第34戒 突然襲い来る絶望
陽炎は突然の殺気に振り返った。いつもなら敵だと認定して即攻撃出来るよう構えるのだが、今回は違った。なぜなら、殺気を放っている人がステイトの町の人々だったから・・・
「よぉ、久しぶりだなガルフ。元気にしてたか?」
「あぁ、元気にしてたぞ。まさかお前達が神器を取りに行っていたとはな」
ガルフは陽炎達を睨みつけるといつもより低いトーンで喋りかけてきた。陽炎はガルフ達に気づかれないように小声でルーシャにソルト達を助けるように頼んだ。
「待て!行かせん!”ファイアーショット”」
「”ブリザードウォール”」
ガルフの放った炎の球は陽炎の作り出した氷の壁に阻まれ届くことは無かった。
「なぜ攻撃する?仲間だろ」
「・・・仲間だと?・・・お前は仲間じゃない!この世界の理から外れた異物だ!お前は初めから仲間でも何でもなかったんだよ!」
ガルフはそう言ってのけた。やっぱりどこの世界の人も同じようだ。1人だけ違うことや気に入らないことをすればすぐに全員で潰そうとする。強欲だ・・・
「フッ、もしかしたら俺は人から嫌われる能力者なのかもしれないな」
「何を言っている・・・」
「”拘束”」
「っ!?」
ガルフは何もすることなく拘束された。陽炎はガルフを拘束すると、何事もないかのようにソルト達の元に向かった。しかし、陽炎はソルト達の元に行く前に足を止めた。なんと拘束が解けたのだ。
「何!?」
よく見るとそこには街の冒険者の9割が立っていた。どうやら皆陽炎のことをよく思ってないらしい。
「陽炎!大人しく投降しろ!お前達にもう勝ち目は無い!」
「・・・」
陽炎は黙ったまま冒険者の方を見つめた。しばらくその状態が続いたが、ルーシャがソルト達を拘束していた紐を解いて戻ってきた。
「かげくん終わったよ」
「よくやった。・・・こっちも早く終わらすとするよ」
「あ、ちょっと待って。これ、落としてたから拾ってきたよ」
それはマントと仮面だった。そう言えばつけようとして付けれなかったのを思い出した。
「あぁ、悪い悪い。・・・て壊れてんじゃねぇか!」
その仮面は顔の左下の部分がごっそり壊れていたのだ。
「ごめんね・・・」
「いや、悪くないな。ここをこうすればいいだろ」
そう言って陽炎は加工を繰り返し発動し綺麗に形を整えた。そして、ガルフの向き合った。どうやら皆待っていてくれたらしい。陽炎はマントを羽織り仮面をつけた。すると、黒いオーラが爆発的に放たれた。
「さて、準備は出来た。またせたな、皆」
「いいや、こっちも準備が出来たんでね・・・お互い様さ!さぁ、殺れ!」
『はい!”ウォータードーム”』
「次!」
『はい!”アシッドポイズン””ライジング””バンドチェンジ”』
冒険者達は次々に魔法を唱え陽炎を不思議なドームの中に閉じ込めてしまった。しかし咄嗟にテム達を全員飛ばしたおかげで中に閉じ込められたのは陽炎ただ1人だった。
「これは・・・」
陽炎は地面が揺れるのを感じた。それもそのはず。よく見ると溶けているのだ。完全に溶け切れるまで残り3分と言ったところだろう。
「かーくん!大丈夫!?今すぐ助けるよ!」
そう言ってテムが飛び込もうとした。しかし、ディリーとルーシャに止められた。
「ダメよ!あれは毒のドームでもあるの。入ったりなんてしたら溶けて死ぬわよ!」
「だって・・・だってかーくんが・・・」
「そこで待ってろ!」
「っ!?」
ドームの中から陽炎の声が聞こえた。そんな余裕もないはずなのに、まるで余裕しかないかのようにいつもの声で言った。
「俺がこんなことでやられるとでも思ってるのか?フフフ・・・待ってろ。すぐにこっちに行ってやる」
陽炎は強気だ。しかし、それはガルフ達も負けてはいない。陽炎を確実に殺すことができると確信して不敵な笑みを浮かべている。・・・言わせてもらうが、こんなもので陽炎を止めることは出来ない。
「っ!?」
その場の冒険者全員の手が止まった。なぜなら陽炎の目に模様が浮かんでいたからだ。
「”古代眼”」
陽炎は目を碧く光らせると紋様が浮かび上がってきた。すると、陽炎の動きが少しずつ早くなっていく。陽炎は動きを早くすると背中の剣に手をかけた。
「”水流・水魔十戒”」
陽炎は毒の水のドームを切り裂いた。一部分が壊れたドームは形を維持することが出来ず霧散した。
「っ!?」
皆驚きで声も出ない。陽炎はガルフに向けて足を進めた。
「言っただろ・・・すぐにそっちに行ってやるって」
そして、更に足を進めた。どんどん距離は近づいていく。しかし、冒険者達は皆後ろに逃げる。
「おいおい逃げるなよ”ブリザードウォール”」
ビキビキッ!という音と共に冒険者達は皆氷の壁に閉じ込められた。氷の壁に閉じ込められた冒険者達は天を仰いで絶望するもの、出してくれと泣き叫ぶ者、まだ陽炎と戦おうと剣を振るう者がいた。
