↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
87/150

81……マホウの箱

マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。

飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。

リトの幼馴染のシエル、村での初めての友だちのノエル。

学校のみんなに、優しい村長さん。たくさんの人と触れあって。

そうして、初めての夏がやってきて――

      ♪


 もしも学校に幽霊がいて、休日で誰もいない昼間の学舎を散歩するのが趣味だったなら。

 さぞや驚いたことだろう。教室からにぎやかな声がしていたのだった――――。


      ♪♪♪


 廊下からそっと覗けば、子供が五人集まっていた。一人だけ男の子で、他は女の子に見えた。

 長机を二つくっつけて、四人が向かい合い、男の子が短辺に座っている。なにをしているのか観察すると、どうやらお弁当を食べているらしい。

 休みの日に教室でお弁当なんて物好きだなぁという感想を抱く。それだけでお弁当への関心は消えた。幽霊なのだ、食に対する欲求はとうの昔に消滅してしまった。

 代わりに、その五人を観察することにした。

 まずは男の子。横顔しか見えないが間違えようがない。先生をやっているリトという少年だ。気をつけるべきは彼がマホウツカイだということ。気づかれるかもしれないからだ。

 彼の右手、背を向けている赤毛の少女はとても簡単。なぜなら背中に深緑色の羽があるから。夏になる前に村にやってきた竜の少女ファナ。

 それからファナの斜め右前、ここから一番遠くに座っているのが村一番の危険人物。十歳ちょっとに見える童顔の金髪少女。あんな見た目だが村長だ。そしてそれ以上に――――っ、一瞬だけど目が合った…………気がした。それだけなのにいやな汗が出る。

「レイミちゃん、どうかした?」

「うん? いいや、鳥がいたのでちょっと気になっただけじゃよ」

 ……見逃してくれるらしい。興味はあるけれど退却した方がよさそうだ。そうしよう。

 そう判断して、ワタシはお昼寝しようとお気に入りの毛布を目指した。


      ♪♪


「――鳥がいたのでちょっと気になっただけじゃよ。もう飛んで行ったが」

「うう、残念なの」

「ここにから揚げがあるぞ」

「わーい、ってべつに捕まえて食べようってわけじゃないし! リトのいじわるっ」

 ファナが頬を膨らませて抗議する。

「それじゃ、代わりにリトにから揚げ食べてもらおうかしら?」

 そう言ったのは、リトの左手側、レイミの手前に座った少女だ。空色ポニーテイルがトレードマークの彼女はリトの幼馴染シエル。サンドイッチ、から揚げ、豆ハンバーグにベーコン巻き、トマトにブドウと色とりどり、お祭りの日の女の子の服みたいににぎやかなお弁当はほとんどがシエルの手作りだ。見る人食べる人を自然と笑顔にするそれは、まるでマホウで。

「……うん、うまい」

「不合格じゃな」

 レイミが笑う。一見楽しげなお昼どきで、実際楽しいお昼だが、実は『お昼ご飯の授業』でもあった。食べたものに対して感想を言うこと。先生役のレイミが採点し、不合格ならやり直し。しかもリトだけ、すべてのおかずに対して建設的な感想を述べることという義務が課せられている。陰謀だ――思ったときには遅く。

「リトってば手のかかる生徒さんなの♪」

「そう言うんならファナ先輩。お手本を示してくれよ」

「そう? じゃあこのハンバーグにする。…………んむ。っ――これとってもおいしいのっ」

 満面の、花のような笑顔が自然と浮かぶ。

「合格じゃな」

 確かにこれほど幸せそうな顔をされたら合格に違いない。けれどどこか釈然としなくて。


      ♪♪♪♪


「「「「ごちそうさまでした」」」」「お粗末さまでした。リトは落第ね」

 肩をすくめたシエルに対し、シエルの妹のノエルは首を傾げ、

「……お姉ちゃん、それ、またご飯作るから覚悟しときなさいよって宣言にも聞こえるよ?」

「そ、そんなんじゃっ。だいたい頻繁に作ったらリトの迷惑だし」

「いやそんなことないけど。という普通に大変だしかシエルの方が迷惑だろ……俺としては、おいしいし、栄養も取れるからかなり助かるんだけど」

「っ――――――ば、ばかりとっ」

「へ?」

「あはは、お姉ちゃん顔真っ赤」「トマトみたいなの。レイミちゃんの苦手な」「ふふ、トマトが苦手じゃが、甘酸っぱいおなごの赤らんだ頬は大好物じゃよ」

「ま、まあでも少なくともファナちゃんは栄養いるものね。また気が向いたら作るわよ」

 口ではそう言ったものの。やっぱりお弁当だと料理も限られるし、まだまだだし、せっかくなら作りたてを食べてもらいたいなあとお弁当箱を片づけながら思う。

 けれど想いのこもったお弁当は、幸せにするマホウを精一杯にかけていた。






最後までお読みいただきありがとうございます.


本作は,まったり日常モノです.

気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.


休日の学校でお弁当を食べるときの不思議な感じを書こうとして、

なぜか半分を新キャラ(?)に占拠されました。

でもなんだか、あの鳥(?)は重要人物になりそうな気がします。


味の宝石箱みたいな凝った感想を言い合う話にする予定でしたが、

ファナは表情で全部語れる子なので……。

笑顔が良ければいいんです。


それでは次回,

『82……レイミ先生の小さな学校』

お勉強は苦手だけどレイミちゃんだから頑張れるのっ――というお話です.

よろしくお願いします.


今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。