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93……お人形じゃないのっ

マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。

飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。

リトの幼馴染のシエル、村での初めての友だちのノエル。

学校のみんなに、優しい村長さん。たくさんの人と触れあって。

そうして、初めての夏がやってきて――

      ♪


 魔女の屋敷――あらため、服屋〝トリノハネ〟にて。

「うう……いろんな服が着れるのは楽しいけど、何度もお着替えするの大変なの……」

 午後二回目の着替えを終え、試着室から出てきたのは十歳ほどの小柄な少女だった。

 彼女――ファナは、ワンピースらしき服に身を包んでいた。

 大きな襟がついたセーラー服タイプの首回り、袖がなく肌がまるまる露出する肩元、腋から脇腹まで大胆に入ったスリット、走ると下着が見えそうな短いスカート。上半身は白く、スカートの裾に向かって赤いグラデーションになっている。イメージは花びららしい。

 そして一番の特徴は胸元。大きな襟のすぐ下に、ネコの顔らしき形の穴が空いている。

「えへへ、どうリト? 似合ってる?」

 小首を傾げるファナに、保護者代わりの少年リトはわずかに視線をそらしながら、

「似合ってる。でも、あんまりはしゃぐと見えるから気をつけろよ」

「えへへ、似合ってるの♪」

 背中の一対の羽と、お尻のしっぽ(スカートの下から出ている)をぱたぱたさせる。赤い癖っ毛に、深緑色の羽としっぽ。それらはファナが竜であることの証なのだが、花びらのワンピースをまとっていると、なんだか妖精のように見えた。

「だからしっぽをぱたぱたするとスカートが揺れるから。おとなしくしなさい」

「ふえ? あ、ぱんつ? ……でもリトしかいないし、いいかなって?」

「よくない」

 即答する。そんなファナとリトのやりとりを見ていた店主の女性はくすりと笑い、

「なんでだ。嬉しいだろう? お風呂と違って、ちらちらするとこうぐっとくるだろう」

 やめてくれ。


      ♪♪


 店主であるマジョ――あらためコトリさんは、二十なんとか歳らしい。種族は人間、職業は服飾士(?)、独身だ。

 似合う服を作るためなら赤字だっていい――なんて発言からわかる通りの職人さん。なのだが、年端もいかない幼女からお年頃な少女の服に対するこだわりは病的でさえある。

『あたしが作った服を女の子が着ているのを見ると鼻血が出そうだ』

 趣味は人それぞれだからいいとして。

『考えても見ろ。自分がこの子に着てほしいと妄想した服を実際に着てくれるんだぞ?』

 確かにそれは、男子なら夢見る光景ではないだろうか。

 これらの会話から、まるでコトリさんが、着る人すなわち買う人を想定して作っているように思えるが、実際はそれに近い。

 着ると抜群に似合うこと間違いなしの服をお勧めする実績から、ほとんどの人がコトリさんに助言を求める。そしてコトリさんはさりげなく予定していた服を勧める。マジョの手管だ。

「……ん? 待てよ?」

 ふと気づく。ファナが今日、これまでに着た服は四着だ。つまり、ファナのための服で。

「? リト、どうしたの? 考えごと? お腹いたいの?」

「ああ、気にしないでくれ」

 頭が痛いだけだ。


      ♪♪♪


「いらっしゃいませなの♪ トリノハネにようこそ♪」

「すばらしい、まるで妖精のようだ。そうは思わないか?」

「あいつトマリギが混じってますね」

「喫茶店だろう。妖精喫茶……ああ、ここは天国か!? あたしも幼精王(ごしゅじんさま)になりたい!」

 学校の授業の一環であるお仕事体験のはずだが、どうにもしまらない。けれど、そもそもが楽しみながら勉強する趣旨だ。間近に卒業と就職を控えている最高学年でなければなおのこと。

「えっと、こっちの方が似合ってると思う!」

 就学に満たない子供に、ファナが服をお勧めしている。

「いかなくていいんですか?」

「ふふ、ファナちゃんは良い目をしてるよ。今日売れた分は全部、予定通りさ」


      ♪♪♪♪


「ほら、お土産だ。今日一日、頑張ってくれてありがとう。おいし――楽しかったよ」

 差し出された紙袋。ちょっと待てよと開けてみれば、「しましましてるの」パンツだった。

「うん。よし」

 平常心でそれを横に置き、中身を確かめる。それらはファナが試着した服だった。

「お代はいらないよ。本当ならもっと早くに渡す予定だったが、夏に合わせて、だな」

「でも……いいの?」

「あたりまえだ。君はこの村に来た。それは家族になるってことだ。家族への贈り物だよ」






最後までお読みいただきありがとうございます.


本作は,まったり日常モノです.

気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.


西洋風ファンタジーを書いていますが、

自分の一番好きな服は和服です。


純和服じゃなくて、

和服っぽいワンピースとか、振袖っぽい洋服とか、

和服モチーフの洋服が好きです。


今回は、単にファナを着せ替え人形にする話。

結局、1着しか書いていませんが。

……そのうち。


それでは次回,

『94……お客さんなのっ』

がっこのみんながお仕事してるの見てみたいの!――というお話です.

よろしくお願いします.


今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.

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