろう。そして、陽炎は話を続けた。


「だが、やることは変わらない。皆で幸せな生活を送る。そのために障害となる存在は消す」


「クスクス・・・それでどうするの?」


「フフフ・・・わかってるんだろ。俺達・・・大魔界帝国はこの世界で最も規模のでかい国となり・・・この世界を征服する!」


 そう言って陽炎は不敵に笑った。そして、この日、この時、この場所から魔王・久遠陽炎は誕生し、最恐の存在へとなった。

読んでいただきありがとうございます。

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