56……想いと呪い
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
そうして2人の生活は始まりを告げる。
リトと過ごす内に、村の人とも仲良くなり、彼女の世界は少しずつ広がり始め――
♪
「リトっ」
夕暮れの校庭。そろそろ家に帰ろうかという時間になり、一人の少年が校舎から出てきた。
その彼に、十歳ほどの少女が駆け寄る。彼はリト。この村での少女の保護者だった。
ぽふ――と、少女が走った勢いで抱きつき、竜の子供の証であるしっぽと羽をはぱたぱたと跳ねさせた。
「えらくご機嫌だな。なんかあったのか?」
そう訊ねると、ファナは身体を離し、けれど両手を腰に当てたままの距離でじっと見上げて、
「ノロってやる! なのっ♪」
♪♪
「……」
「……。あ、あれ? 違った? ファナ間違ってる?」
とっさに反応を返せなかったリトに、しっぽと羽の動きが止まる。
「いや、うん。間違ってはないんだ。間違っては、な。うん。……その、なんだろ。ひとつ……いや、ふたつ訊いていいか?」
「……? うん」
ふぅと深呼吸で心を静め、ひざを折ってファナの目の高さに合わせる。
「その、呪いって言葉は誰が教えてくれたんだ?」
「みんなだよ?」
「ああ、みんな、ね」
校庭のすみでカバンを手に、こちらの様子を興味深く窺っている少女たち。
十一歳から十五歳の高学年クラスの子たちで、ファナのクラスメイトだ。
どういう流れで呪いの話になったのかはわからないが、ファナがなにかを勘違い、または特有の思考を経てこうなったことだけはわかった。
ファナの素直ゆえの考えがたまに予想できないことに、子供心を忘れてしまっているとつきつけられているみたいで、リトは複雑な気持ちを抱いてしまう。
「わかった。それからもうひとつ。呪いってなにか、わかってるか?」
「うん! ノロイはね、えっと――――なんだかすっごいの!」
♪♪♪
確かに呪いはすごいものだ。恐ろしいという意味で、すごい。
「どんなものって教えてもらったんだ?」
「想いなの。想いがいっぱいで、大変で、そしたらノロイになっちゃう」
「よし。とりあえずみんなにさよならするか。それから座ってちゃんと話をしよう」
「ふえ? リトの?」
「そうだ。特別授業だよ」
マホウツカイ見習い、そして学校の先生(こちらも二年目の新米)としての血が騒いだ。
みんなを見送ってから、ファナたちがお昼ご飯をよく食べている芝生に腰を下ろす。
ファナは勉強は好きじゃないと言うものの、リトの話は一生懸命に聞く。今も、リトに向けるまなざしは真剣そのものだった。
「想い、特に純粋なものは、ファナの言う通り力を持つんだ。マホウみたいなものだな。それは普通の人にもできてしまう。違いは、マホウツカイは、マホウを実際に使うために、なににどう働きかければいいかをちゃんと知っている、というところか」
「なににどう?」
「そうだな。……ああ、しっぽと一緒だ。ファナはしっぽをどうすれば動かせるか知ってるだろ? でも、俺は知らない。しっぽがないからな」
ぺし、ファナがしっぽで地面を叩いて笑う。
「ファナがマホウツカイで、リトが普通のヒト?」
「そう。でも、俺に突然しっぽが生えたとして。それがふとしたときにぴくっと動く。つまり、なにかのきっかけで、普通の人にもできてしまうことがある」
「それがノロイ?」
「うん。あんまり恐ろしいことを強く思うと、力になってしまう、ってな。ま、ファナはいい子だから大丈夫だよ。それに、そこまで思い詰める前に相談できる人いるもんな」
「っ――うん!」
♪♪♪♪
「ところで、なんで呪ってやる、だったんだ?」
「えっと。ファナがリトのこと大好きだねってみんなに言われて。あんまり好きすぎたらノロイになっちゃうよって。でもノロイになったら、そこまで強い想いだって証明になるよねって」
夕日の色に頬を染め、お日様の笑顔を浮かべる。
「だから、ノロっちゃうくらいもっとリトのこと好きになるって、言いたかったの」
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
「呪ってやる」「祝ってやる」というよくあるアレです.
もっとも,ファンタジーなので漢字ネタ(形が似てる)を使えないので,
いつものファナ的解釈の話になってますが.
某ライトノベルのヒロインが「呪ってやる」って言ってましたね.
それでは次回,
『57……ファナがシエル』
リトのこと大好きなのっ! に、二重の意味で!!――というお話です.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.




