57……ファナがシエル
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
そうして2人の生活は始まりを告げる。
リトと過ごす内に、村の人とも仲良くなり、彼女の世界は少しずつ広がり始め――
♪
「図書室? こないだの?」
「そ、あそこだ。前、片づけが途中になっちゃってな」
一昨日、子供たちへの講義を終えたリトは、夕方まで図書室にこもってマホウの本を読みふけっていた。山積みの本を整理する仕事なのだが、つい寄り道をしてしまうのだった。
「あぅ、ファナが熱だしたから」
帰る時間になっても現れないリトを図書室まで迎えに行ったのだが、そこでファナは倒れてしまったのだった。慌てて帰ったため、出した本を直すこともできなかった。
「お腹すいてるだろうから、ちょこっとだけやったら帰ろうな」
「うんっ」
♪♪
図書室は古い匂いがする。それがほこりの匂いなのか、紙の匂いなのか、木の匂いなのか、リトにはわからない。けれど隣のファナは、
「お家と似た匂いがするね」
と。村はずれの一軒家、その二階にある書斎を指して言っているのだろう。両親が収集した本に、リトが村長さんから譲り受けた本など、棚からはみ出し積まれている。
定期的に掃除もするし、夏には換気もしているから、それで似た匂いと言ったのだろう。もしくは、ファナ自身には、どんな成分が違うのかまでわかっているのかもしれない。
「でもお日様の匂いはしないね」
残念そうに言う彼女は、実は人ではない。
十歳くらいの見た目、癖のある赤髪に健康的に焼けた肌。それだけ見れば、どこにでもいるような少女だが、彼女には少し違うところがある。
額のかすかなでっぱり、背中に開く一対の羽、そしてお尻のしっぽ。
それらは、彼女が竜の子供である証だった。
「ようし、ちゃっちゃと終わらせるか」
「うん! ファナもいっぱい働くの。それでリトにあーんってしてもらう!」
「ん? お風呂とかベッドじゃないんだな」
「えへへ、それはいつも通り。あーんは頑張ったご褒美なの」
甘えん坊の、そしてとても頑張り屋さんな同居人の頭に手を置いて、
「ったく。――頼むぞ、ファナ」
「うん!」
♪♪♪
「って持ちすぎ! 持ちすぎ!」
「ファナはリューだから力持ちなのっ。これくらい……こ、これくらい――」
「あぶっ……あのなあ。頑張ってくれるのはうれしいけど、怪我したら大変だろ」
「そしたらリトに看病してもらうの」
「俺はベッドで寝てるファナより、外で元気に笑ってるファナの方が好きなんだけどな」
「っ……ぁぅ、リトのいじわる…………」
「リト、手伝いに来たわよ」
「シエル。来てくれたのか」
「わたしもいるよっ、お兄ちゃん♪」
幼馴染の少女シエルに妹のノエルが加わって……。
♪♪♪♪
「ありがと、助かったよ」
困ったときはお互いさま、笑う姉妹にもう一度お礼を言って、それから同居人を呼ぶ。
「リトリトっ」
声はするが姿を見せないファナ。首を傾げ、三人で声がした方に向かうと、奥の棚で、ファナが、赤い古ぼけた表紙の本を手にしていた。
ファナが何気なくそれを開いた瞬間、本のページからまばゆい光がはじけた――ように見えた。「ファナちゃんっ――」とっさに駆け出したのは一番近くにいたシエルだった。
二人の姿が光で見えなくなるが、それも一瞬だけ。
「いたた」「……びっくりした」
通路に尻餅をついた二人が息を目を丸くした。ほっとしたリトが手を差し伸べれば、
「えへへ、ありがとリトっ」
立ち上がったシエルがリトの右腕に抱きついた。
「お、おいシエルっ!?」
「ふえ? どうしたのリト…………ってあれ? なんで――ファナがふたり……?」
ノエルの差し出した手を見て固まるファナを見て、シエルが首を傾げた。
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
マホウだしファンタジーだし,ダブルヒロインだし.
ということで,お約束.
はしゃぐシエル(の姿のファナ)と
開き直って甘えまくるファナ(の姿シエル)と.
そんな2人に振り回されるリトが次回見られる……のか?
なんかラブコメっぽい.
それでは次回,
『58……どっちがリトと』
「両方」「却下」――というお話です.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.




