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92……木の家

マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。

飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。

リトの幼馴染のシエル、村での初めての友だちのノエル。

学校のみんなに、優しい村長さん。たくさんの人と触れあって。

そうして、初めての夏がやってきて――

      ♪


 保育士の仕事をするようになってから、シエルはふと思うようになったことがある。

(仕事だから子供たちに触れ合っているのだろうか。仕事だからと一線を引き、本心で向き合えていないのではないか)

 それをシエルは今も強く感じていた。

 理由は明るいはしゃぎ声の中心にいる少女だ。自分より年下に見える彼女は、朝からずっと子供たちに囲まれている。一日だけのお仕事体験で、挨拶した途端に子供たちにくっつかれた。

「だ、だからしっぽと羽はだめなのっ。めっ!」

 赤い癖っ毛をいつも以上に跳ねさせる彼女は、実は人ではない。背中には深緑の一対の羽、そしてお尻からも羽と同じ色のしっぽが伸びている。それは竜の証で。

 羽としっぽがあるのだから、子供たちの興味を惹かないわけがない。

(でも――たぶん、ファナがあんなに好かれているのはそれだけじゃなくて)


      ♪♪


「だ、だからしっぽと羽はだめなのっ。めっ!」

 子供たちがひっきりなしに触ってくる。周り中が子供で、だから誰が触ったかなんて直接言えない。いつもなら羽やしっぽをばたばたさせてだめだと示すけれど、今日はできない。

 万が一にでもケガをさせたらいけないからだ。

「も、もう怒ったの。ファナを怒らせたら怖いんだからねっ!」

 だからこうやって声を上げるしかない。

 大きな声に子供たちが注目した一瞬、ファナはその輪から抜け出した。

「ああっ、おねーちゃんあんなとこに!」「はええ」「とんだぞ」「とんでなかったし」

 わいわいがやがや。喧騒が少し遠くなって、心が落ち着く。

 びしっと子供たちを指差し、

「聞いたことあるよね? 竜の大好物はニンゲンだって」

「っ!?」

「ファナ、シエルお姉ちゃんに言われてるの。わるい子供は食べちゃってもいいって。だめって言っても言うことを聞かないわるい子供はだれだったかな? さーん、にーい……」

 一人が走り出せば、あとはなだれ式だった。子供たちはみんなちりぢりに駆けていく。

「いーち!」

 あっという間に鬼――いや竜ごっこに変わる。

「えへへ、がおーっ、なの!」


      ♪♪♪


 もちろん、子供たちだって追いかけられっぱなしのはずもなかった。

 彼ら彼女らの言い分は、「竜は竜の見た目してるから竜なんだ」というもの。いくら羽としっぽを持っていようと、お姉ちゃんはお姉ちゃんで、遊んでくれるお姉ちゃんと見なされる。

 そして、「触ったらだめ」というのは、「触れるものなら触ってみなさい」と解釈される。

 すなわち、

「ふっふっふ、追い詰めちゃったの♪」

 両手を顔の横に構え、「がおー」なんてやってみせるファナ。が、

「すきありっ」

「ふにゅああっ」

 ぎゅっとしっぽを掴まれ、跳び上がる。掴んだ子供は一目散に逃げ出している。追い詰められていた女の子も同じく。逃げるときに、ぺしっとしっぽを触っていくところがたくましい。

 どっちが追いかけているのかだんだんわからなくなったそれは、お昼寝の時間まで続いた。


      ♪♪♪♪


 子供たちの昼寝は運動会のようだ。特に夏は涼しいところを求めて転がり回る。けれど、今日だけは例外で。子供たちは動く体力もないとばかりに深く眠っている。

 そんな子供たちの中心には、やはりファナがいた。身体を丸めてぐっすり眠るファナは、本当にさっきまでのお姉さんだったのか、周囲の子供とかわらないあどけない寝顔。

「結局、考えたら負けってことなのかしらね。若いっていいなあ」

「どうしたのよシエルってば。悩み? 悩みならこのハニカお姉さんに話してみなさいよ」

 保育士の先輩ハニカさん。そこまで言うならと話してみると、

「ほんと、子供ってすごいわよね。お姉さんもう歳だわ。あんたが頑張んなさいよ、シエル」

 くしゃりと適当に髪をなでられる。でも、ハニカさんの言いたいことが伝わった気がした。

 ――あんたが一番若い保育士なんだから、やりたいようにやればいいじゃないの。

 保育士だからお姉さんらしくしないと、そう思ってやってきたけれど。子供たちからすれば自分は見た目だけでお姉さんだ。だから、自分が背伸びしたところでなにも変わらない。

 そんな単純なことに気づかずにいて。でも、一人の少女によって気づけた。

 小さな少女は、「リト……♪」と、大好きな家族の名前を呼んで口元をほころばせた。






最後までお読みいただきありがとうございます.


本作は,まったり日常モノです.

気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.


キャンプやらイベントやらで小さい子供の相手をするときがありますが、

どうすればいいんだっけと思うときがあります。

歳のせいではっちゃけるのが恥ずかしくなったのもありますし、

子供の思考からずれてしまったのもあります。


難しいよなあ、と。

自分が楽しむことで子供も楽しめる、

子供と遊ぶのではなくて子供に遊んでもらう。

よく言われることですがとても難しい。


ファナならごく自然にやってのけるんだろう、そんな話でした。


それでは次回,

『93……お、お人形じゃないのっ』

可愛いって言っとけばどんな服でも着せていいと思ってたら大間違いなのっ!(でもリトに可愛いって言われると嬉しいの)――というお話です.

よろしくお願いします.


今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.

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