「ま、冒険者は大切にしないとな・・・」
そうつぶやくと陽炎は皆の前に立った。
「冒険者諸君!君達にチャンスをやろう!女冒険者は皆俺の奴隷となって俺の元で働いてもらう!男冒険者は普段通りに依頼を受けてくれ!それが嫌なら他国にでも逃げろ!その時はその国ごと滅ぼしてやるからな!・・・ククク、楽しくなってきたぜ・・・」
そして冒険者達は絶望した。全員ここから逃げたい気持ちでいっぱいだろう。しかし、逃げれば殺される。男冒険者達は剣を抜いて戦う姿勢を見せた。女冒険者達はその場にへたりこんで泣き始めた。
「地獄絵図だな・・・まぁいい、まずはアイツらの無事を確認しないとな」
そして陽炎はテム達の元に戻った。陽炎が戻ると、ギルシア達は一斉に膝まづいた。
「さて、この街の人はどうするか・・・優しくもてなすか」
「うん。それがいいよ」
「フッ、余程のことがない限り殺したりはしないさ」
するとそこでギルシアが話しかけてきた。
「あの・・・陽炎様・・・」
「なんだ?用があるならさっさと言え」
「はい・・・この街を支配したのはいいですが、住む場所はどうするのですか?」
「住む場所?作ればいいだろ。いちいちしょうもないことを聞くな」
「はい・・・すみません・・・」
陽炎はギルドの中へと足を進め中に入っていった。
「ヴィオラ、いるか?」
いるはずもない。なんせ皆外に出て陽炎の敵となっているのだから。それでも、もし居たなら自分の仲間になって欲しかった。テムやディリー、ルーシャは言わなくても裏切ったりなどはしない。ソルト達も同じだ。そして、ヴィオラも同じ。陽炎はそう信じていた。それゆえ名前を呼んだのだ。
「・・・」
帰ってきたのは沈黙だ。
「・・・やっぱりいないか・・・」
その時奥の方から物音が聞こえた。慌てて行ってみると紐のようなものが棚から出ている。陽炎はそっと棚を開けた。
「・・・何でこんなところにいるんだよ・・・」
なんとそこにはヴィオラがいた、縛られている。陽炎は呆れてため息を着いてしまった。
「ん〜!んんん〜!むんむむん!む〜ん!」
「いやわかんねぇよ」
そう言って紐を切った。
「はぁはぁ、ありがとう」
「何があったんだ?」
「はぁはぁ・・・それが、ガルフさんが私を縛って・・・」
「何!?ガルフが・・・まさかそこまでやるとは・・・っ!?」
その時外の方で大きな音がなった。陽炎は慌ててギルドの外に出た。すると、そこには氷の壁を壊してテム達に攻撃を仕掛ける冒険者達がいた。
「いい加減にしろよ。”雷流・稲光”」
陽炎は冒険者達の前に割り込んだ。
「お前ら死にたくないなら動かないことだな!”立方体式封印術解放””フリーズショット”」
キューブが別れ氷の球となり冒険者達の足元に落ちた。足元に落ちた氷は冒険者達の足元を、凍りつかせた。
「これで・・・」
その時、隣でドスッ!という鈍い音がした。それと同時に陽炎の右腕に生暖かい物が飛びついてきたのを感じた。
「え?・・・」
陽炎は恐る恐る隣を見た。そこには胸の当たりを剣で刺されたテムが血を吹き出して倒れていた・・・。
「テム!」
陽炎はすぐさまテムの胸の剣を抜き雫を落とした。しかし、傷が深いのか傷が治らない。テムの呼吸はどんどん浅くなっていく。
「なんでだ・・・なんでだよ!」
「それは、その剣に回復を阻害する効果があるからだ」
後ろからそんな声が聞こえた。そうだ、この剣も見たことがあるじゃないか。いつもつけていてよく話した奴・・・
「ガルフ・・・やってくれたな」
そう、テムを刺した人・・・それはガルフだった。
「死ねガルフ。お前の顔は金輪際見たくもない。”キュー・・・”」
「やめろ」
横から陽炎の手は止められた。
「誰・・・だ・・・」
その人は陽炎が前に殺した男だった。
「なぜお前が生きている!?確実に殺したはずだ!それに、なぜ止める!?」
「1度に聞くな、1個ずつ教えてやる。・・・ギルシアの側近の1人に蘇生魔法が使えるやつがいてな、それで復活した」
男が言ったことは今の陽炎にとって最高の言葉だった。しかし・・・
「ならなぜあいつを殺すのを止める?」
「あいつは魔法を反射する魔法を掛けている。だからだ」
「なるほどな・・・」
陽炎は話を聞いて謎が解けたかのようにうなづいた。しかし、テムの方に目をやると自然と涙が出てきた。テムの周りでは皆がないている。冒険者達は男は歓喜の声をあげている。しかし、女は仲が良かったのか、泣いている人も多い。陽炎はテムを見つめると涙を流しながら近くに座り込んだ。
・・・・・・・・・・・・そして、テムの呼吸は止まり命を落とした。
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